亡霊はすぐ側に
反乱を鎮めたことを報告すると、王からどこかで三日の休暇を取るように言い渡された。第二席は昔の部下を殺されたと文句を言っていたが、殺される程の理由を作る方が悪いと一蹴してやったら口を閉ざした。
そして第七席とリーンには礼をするべく、グランヴェロー領で採れた薬草等を持っていった。
「いやだから、男子寮にホイホイ入ってくるんじゃねぇよ」
第七席には小言を言われたものの、追い返されはしなかったしむしろ珍しい薬草があったようでほくほくしていた。私は詳しくないので領民に見繕ってもらったのだが、第七席が喜ぶくらいなのだからいい目利きをしていたのだろう。
「でも聞きましたよ。首謀者のナインさんは殺してしまったんですよね……?」
リーンが気遣わしげに言うと、第七席は薬草の仕分けをしながら鼻を鳴らした。
「当然だろう。領主殺しに反乱までやらかしたんだ。殺されたって文句は言えない。正しい選択だったと思うぜ」
「ちょっとレオン? 慰めるにしたってその言い方は良くないと思うな?」
あわや夫婦喧嘩が勃発しそうな空気だ。私は茶を慌てて飲み下して口を挟んだ。
「待て。勘違いするな。お前も天井で笑い転げている場合か」
「「え」」
第七席とリーンが揃って天井を見上げると、堪えられなくなったのか笑い声が降ってきた。
「ご、ごめんごめん。まさかオレがよその夫婦の喧嘩の原因になるとは思わなくて」
「おっ、お前死んだって! 死んだって!」
第七席が怒っているんだか驚いているんだかよくわからない顔で声のするところを指差した。
「え、やだなぁ。クレセリアはそんな薄情じゃないよ。零とすっぱり縁が切れるように『ナイン』という存在を抹殺しただけだよ?」
歌うように、楽しそうにころころ笑う。零は七賢になるだけあって、裏社会では有名な人物らしい。関係を切るには建前でも『ナインは死んだ』ということにするほかなかった。
「と、いう訳だ。名前がないと不便なので、ヴェローの名をくれてやった。だからこれからはヴェローと呼んでくれ」
「建国に関わったお偉いさんとおんなじ名前ってのはプレッシャーだけどねぇ。まあクレセリアがくれた名前だし気に入ってるよ!」
「私専用の隠密だ。第七席とリーンには借りもある。なにかあったら貸してやる」
一通り説明すると、第七席は深い溜息をついて薬草の仕分けに戻った。リーンがくすくす笑う。
「ありがとうございます。レオンもあんな感じですけど、ホッとしたんだと思います」
「わかっている。大丈夫だ。……それで、リーン。ここでひとつ、相談があるのだが」
「……なんでしょう?」
声を落として顔を寄せると、リーンも同じく顔を寄せてくれた。
「その、私は三日の休暇をもらったのだが」
「はい」
「どこか……遊びに行ける所など、教えてくれないだろうか……。できれば、あまり人目を気にしないでいいところで……」
ごにょごにょと話すと、リーンは青い目をぱちんとひとつ瞬いてニヤリと笑った。
「ええ、いいですよ。よろしければ、お洋服なんかも選ぶのお手伝いしましょうか?」
「た、頼む……私はそういうのには疎くてだな……」
こうしてこそこそ話していると流石に天井では聞こえないらしい。
「ちょっとクレセリアー? オレだけ会話から弾かれてるの悲しいんだけどー? ねえー、無視しないでー?」
隠密とは思えないくらい騒いでいたが、これは絶対に聞かれる訳にはいかなかった。恋人が隠密というのもなかなか苦労するものだ。
――――
七賢議会の初代第三席を務めたクレセリア・グランヴェロー。彼女が結婚していたという記録はない。しかし娘が一人いたという記録は残っている。夫のことを訊かれると彼女は不敵に笑ってこう言ったという。
「私の夫は、亡霊のようなものだからな」
――――END
お疲れ様でした。
手直ししてたら少し伸びてしまいました……。
あとSS上げておしまいにします。




