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ドロップ

 荒れ狂う颶風ぐふうが大牛の体内で炸裂し、周囲に血の雨が降った。首は半ば以上が吹き飛んで中身も晒し、頭と胴体がわずかな肉と皮膚だけでつながっているような状態。


 それでも大牛は生きていた。


 死に体で、ろくに戦いようもないというのに右前脚で地面を掻き、再度の突撃に移る意志をこれでもかと見せつけてくる。


「……っこんの!!!」


 いち早く反応したモニカが頭を斬り落とそうと力を込めて剣を引く。その直後、ボツリと手ごたえもなく頭は地へと傾いていき。


 身体だけが、一挙に飛び出していった。


 首なしの大牛が力果てる前にくり出した決死の一撃。見えていないはずなのにまっすぐにオルレオへと襲い掛かるその姿に、オルレオは恐怖や不気味さを感じるよりも早く、祈るように両手で剣を掲げた。


 迫りくる大牛。


 それを直前までひきつけるようにオルレオは力を溜めて構えを維持し。


「ッォオオォオオッ!!!!」


 寸前、掠めるように回避しながら全霊の袈裟斬りで大牛の右前脚を切り落とし。


「ッラァァアアア!!!!」


 踏み込んだ足から全身を跳ね上げ、返す剣で大牛の右後ろ肢を斬り上げて宙に舞わせた。


 再度の血は、降らなかった。


 文字通り最後の力をふり絞った突進だったのだろうか。斬り落とした脚はオルレオの目の前で、きれいさっぱりと何も残さずにあっという間に消えてしまい、大牛の身体もその多くの部分が魔力の欠片として細かな粒子となってかき消えていってしまう。


 しかし、残ったモノがあった。


 魔石だ。


 ゴブリンのモノとは比較にならないほどの大きな魔石がゴトリと大きな音を立てながら胸の中から零れ落ちてきたのだ。


 どうみても人の頭ほどの大きさがありそうなその魔石はまるで大牛の皮膚の様に真っ黒で日の光を反射して照り輝いていた。


「デッケぇ……」


 三等級として活躍していたモニカですら初めて目にするようなその大きさに思わず声がこぼれた。


「? これって……」


 そんな魔石のほど近く、ふわりと音も立てずに地面に広がったものをオルレオは手に取った。


 人一人が容易にくるまれそうなほどに大きなソレは硬くそれでいて伸縮性があってびっしりと艶のある黒い毛に覆われていた。


「革?」


「角も残ってましたよ! それも二本!」


 首を捻りながら確認していたオルレオに、ニーナが実に嬉しそうに声をかけた。その両手には先ほどまで大牛の頭部に生えていた大きなツノが二本ともそのままの姿で形を残していた。


「マジかよ!?」


 魔石を抱えたモニカがこちらに駆け寄ってくるのを見ながら、オルレオは首を傾げながら。


「普通、魔獣って倒したら魔石以外なにも残らないんじゃないの?」


 今までの経験ではそうだったし、ギルドマスターであるフランセスからもそんな話を聞いていた。それでもオルレオは自分の手の中にあるやけにしっかりとした感触をした黒革や、ニーナが握ったツノが、脆く崩れそうなものではなく、現実に存在していることを疑問に思った。


「“ドロップ”見んの初めてか?」


 モニカが不思議そうに問いかけてくるのを見て、オルレオは首を縦に振った。


「魔獣、それもある程度以上に強い存在は、死してもその身体の一部をこの世に遺すことがあるんです」


「そいつが、今オマエとニーナが持ってる“ドロップ”って呼ばれる素材のことな、結構高く売れるんだぜ?」


「ほとんどが魔力で出来ているせいで特殊な処理が必要になりますが、優秀な武器や防具の素材としても使えるんですよ?」


「へぇー! そんなこともあるんだ」


 モニカとニーナの説明にオルレオが感心したように声を挙げた。


「ま、今回のドロップはあれだ、オマエの装備に回さねーとな」


「ですね、盾も壊れてしまってますし」


「え? いいよいいよそんなの! 売ったお金で山分けにした方が……」


 そう言って遠慮したオルレオを、モニカとニーナの二人は何言ってるんだコイツと言いたげな目で見ていた。


「オマエ、自分の状態分かってねーの?」


「一度、自分の姿を確認した方が良いかと……」


「姿ってそんな……え?」


 オルレオが下を向くと、そこにはバッチリと一文字の赤線が引かれていた。


 胸をツノが掠めていたのか皮膚を裂いて出来た真新しい傷。出血はほとんどなくて痛みも今のところ薄いがそれでも随分はっきりと刻まれてしまっていた。


「っていうか!! ない!! 胸当て!!」


 そう、傷がついた胸がもろに見えるということは、そこにあるべきはずの防具がないのだ。かろうじて鎧下に着込む厚めの綿シャツが残っているだけでそれ以外は欠片も残っていない。


 バッと、大牛と攻防を繰り広げた辺りを見てみれば、そこには主人を守り、引き千切られて無残な姿で転がっている防具の姿。


 その姿を見て、オルレオはサっと血の気が引くのを感じていた。一歩間違えていれば、自分がああなっていたかもしれないのだ、と。


「ま、これで分かったと思うけど、オマエは盾と防具と新調しないといけないってことで」


「それに丁度良い素材がドロップしている、ということです」


「いや、でも……」


 それでも、オルレオが遠慮しようとしたところで。


「デモもストもねーっての、このドロップは全部オマエの盾と防具の素材で決定な!!」


「私たちを守ってくれるオルレオの防具が良くなってくれることが結局は私たちの安全にもつながりますので、ね」


 二人の有無を言わせぬ圧力に、結局オルレオは頷くことしかできなかった。

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