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LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
18/18

ピッチャー菊池

監督である俺が打席に立って、エース山川がインコースに投げる練習を続けていた。俺は何度もデッドボールを当てられているが、確実に成果は出ていた。後は、試合の中で経験を積むしかない。


守り勝つ野球を目指して、守備練習に重点を置いた。おかげで、守備力はみるみる上がっていた。特に凄いのがセカンドの菊池だ。


菊池の身体能力は、ずば抜けていた。同じ名前の選手が広島東洋カープにいるが、プレースタイルも似ている。LP学園の菊池は実はピッチャー経験がある。ストレートの球速はエース山川を上回っている。通常はセカンドを守らせていたが、控えピッチャーでもある。


俺はミーティングで、

「次の練習試合は、秋季大会前の最後の試合だ。先発ピッチャーは菊池でいくぞ。途中から山川に継投する。しっかり守っていくぞ」


山川はこれまでの練習試合で全て一人で投げていたので、先発を外れて悔しそうだ。対照的に菊池は嬉しそうだ。現在のところ、エースは山川だが、二人で競い合ってほしい。エースナンバー1は簡単に渡さないつもりだ。


菊池は初登板と思えないほど、マウンド上で落ち着いている。中学生時代にピッチャー経験があるとはいっても、久しぶりの実戦登板のはずなんだが非常に良かった。


菊池のボールは立ち上がりから走っていた。球種はストレートとカーブだけだが、球威で相手を押し込んでいた。どちらかといえば、技巧派の山川に比べて菊池は三振が取れるタイプだ。


そんな菊池を見ている山川の心境は複雑だろう。俺も経験があるが、エースナンバーを争う相手が良いピッチングをすると内心で焦りがでてくる。


5回まで0対0の引き締まった試合だ。6回のマウンドにも菊池は上がっていた。ここまで相手を2安打に抑えていた。


しかし、この回は様子が違った。これまでは菊池の速くて荒れ球に、相手が打ちにくそうだった。ボール球も振ってくれていたが、ここではジックリと見ている。コントロールに難がある菊池は苦労している。


俺はマウンドに行って声を掛けた。

「真ん中目がけて、思い切り腕を振れば大丈夫だ。お前のボールは打たれない!」


しかし、ヒットと2つのファーボールでワンアウト満塁の大ピンチを迎えてしまう。明らかに菊池は腕を振れていない様子だ。やはり、ジックリ見られてボール球を振ってくれなくなると苦しいピッチングになる。


そろそろ菊池は限界だろう。俺はベンチから、山川に目配せした。山川は頷いていた。山川は分かっているようだな。


俺はタイムをかけて、ピッチャー交代を告げた。大ピンチにもかかわらず、山川はマウンドに上がれて嬉しそうだ。


山川に言いたいことは一つだ。

「山川、あのインコースへ投げる練習の成果を発揮する場面だぞ。任せたぞ!」


山川は、気合いの入った表情で大きく頷いていた。初球はそのインコースストレートがズバッと決まった! 大丈夫だ。今日の山川なら、しっかり投げ込めるだろう。


ストレートで追い込んで、山川の決め球フォークボールで三振に仕留めた。マウンドの山川は頼もしく見えた。前の練習試合でメッタ打ちにあった男とは思えない。


ツーアウト満塁で次は相手の4番バッターが打席に入る。このバッターはノーヒットだが、強烈なライナーを放っており要注意だ。


山川は、しっかり警戒してフォークボールから入る。空振りを奪えた。2球目はインコースへの完璧なストレートだった。バッターを完全に詰まらせた。山川の勝ちだ!


フラフラと上がった打球がセカンド後方に飛んでいく。まずい、ポテンヒットか?


この打球を信じられないスピードで追いかける選手がいる。セカンドの菊池だ。走って走って後ろ向きのままでボールをキャッチした!


さきほど、ピンチでマウンドを譲った菊池がチームを救う大ファインプレーだ!


チェンジでマウンドを降りる山川と菊池がガッチリ握手している。


続く7回、8回、9回と山川は完璧な内容だった。ストレート、フォークボール、スライダー、カーブと全てのボールが良かった。相手にデッドボールを当ててから、全く攻められられなくなった姿は完全に消えていた。


0対0のままでLP学園最後の攻撃だ。このまま終われば引き分けだ

が、勝利への執念を見せてほしい。


先頭バッターは石崎だ。今日は、三振が3つでタイミングが全く合っていなかった。


石崎は、初球セーフティバントを敢行する。ヘッドスライディングで一塁ベースに飛び込んだ。セーフだ!


ここからツーアウト三塁になる。

打席には山川が入っていた。ピッチングに比べると山川のバッティングは厳しいと言わざるを得なかった。


相手ピッチャーのセットポジションが不安定な様子を見て、俺は奇策を使った。サインを出したら、ベンチの部員は無言で驚いているのが分かった。


ピッチャーがセットポジションに入ったが、やはりランナーの石崎をほとんど見ていない。これならイケるぞ!


石崎がスタートした。俺のサインは、ホームスチールだったんだ!


慌ててピッチャーが投げたが遅かった。ホームスチール成功でサヨナラ勝ちだ! みんな大喜びで石崎を迎える中で、菊池が冷静に俺のところに来て、

「監督、LP学園のエースナンバー1は山川でお願いします。悔しいけど、今の僕は二番手ピッチャーです」


悔しいはずの菊池の表情は晴れやかだった。

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