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LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
7/18

文武両道

俺たちLP学園は、甲子園で夏の高校野球大会を観戦した。甲子園を出て、国道43号線の高架下広場で、酔っ払ったオジサンに絡まれてしまった。俺たちが、かつての名門LP学園と知ってからかってきた。


今の時代は、騒ぎになると今後の活動に影響しかねない。穏便に済ませなければならない。と、その時に近くで見ていた男性が、


「LP学園は高校野球界の宝だぞ。からかうなんて、承知しないぞ! 俺がキレる前に帰れ!」

酔っ払っいオジサンを一喝してくれた。オジサンはびっくりして逃げていった。


「LP学園野球部監督の前田です。助けていただき、ありがとうございました」

その男性に丁重にお礼を伝えた。


その男性はニッコリして、

「元巨人の前田さんですよね? 僕は前田さんの大ファンです! 前田さんの生き様に惚れたんです」


おー、アツイ男性だな。照れるじゃないか。


「その前田さんが、LP学園野球部の再興を託されたというニュースを聞いて胸が高鳴りました! 今日、監督と部員の皆様に会えて興奮して、出過ぎたマネをして申し訳ありません」

男性の目はキラキラしていた。

そしたら、他の方も、


「○○桐蔭や○正社も良いけど、オールドファンはLP学園の復活も見たいですよ」


更に他のファンからも、声をいただいた。

「そうですよ! あなたたちが甲子園に帰ってくるのを楽しみに待っていますよ!」

「ガンバレー、LP学園!」


多くの人々から暖かい言葉を掛けられた。

キャプテンの古屋が、

「皆様、ありがとうございました。僕たちは必ず甲子園に出場チームとして帰ってきます!」

堂々と宣言している。


たまたま居合わせたスポーツ紙の記者に取材も受けた。予想外の展開でびっくりだが、部員たちは楽しんでいる。現代っ子は度胸もあるんだな。


「名門LP学園再始動」

スポーツ紙の見出しにデカデカと載った。写真に俺が写っている。妻が、そのスポーツ紙を10部も購入した。


「健一が、LP学園の監督になってから初めてスポーツ紙に載った記念にたくさん買ったよ。もうちょっと顔を上げていたら、もっとカッコ良く写っていたのにね。いや、肩を右に傾けた方が良かったかな?」

俺はどっちでも良いけど……


多くの人々の期待を背負って、前に進むんだ。自分が現役選手の時代とは違う種類の重圧だ。


部員たちは、当たり前だが、高校生なので野球ばかりするワケにはいかない。理想は文武両道だ。


しかし、部員の中には勉強が得意ではない者もいる。というか、苦手なヤツが多い。俺は、野球部監督として、部員が留年する事があってはならない。


かなりヤバイ部員がいる。なんとかしないと、そいつは部活動どころではなくなる。俺は一念発起した。


「俺がお前に特別指導をする。お前が特に苦手な英語を教える。安心して俺について来い!」


その部員は驚きながら、

「監督、英語出来るんですか?」


俺は自信たっぷりに、

「余裕だ! 大船に乗ったつもりでいろ」

言ってしまった……


それから、俺は毎日、ラジオの英会話講座を聴くことにした。部員には大きな事を言ったけど、自信はあまりない。


しかし、高校生だから勉強も大事だ。野球だけじゃなくて、人格形成も俺の仕事だ。やるぞー!


「健一ダメじゃない。それじゃあ、教えられないよ」

妻にダメだしされた。妻は学生時代に英語が得意だったらしい。


俺は睡眠時間を削って、英語を勉強した。若い頃より記憶力も落ちていたが、必死に頑張った。そして野球部の練習が終わってから、その部員に英語を教えた。


俺の熱意に押されて、その部員も真面目に取り組んでくれた。

「監督、僕は今まであまり勉強してこなかったけど、英語って楽しいですね。大学は、京大を目指します。京大野球部に入ります!」


おぉー、そうかLP学園から目指せ京大一直線か。野球をやりながら、東大と並ぶ最高学府を目指すんだな。小説になりそうなサクセスストーリーだ!


その部員は、追試も無事にクリアできた。良かった。なにせ、野球部は9人しかいないから、一人でも欠けたら試合ができない。


俺は一安心したが、英語の勉強は続ける事にした。巨人時代には、英語ができなくて、外国人選手とあまりコミニュケーションを交わせなかった。


その時から、いつか英語をちゃんと勉強しようと思っていたんだ。でも勉強していると、妻のスパルタが容赦ない。

「健一、さっき言ったのにまた間違えているよ。もう一回やり直し!」


困ったら、俺はこう言うんだ。

「sorry but I love you」


妻はこんな風に返事してくれたよ、

「me too」


いい歳をして、こんなやり取りをしている俺たち夫婦だ。決して、部員たちに見せられない。


俺も高校生たちに負けないように文武両道を貫きながら、甲子園を目指す旅を続ける。

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