表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
4/18

play of the day

LP学園の練習試合が始まった。一年生ばかりで9人ギリギリのチームだ。しかも、野球をしっかり習った経験がない選手もいる。


普通に考えれば、まだ試合は早いかもしれない。しかし、経験が乏しいからこそ、早い段階で、試合の緊張感を味わってもらおうと考えた。自分たちのレベルを分からせる為でもある。


しかし、相手はウチよりも明らかに強いチームだ。やっぱり、LP学園のブランドが強い相手を呼ぶのかもしれない。


ウチの選手たちは、名門LP学園野球部の再興という十字架を背負わなければならない。今の彼らには荷が重いが、その分、監督の俺がアイツらを守ってやらないとな。


そんな想いで選手たちを見ながら、試合が始まった。


現時点のウチのバッテリーは、ピッチャー山川とキャッチャー古屋だ。山川は一年生ながらフォークボールを投げるが、ほとんど自己流でやってきたらしく基礎的な技術も体力も不足している。古屋に至っては、キャッチャーの経験が全くなかった。


俺は、細かい指示は出さなかった。自分たちの思うようにやらせた。俺の注文はただ一つ、


「打たれても良いからとにかく、逃げるな!」


俺は、アマチュア時代から巨人にいた時までピッチャー専門だった。だから、山川がどうなるかある程度予想していた。


案の定、ストライクを取ることに苦労していた。試合でマウンドに上がると、思うんだ。ストライクゾーンってこんなに小さいものかってね。


キャッチャーの古屋は、どうするだろうか? 俺は、この試合で古屋のキャッチャー適性も見たかった。


古屋は驚きの行動に出た。

山川に向かって、大きな声で、

「ストライク入らなくてもいいぞ。お前の投げたいボールを腕を振って投げてこい!」

打者にも聞こえるように叫んだ。


制球に苦しむピッチャーに向かって、ボール球でも良いと言ったんだ。

この言葉で、明らかに山川の表情が変わった。苦しさ一杯から、穏やかな顔になった。


普通は、キャッチャーとして何とかしてストライクを欲しいと思うはずだが、古屋は違った。キャッチャー経験がないこの男から出た言葉に俺は興味がわいた。一回が終わってベンチに戻ってきた古屋に意図を聞いてみた。


すると、

「試合前に監督は、逃げるなと言っていました。その為には、ストライクを取ることよりも山川が腕をしっかり振ることが大事だと思いました。それに……」


「これは間違っているのかもしれませんが、苦しんでいる山川が可哀想になったんです。ストライクの重圧から山川を解放してやりたかったんです」


古屋よ、お前は凄いヤツなんだな。初めてのキャッチャーでそこまでピッチャーを思いやれるヤツがいるなんて!


ひょっとして、このバッテリーはLP学園の歴史に名を残す2人になれるかもしれない。俺は、ワクワクした。


他の選手も頑張っていた。守備では、もちろんエラーもあったが、ボールを怖がってエラーした選手はいなかった。みんな、必死にプレーしていた。


試合前に、野手に言っていた。

「自分の中でplay of the day と言えるプレーを何か一つやろう。ファインプレーじゃなくてもいいからな」


試合後、左翼手の選手に聞いてみた。この選手は、野球経験が少なくて、今日の試合でもエラーがあった。

「お前のplay of the day は何だった?」


その選手は、

「レフトからの返球で捕殺を狙いましたが、高く外れてバックネットを直撃しました。自分の肩に自信が持てました!」


他のランナーの進塁を許して、記録上エラーが付いたのに、この男にとっては、play of the dayだった。


コイツらは何て楽しい連中なんだ!

愛すべき教え子たちなんだなぁ。


試合は、7対1 で敗れた。

正直、もっとボロ負けすると思っていた。


ピッチャーの山川は、ファーボールも出したが、古屋のリードもあって、逃げずに腕を振っていた。たま〜に、フォークボールがキレイに決まったりもした。現段階では、よくやったと言っていいだろう。


このチームは、技術的にはまだまだだが、それでも名門LP学園の血を受け継ぐに相応しいヤツらだ。


試合後のミーティングで、

「今日は、とにかく良く頑張ったな。細かい事は、今後ビシビシと鍛えていくから今日は気にするな」


「あと、新チームのキャプテンだが、誰か立候補はあるか?」

俺は、みんなに聞いてみた。


すると、古屋が自ら、

「監督、僕にキャプテンをやらせてもらえませんか? 練習サボるヤツがいたら僕がカミナリ落とします!」


他の選手は笑いながら、

「キャプテン、お手柔らかに頼むぜ」

満場一致の拍手に包まれた。


少しだけ、チームとしての形が見えてきた。前途洋々とは言えないが、進むべき方向は分かった気がしてきた。

監督のやり甲斐も少し分かってきた。


俺は、ユニフォームのLP学園マークを握りながら気持ちを高めていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=319197083&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ