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事後処理と呼び出し

 ブレスクスを撃破し、ゴーレムたちの動きを封じた後は、特段苦労をすることはなかった。残ったゴーレムを潰し、その破片を通り道として開けられた大穴に詰め込んでエリーの錬金術で封鎖。


 後は、三人で手分けしてやるべきことをやったらおしまいだ。地霊硝を採掘したり、余ったゴーレムの破片を集めたり、ブレスクスの魔石を回収したり……手早くやることをやって三人は採掘場を後にした。


 ちなみに、ブレスクスから何か素材が取れるんじゃないかとオルレオは期待していたものの、魔石を抜いてしばらくしたところで、ボロボロと残った身体が崩れていき、残ったのは小さな輝石だけだった。


 どうやら魔獣というのは魔石から血液中に魔力を流していて、そのおかげで本来ならあり得ない身体の造りを維持しているらしく、その魔力が途切れてしまえば、後にわずかな素材を残して崩れてしまうそうだ。


 エリーとイオネの説明を受けながら緩やかに坑道を登っていき、三人が地上に出たのは日が暮れる少し前のことだった。


 今日はもうレガーノまで帰るのは無理だと思ったオルレオ達は、いったんウルカ村に戻り、各ギルドの出張所に簡易の報告を済ませて、各々のギルドで用意された寝床で眠ることにした。


 だというのに、翌日の昼前にはレガーノの冒険者ギルドその応接室にオルレオの姿があった。


 朝の鍛錬をしていたところで、ギルドの職員から声を掛けられ、そのまま馬車に乗せられて超特急でレガーノまで戻ってこさせられたのだ。もちろん馬車の中ではイオネとエリーも一緒だったのだが、二人もそれぞれの所属ギルドへと引っ張って行かれた。


 さて、どうして自分はこんなところに呼び出されたのか。という当然の理由を脇に置いて、オルレオは柔らかめのソファに腰かけつつ軽食付きの紅茶を楽しんでいた。先ほどまで硬い馬車の椅子で揺られて尻を痛めていたし、朝食もまともにとっていなかったのだ。余計なことを考え込むよりここは遠慮せずにいこう。そんなのんきなことを考えつつ、オルレオはゆったりとすることにした。


 すると、ほどなくして部屋の扉が無遠慮に開け放たれた。


「数日ぶりだね、オルレオ。まさかこんなに早く、またこの部屋に呼ぶことになるとは思わなかったよ」


 嬉しそうな楽しそうな響きをたたえながら、口を弓なりに描いたギルドマスター、フランセスの姿がそこにはあった。


 ずかずかとオルレオの対面まで歩いて行ってそのままどっかりと座り込み、軽く手だけで人払いを支持するフランセス。部下たちもそれをよく理解していてフランセスが席に座った瞬間に机の上にティーセットと軽食をスッと並べて音もなく部屋から出ていった。


「で、だ。昨日何があったのかを一から説明してもらえるか?昨日の報告である程度は聞いているが詳しく聞いていきたくてな」


 フランセスが背をソファに預けながら、オルレオに説明を求める。そうしてオルレオは昨日の出来事、特にタティウス坑道の採掘場でのことをゆっくりと話し始めた。


 オルレオが説明を始めていくと、ところどころでフランセスが話しを止めて疑問に思うところを聞いていき、それが終わればまたオルレオが続きを挟む。


 話しているオルレオがわからすると説明が途切れてしまいどうにも話しにくい感じがするのだが、フランセスからすると、オルレオの説明というか報告は大事な部分がすっぽかされていたり、あいまいだったりで聞きづらいことこの上ないらしい。


 結局、フランセスがオルレオの体験をしっかりと理解したのは鐘一つ時《約2時間》が経ったころだった。


「……ふう、報告を聞くだけでこんなに苦労したのは久しぶりだったな」


 すっかりとぬるくなってしまった紅茶を口にしながら、フランセスはたまった精神的な疲れを吐き出すようにため息を吐いて脱力した。


「……そんなに説明下手でしたか?俺?」


 対するオルレオは首を傾げながら自分を指さしていた。まったく意味が分からないとでも言いたげな表情をしていることから、自覚は全くないのだろう。


「話下手、とでも言えばいいのだろうな。おまえは自分が実際に見て、聞いて、体験したからこそなんとなくの説明でもわかると思っているのだろうが……あいにく、私はその場にいなかったのだ。だからこそ私はお前から話を聞いて出来る限り想像するしかないのだが……」


 そこまでを言って、もう一口、紅茶で唇を湿らせた。


「おまえの話ではうっすらと輪郭はなんとなく想像できてもその中の部分が全くと言っていいほどわからん。だから合間合間に口を挟ませてもらった」


「ってことは、もう少し詳しく話せばいいんですかね?」


 オルレオの問いかけに、フランセスは一つ頷いて。


「それもそうだが、相手にも想像できるだろうか、と考えながら話していくんだ。余計な情報を付け足しても無意味だからな」


「難しいですね。報告って」


 ふっと、フランセスにしては珍しく柔らかな笑みを浮かべた。


「なに、要は慣れの問題だ。色んなヤツと話していくうちに覚えるだろうさ」


 今までにないやさしげな声にオルレオはゆっくりと首を縦に振った。


「ま、なんにせよ……おまえの報告のおかげで事態がより厄介なことになっているのは明確になった。これから忙しくなりそうだ」


 その優し気な声と柔らかな笑みを消して、ひどく疲れた声とうっとうし気な表情でフランセスは一人呟いた。


「どういうことです?」


 その呟きを聞き逃さず、オルレオは正面からフランセスに聞いてみた。


「ふん……?」


 少しの間、フランセスは考えるようにあごに手を添え。


「まあいいだろう! フランセス先生の魔獣講座と洒落こもうか」


 少しだけ楽し気な笑みを浮かべてフランセスは高らかに指を鳴らした。

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