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LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
17/18

インコース攻めのイメージ

秋季大会に向けての練習試合で大敗してしまった。特に心配なのが、エース山川だ。相手バッターにデッドボールを当ててしまってから、全く腕が振れなくなってしまった。


山川は、気持ちが優しすぎて、デッドボールを当てた後はインコースを厳しく攻めることができなくなっていた。


このままではマズイな。俺も現役時代はピッチャーだったので山川の気持ちは理解できるが、厳しい攻めをしなければバッターを抑えることはできない。


俺は練習の時に山川に声を掛けた。

「おい、山川。俺が打席に立つから、投げてみろ」


山川は、少しビックリしながらも、大きな声で、

「はい! お願いします」


キャッチャーの古屋が俺が立った位置を見て驚いた。

「監督、ベースにかなり近いところに立つんですね。インコースに来たら当たりますよ」


俺は笑って山川に向かって、

「お前は当てることを恐れすぎているんだ。俺にはどれだけ当てても構わないから、ベース近くに立つバッターのインコースを攻めるイメージを持てるように練習するんだ」


山川は優しいから、当てたら相手に悪いなと思いすぎてしまう。だから、どんどん当てさせて慣れさせようと考えた。


山川は、最初の方はなかなかインコースを投げられなかった。俺は、山川に、

「まずは一球、俺に当ててみろ。大丈夫だから」


すると、山川のボールが体の近くに飛び込んで来た。俺はギリギリでよけた。


山川は申し訳なさそうに、

「すみません」


やっぱり、顔が固まっている。俺は引き続き笑って、

「キレは良かったぞ。ナイスボールだ。どんどん来い!」


俺は更にベースに寄って立った。山川は怪訝な顔をしながらも投げてきた。次のボールが俺の腕に当たった。流石に痛かった。ここで痛がったら、山川がまた恐縮してしまう。


俺はすぐに立ち上がって、

「全然痛くないぞ。もっと力を入れて投げてこい!」


山川は更に力を入れて投げてきた。最初の方は遠慮がちにインコースを突いてきたが、途中からはかなりの割合で俺の体の近くをえぐってきた。


俺がギリギリに立っているから、どんどんデッドボールに当たってしまう。その度に、山川は謝るが、俺は笑って立ち上がる。これを何度も繰り返す。


山川の投げるボールは威力を増しながら、遠慮なくインコースにどんどん来るようになってきた。俺は腕や足や腰や肩などあらゆる場所にデッドボールを食らった。


山川は流石に申し訳なくなって、

「監督、もうやめましょう」

と言ってきたが、俺は、

「まだだ。お前はまだインコースへのイメージが完全じゃない。お前がインコースへ完璧に投げ込めるまで続けるぞ」


まだ完璧ではないが、練習試合の時よりも格段に良くなってきた。何より、腕をしっかり振れるようになっている。もうひと息だな。


山川の表情もどんどん良くなってきた。自信を持って投げているのが、打席からも分かるほどだ。


しかし、ついに強烈な一撃を食らってしまった。キレの良いボールが俺の腰に直撃した。

痛い……痛すぎる……


今度ばかりは笑えなかった。うずくまって動けなくなってしまった。


山川が駆け寄って、

「申し訳ありません! もう本当にやめましょう」


俺は痛みをこらえながら、

「バカヤロー! ここでやめたら、お前はずっと三流ピッチャーだぞ。お前は一流になれるポテンシャルがあるんだ。そのためなら、俺の傷なんて安いもんだ!」


俺は立ち上がって、再びベース近くに立った。正直、デッドボールは怖いし、これ以上は当たりなくない。しかし、ここまで山川は頑張ってきたのに俺が根をあげると、山川に申し訳が立たない。たとえ、骨折しても俺は打席に立つんだ!


いつの間にか、他の部員たちも見守っている。山川の熱投は続いていた。


「監督、僕が打席に立ちます」

LP学園のムードメーカー石崎が言った。


山川のインコースストレートはまだ未完成だ。この状態で打席に立たせて部員にケガをさせるワケにはいかない。


俺は石崎の申し出を断って、

「これは、監督である俺と山川の真剣勝負だ。ジャマするんじゃない!」


山川が投げるボールが空気を切り裂く音とキャッチャーの捕球音に加えて、俺がボールに当たる音が響く。

山川の投げるリズムとボールの軌道が一定になってきた。山川の中でイメージができつつあると見ていいだろう。


薄暗くなった。時間はあまりなさそうだが、今日中に感覚を掴んでほしい。


その時から一層、ボールが良くなった。4球続けて、インコースにズバッと決まった。元巨人のピッチャーである俺から見ても、素晴らしいボールだ。


「山川、あと一球を全力で投げてこい。自分を信じて投げれは大丈夫だ!」

山川に最後のメッセージを送った。


山川は頷いて、大きく振りかぶって投げ込んだ。

俺のインコースを、えぐるような最高のボールが来た! このボールだったら、どんな強打者でも打てないだろう。


「良くやったな。最後の一球は、○阪桐蔭の選手でも打てないようなナイスボールだったぞ」

俺は山川を労った。


山川は嬉しそうに、

「監督のおかげで、インコース攻めのイメージが固まりました! ありがとうございました」


その夜、風呂に入って見てみると、予想どおりアザだらけだった。夜になってあちこち痛くなってきた。


でも、妻は言ってくれたんだ。

「カッコいいアザだね。健一らしくていいね」

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