タティウス坑道7
「さいっあくのタイミングだねぇ」
イオネがどこか気の抜けたように言うもののその声には震えがにじんでいた。
それも無理からぬことだろう。大穴から出てきたゴーレムの群れはざっと見ても二桁は余裕で越えている。今は増援が途切れた状態ではあるが、今後も増え続ける可能性は残っている。
しかも位置が悪い。
岩喰らい鰐とゴーレムの群れの間にオルレオ達3人は挟まれてしまったのだ。
「あれって多分、あのワニが開けた穴よね。さっき倒したゴーレムもあそこから来たんだわ……」
対してエリーは落ち着いた様子で小さくこぼした。そのままあちらこちらへと視線をさまよわせて、何かを考え込むように黙り込んでしまった。
「速攻であのワニを倒すから、それまで耐えられるか?」
逃げる選択肢は、取ることが出来ない。逃げるならば戦い始める前でなければならなかったのだ。
なんせ、目の前にいるブレスクスは翼竜のような生き物とは違う、魔獣なのだ。ここで逃がせば敵に強くなる時間を与えてしまう。
しかも場所が悪い。戦って傷を負ったブレスクスはこの場にある地霊硝をエサにして身体を癒し、下手をしてしまえばランクアップして手に負えない強敵に変貌してしまう可能性もある。
(ここで、倒し切らなくちゃ……)
その思いと責任がグッとオルレオの手に力を加えた。
「多分、大丈夫」
その答えはエリーから返ってきた。
「ねえ、イオネ。悪いんだけどさ、砕けたゴーレムの破片を新しく来たやつらの足元に散らばせてくれないかな?」
「え、うん、いいけど……どうするの?」
きょとんとした様子で聞き返したイオネへと、エリーは不敵にほほ笑んで、
「決まってるでしょ?錬金術師なんだから、錬金術を使うのよ!!」
堂々と言い放った。
「あとオルレオ!何とかあのデッカいワニみたいなのをあの場から遠ざけてくれない?」
「いいけど……どうして?」
今度はオルレオが戸惑う番だ。
「あいつの足元にある地霊硝が欲しいの!」
「ああ、さっきあいつが吐き出した……」
「そう!お願いね!」
その一言が、戦闘再開の合図になった。
バッと真っ先に駆けだしたのはイオネだった。近くにあったゴーレムの残骸に近づくと持っていた鉄槌を器用に下から振り上げて打突し、一気に打ち飛ばした!
残骸が音を立ててゴーレムのうち一体に衝突し足下に散らばっていく。
しかし、相手もそのままジッとしているわけではない。散開して3人を包囲するように動き始めるゴーレムども。
まだ造られたばかりなのかぎこちなく鈍重な動きなのが幸いだが、それでも自由に動きまわられては厄介この上ない。
その足を止めさせるように、エリーが残っていた氷霜珠を一斉に投げつけた。パリンという軽快な音が割れるたびに氷が生まれて地面とゴーレムを縫い付けていく。
凍り付いたゴーレムを後回しにしてイオネは鉄槌をもってゴーレムと対峙する。その横でエリーは、オルレオを横目に納めながら杖を掲げてゴーレムを封じている氷を強化していく。
「なるべく早く頼むわよ……」
視線の先で、オルレオが動き始めた。




