SS 天井裏会議【ヴェロー目線】
オレにはたぶん、オーラリネリア人以外の血が入っている。
たぶん、というのは単純に覚えていないからだ。とはいえ黒髪はオーラリネリア人の特徴ではないから、そうなんだろうなぁとは思う。最も、この黒髪が疎まれて捨てられたのだろうが。
でもそれが不幸だとは思わない。お陰でクレセリアと出会うことができたのだし。零には拾ってもらった恩もあるっちゃあるけど、誰にでも化けるし腹の中は真っ黒。できればなるべく話したくない。縁が切れてせいせいしてる。
「や、なんか難しい顔してるね」
天井裏、オレに声を掛けてくる人なんて知れている。
「せんぱぁい。クレセリアから無視食らってるんですよぉ」
えぐえぐと泣き真似をしてみせれば、はははと苦笑する。先輩は零と関わりがない珍しい隠密だ。同じ黒髪というよしみからか、昔から色々と目をかけてもらっている。お互いの素性を探るのはタブーだから名前は知らない。だが、七賢の第六席……ティリー・ウィリントン伯爵令嬢を警護しているのは明白だ。
「前はずっと無視されていたんだろう?」
「昔は無視されて当然でしたけどぉ。今はそうじゃないんでぇ」
「ああ、波乱万丈してクレセリア嬢に勝ったんだって? あんまり誉められた方法ではなかったけど、祝福するよ。おめでとう」
「ありがとうございます。いっそ先輩もここらでティリー嬢にアプローチしたらどうですか?」
「え、無理」
即答だった。だろうなとオレも思った。ウィリントン伯爵も、隠居した元伯爵も、ティリー嬢が可愛くて可愛くて仕方のない巨漢だ。気弱な先輩はまず気概で負ける。
オレは深い溜息をついた。
「先輩は偉いですよねぇ。なんで好きな娘の身辺警護してて話しかけてみたいなぁとか欲が出ないんですか」
「普通そんなもんだよ。後輩くんが元々破綻してるんだよ。隠密向いてないよ本当」
先輩は出会った頃からオレにそれを言い続けている。最初は反発もしたが、最近わかった。オレ本当に隠密向いてない。
「あー、話したい。触りたい。甘やかしたい。なんなら泣かせたい」
「気持ちはわかるけど落ち着いてくれるかな……? 後輩くんのどす黒いオーラのせいで僕の存在までバレる可能性あるから……」
「そこでドン引きしない先輩マジ尊敬します……」
「まあ、ね。普段強がって頑張っている人が弱ってるとこってそそるから……」
ティリー嬢は強がって頑張っているというより、なにも考えてなくてあっぱらぱーなイメージが強いのだが、それは言わないでおく。もしクレセリアがそんな風に言われたら……そういうことだ。
オレにとってクレセリアは薄氷の上を歩いている女の子だ。心を鎧う氷が薄すぎる。なんてことない顔をして歩いているかと思えば、足元のヒビに気づかず落っこちる。
傷ついていることに気づかないのだ。
今は泣くほどどん底に落ちてもオレが助けてやれるし、傷ついていたらフォローもしてやれる。その立場を手に入れた。それは相当苦労した。クレセリアのお父さんも苦笑するほどの苦労。
「……なのにこの仕打ちはなんだ……!?」
結界まで使ってクレセリアはオレを閉め出している。リーンと一体なにをしているのか。あれが女性でなかったら半殺しにしている。いや、今もしそうなのを耐えている。
またどす黒いオーラとやらが出てしまっていたのか、先輩はどこかに消えていた。




