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言葉なき対話

今回は若干怪我成分がちらちら出てきます。苦手な方はご注意を。









 遠く、戦いの音が聞こえる。


 領へは単身で向かい、領兵を使って反乱を鎮めるつもりでいたのだが、実際は近衛三番隊が混じっている。というのも、私が不在の間指揮を預けた第一席が総員に休暇の指示を出してしまったからだ。「休暇ってなにをしてもいいんですよね?」としれっと言ってのける辺り、領兵に似てきた気がする。


 私は、目の前の領主邸を見上げた。


 数日ぶりの我が家は不気味なまでに静まり返っている。向こうが全力で殺そう(語ろう)というのなら、私もそれに応戦する(答える)まで。正々堂々と玄関に足を踏み入れた。


 次の瞬間、挨拶代わりにナイフが飛んできた。屈んで避けるとナイフは花瓶に直撃し、仕掛けられていた劇薬が噴き出す。私はそれを難なく凍らせた。玄関ホールを縦横無尽に走っていたピアノ線を切断すれば、シャンデリアが爆発した。防御結界を張って防ぎながら、ふっと口角が上がってしまった。


 楽しんでいるな、ナイン。


 随分な歓待だった。わかってしまう私もなかなかイカれているのかもしれない。階段を駆け上がれば、絵に仕込まれていた魔法が発動して水の縄が飛んでくる。水を使った拘束魔法は凍らせるより魔法陣を消した方が楽だ。躊躇なく絵を切り裂けば、左右から踊り来た人形が爆発して鉄の刃を撒き散らした。

 詠唱が間に合わない。剣で払い落としながら体を捻って避ける。


『はいこれ。プレゼントだよ!』


 誕生日の度に人形だとか可愛らしい小物だとかを置いていった。そんな、普通の女の子が貰うようなものを寄越して私が喜ぶとでも思っているのか、と思っていたが。


「っく!」


 避けきれなかったものが右肩を掠め、左腿に刺さった。即座に抜いて毒を血液ごと体外に出す。腿の傷を治癒魔法で応急処置。二階から見た玄関ホールは無惨に変わり果てていて、少し滑稽だった。シャンデリアの照明魔法の残骸が雪のように舞っている。祝い事の時に撒く紙吹雪のようだ。


「……ふん」


 一呼吸つくと、私はまず自室を目指した。道中、上下から風の刃が迫って来るのがわかったので、宙返りの要領で避けた。しかし背中でざくっと音がして、三つ編みの先が持っていかれた。振り向けば切り落とされた髪に髪留めが残されているのが見えた。構わずドアを開けるが、自室に罠はなく綺麗に残されている。

 最も多くナインに挑まれた場所だ。


『なんで起きちゃうのさー!』


 文句を散々言われた。布団で簀巻きにして床に転がしたことだって何回もある。その時だって私はナインの素顔を見たことはない。見ようと思ったこともなかった。ひたすら無関心を貫いて。

 無関心?

 私は人と関わるのを避けていた。幼い頃に体質のことでからかわれては人目を忍んでぴぃぴぃ泣いて、それもナインに見つかってできなくなっていって。母が死に、代わりに戦場へ出向いては敵を討った。


 私が心を凍らせたのは、果たして何の為だったのだろう。





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