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パーティー結成

 修業を終えて二日の間、オルレオは努めて普段通りに過ごすことを心がけていた。朝起きれば素振りを行い、朝食前に依頼板クエストボードに張り出された採取依頼を二つほど受領すると冒険者ギルドに行き、ギルドの発行する討伐クエストを受けた。


 エテュナ山脈の方からあふれ出てきた魔獣が多くいるのでギルド発行のクエストは数も多く、オルレオは小鬼ゴブリン退治と百足蜻蛉ヘクトネウラ退治のクエストを同時進行でこなすことにした。


 百足蜻蛉は多くの脚を持った大型の蜻蛉トンボで、オルレオが以前エテュナ山脈で受けた任務ミッションにおいて倒したことのある魔獣だ。


 オルレオは一泊二日、野営込みで規定数の魔獣を狩り、空いた時間で採取依頼を完遂して街へと帰ってきた。ギルドに依頼達成の報告をし、宿に戻ってマルコに採取物を納品して、オルレオは寝床についた。


 翌朝、オルレオは素振りを終え、のんびりと朝食を摂り終えたらそのままの足で冒険者ギルドに向かった。今日は、エテュナ山脈での任務報酬を受け取る日だ。


 そして、もう一つ、大事な用事があった。


「おう! ようやく来たか!」


「我々が早く来すぎていただけですよ、モニカ」


 うるせえな、とモニカが文句を言うところまでを聞いて、オルレオは二人の顔を見た。


「おはよう、待たせたみたいで、ゴメン」


 本当のところ、オルレオは二人よりも先に来て待っておくつもりだったのだ。のんびりと宿を出たと言っても、鐘が三つなってからそうまで時間が経っていない。オルレオがココに来たのだって早すぎるくらいの時間なのだ。


「おぉ……おはよぅ、オルレオ」


「おはようございます、オルレオ」


 二人の挨拶の後で、わずかな躊躇いが生まれて、誰も言葉を発せなかった。


「それで」


 沈黙を破ったのは、ニーナだった。


「この間の答えを、聞かせて、もらえませんか?」


 声には緊張からか、不安からか、かすかな震えが混じっていた


「ちょ……いきなりすぎるだろ?」


 こちらも同じく、普段の勝気な様子とは打って変わって、小さく頼りなさそうな態度でモニカがニーナの袖を引いた。


「あぁ、うん」


 そんな二人を見て、オルレオは腹に力を込めて、言った。


「俺を二人のパーティーに入れてほしい」


 瞬間、パッと晴れ間が広がるようにモニカが笑い、ほっと安らぐようにニーナが息を吐きだした。


「本当か? 本当だな!? 嘘じゃないな!? 嘘だったらマジで怒るんだかんな!!?」


「こんな場面で嘘を言うわけがないでしょう、モニカ……ああでも、良かった!」


 二人が手を取り合って喜ぶのを見て、オルレオも胸のつかえが取れたように肩の力を抜いた。


「だったら、ほら! さっさとギルドに入ろうぜ! パーティーの申請しなくちゃなんないしな!」


 行くぞ、とモニカがオルレオの手首を取って、ギルドの中に向かって走り出し、オルレオはその手が外れてしまわないように、速度を合わせて建物の中へと駆けていく。その途中で反対の手をニーナに握られてしまい、オルレオは二人に挟まれるようにしてギルドの扉をくぐることになった。



♦♦♦



「いや~、びっくりしましたよ? 『オルレオさんが、モニカさんとニーナさんに、連行されてきた』なんて言われて呼び出されたので、一体全体、何事かと思って……」


 普段の個別ブースや奥の部屋の応接室ではなく、ロビーに面した円形テーブルの関に案内されたオルレオ達は、後からやってきたクリスに事情を説明していた。


 クリスは、任務の達成報酬の準備をしていたところで急に呼び出され―それもモニカとニーナがオルレオを引っ張って来たなんて内容だったせいか、血相を変えて飛び出してきたのだ。


「ワリィ! ワリィ! なんかこう、テンション上がっててな!」


 モニカが全く悪びれずに宣うと、ニーナが顔を赤くしてうつむいた。


「私は人前でなんて目立つことを……」


 そう、オルレオ達がギルド前やギルドに駆け込んでいく様子は多くの人たちの注目を集めていたのだ。なにせ、この街では有名な女性冒険者コンビと図体のデカいオルレオがそこにいるだけでも目立ってしょうがないのに、あまつさえパーティーを組むと言い始めたではないか。


 今でも、冒険者ギルドのロビーでは、ひそひそと話し声が聞こえ、何人かはこちらに聞き耳を立てている。


「まあ、過ぎたことはしょうがないので……」


 コホンと咳ばらいを一つして、クリスは話を切り出した。


「まずは、パーティーへの加入ということになりますが、オルレオさんが4等3位、モニカさんとニーナさんが3等2位ということで、上位パーティーへの加入となります」


 確認を取るようにオルレオを見つめるモニカに、オルレオは頷きを持って次の言葉を促した。


「同パーティーになることで、本来なら差がつく報酬については均等になります。しかし、パーティーで受けた依頼や任務いついては、オルレオさんの評価が少しだけ割引いておこなわれることになります。これは昇級や昇格に影響しますので注意してください」


 これに異を唱えるように、モニカが眉を立てた。


「あん? なんだってそんなことするんだよ? 今までオルレオと任務こなしたときはそうじゃなかったじゃねーか?」


 この言葉に心底同意するようにクリスが深く首を縦に振った。


「そこは、まあそうなんでしょうけど、何分規則なもので、下位の冒険者が上位の冒険者のパーティーに入っているとなると……」


 クリスの言葉が言いにくそうにそこで止まり、その意図を汲み取ってニーナが声に出した。


「“上位の冒険者に手助けされている”と捉えられてしまうわけね」


 なるべく穏当な表現でそう言うと、クリスが「はい……」と申し訳なさそうに頷いた。


「なら、パーティーで動かずに、俺一人で依頼や任務を受けた場合はどうなるの?」


 オルレオが問いに、クリスはパラパラと資料をめくり。


「ええ、と、その場合は、オルレオさんが個人で受注されていますので通常の評価になります」


 ふむ、とオルレオは少しだけ考えて、すぐに思いついたことを言葉にした。


「じゃあ、三人でそろって依頼を受けたりもするけど、俺が二人に追いつくまでの間は、ちょくちょく別行動で依頼も受けたりするって感じでいいか?」


 そのオルレオの提案にモニカとニーナは少しの間、顔を見合わせた。


「無理をしないこと、休息を十分にとること、一人で行くときはきっちりと事前準備をすること、身の丈にあった依頼を受けること、これが守れるなら私は文句をいいません」


 ニーナがオルレオに告げる。


「おまえ、母親じゃないんだから……」


 呆れたように声を上げるモニカに、逆に「何かないか」とオルレオが問いかける。「そうだな」とモニカは少しだけ考え込んで、笑った。


「なら、アタシが持ってる3等級への最速到達記録を打ち破れよ! それだったら、ギルドの奴等も下手な文句は言えなくなるだろ?」


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