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氷結姫

引き続き怪我成分あります。苦手な方はご注意を。









 領主邸の奥、グランヴェロー家の象徴とも言える道場にナインはいた。もう顔は隠していない。灰色の目を細めて笑っている。


「あーあ。ここまで辿り着いちゃったか。残念」


「そういう台詞はその締まりのない顔をやめてから言え」


 ドォン……と私の背後から爆発音がした。粉塵爆発の罠を駆け抜けて来たが、少し離れたところにも火薬かなにかが仕掛けてあったのかもしれない。


「あ、安心していいよ。道場に仕掛けはしていないから」


「だろうな」


 ずっと探っていたが、どこにも殺気はない。いるのはナインだけ。


「オレの全力、どうだった? 時間がなくて急拵えだったんだけど。それとこれ、落とし物」


 ほいっと投げて寄越したのは私の髪留めだ。苦々しい思いで受け取って適当に髪を束ねる。


「……訊く必要ないじゃないか。それに私のナリを見ればわかるだろう」


「うん。予想よりも苦戦してくれたみたいで嬉しいよ」


 全力とは言ったものの、ある程度加減はしてあったのだろう。私が道場まで……ナインのところへ辿り着けるように。そしてそのやり方には覚えがあった。父が母を負かした時の話だ。もう少し穏便な方法ではあったが、父は策略を巡らして母に勝った。


「父は、なんと言っていた?」


 訊くと、ナインは一瞬固まった。だがすぐに隠した。


「『ちょっと過激すぎやしないかい? まあこのくらいする男じゃないとあの子はダメかぁ』って呑気に言ってた」


 違っていて欲しかったが、やはり父も一枚噛んでいたらしい。勝手なことをしてくれる。

 私は剣を構え直した。形成した刃は一番扱い慣れている、やや幅広の片手剣。制服に施してある身体強化魔法も合わせて調整する。


「それだけ聞ければ、もう話すことはない」


「うん。行くよ」


 私が床を蹴ると同時、ナインの姿が消える。常人なら見失う速度。だが私は体を反転して向かって来る五本のナイフを弾いた。最後の一本は迫ってくるナインに向けて飛ばしたが、ナインは避けた上に通りすぎざま左手でキャッチし、右手で刀を振り抜いた。


 がキィン!


 刃を合わせると金属同士よりも鈍い音がする。ナインも身体強化魔法を使っているのか、右手一本で私の両腕と鍔迫り合いをしてみせる。そして左手で先程掴んだナイフを死角から繰り出した。


「っふ!」


 ナイフが腹に刺さる寸前で私は蹴りを一発入れて距離を取った。ナインも無理に追撃はしてこない。氷の刃と合わせたせいで刀の半分が凍りついている。もう少し合わせていたら手首の辺りまでは凍らせられただろう。

 呼吸を整えている間に私は魔法の詠唱を行っていた。終わると同時にもう一度駆け出す。ナイフを投げて来たが顔を僅かに動かして避けた。振り下ろした刃を今度は刀で受けずに横に跳ぶことでかわす。追撃しようとすると足が引っ張られた。


「なっ」


 先程投げたナイフが光り、水の縄を伸ばしていた。水の縄はすぐ消えたが、隙を作るには十分だった。空気を切り裂く音。不可視の風の弾丸だ。複数あるため正確な方向がわからない。防御結界魔法で防ぐ。

 だが、これも囮だ。

 私は結界を解くなり、深く沈んで氷の刃を横凪ぎに振るった。確かな手応えがあった。


「がっ……!?」


 どごっ、と後ろに吹っ飛んだナインが仰向けに倒れた。腹が血塗れになっているが、胴体は繋がっている。咄嗟に後方へ跳んだらしい。でなければ即死だっただろう。

 私は近づいて、その首元に剣先を当てた。


「覚悟はできているか」


 ナインはひとつ咳をして血を吐いた後、笑った。それが合図だった。


 私は剣を振りかぶり、躊躇なく振り下ろした。








私、割とこういう真っ当じゃないコミュニケーション好きなんですよねぇ………。



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