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LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
16/18

エースのメンタル

L P学園の調子が上がってきたところで、強豪チームとの練習試合だ。我がチームは守り勝つ野球を目指して、この試合でもしっかりと戦いたい。


エース山川はストレートとフォークボールの質が上がってきたし、スライダーも投げれるようになってきた。初回にマウンドに上がる姿もサマになってきたな。しかし、今日の相手は強力打線がウリのチームだ。山川を中心として、L P学園がどれだけ守れるか楽しみだ。


俺は山川に、ゲキを飛ばしていた。

「相手打線は強いがお前のストレートがどれほど通用するか確かめてこい。自信を持って戦え!」


初回は、腕をしっかり振ってボールもよく伸びていた。ライナーも打たれたが、サード新井がダイビングキャッチをして山川を助けた。新井が泥だらけになってチームは盛り上がっている。

山川は、初回を三者凡退に仕留めた。


相手ピッチャーのボールは速かった。130キロ台後半ストレートで押してくる。二者連続三振に倒れた。今日三番バッターに据えたキャプテン古屋にネクストバッターサークルで伝えた。

「ウチで一番ストレートに強いのはお前だ。ストレート一本待ちで狙っていけ。お前の力を見せてやれ!」


古屋は、気合いの入った表情で打席に立つ。しかし、相手ピッチャーは流石だった。打ち気充分の古屋をあざ笑うかのように、カーブ二つであっという間に追い込まれる。


古屋がサインを確認していた。俺のサインは引き続きストレート一本待ちだ。


3球目は待っていたストレートだ。古屋の目が光った!


カッキーン! 捉えた金属音が響いた。目の覚めるような弾丸ライナーがセンター前に弾んだ!


よしっ、ナイスバッティングだ。ウチの打線でも狙い球を絞って、しっかりバットを振れば必ずチャンスはあるんだ!


4番山本は打ち取られたが、初回にヒットが出たことでチームに勢いがついたように見えた。


二回のピッチャー山川は、先頭で4番との対決だ。このバッターは、大阪府下でも有名な長距離砲だ。山川も気合い充分でキャッチャー古屋のサインを見ている。


大きく振りかぶって投球動作に入ったが、横から見ていたら、少し嫌な感じがした。かなりリキんでいるようだ。


山川の手からリリースされたボールがバッターの腕を直撃してしまった! バッターはかなり痛がっており、そのまま代走と交代してしまった。


マウンドの山川を見ると、明らかに表情が変わっていた。帽子を取って頭を下げて申し訳なさそうにしている。


山川はピッチャーとしては少し優しすぎる性格だった。必要以上に相手を思いやって、自分で自分を苦しめるところがある。今日は大丈夫だろうか?


俺もかつて、巨人時代に外国人バッターにデッドボールをぶつけてしまい、その後、激昂した外国人に殴られたことがあった。それからトラウマになって思うように投げられなくなった経験があった。


一度そうなると抜け出すのは簡単じゃない。優しすぎる山川はどうなるのだろうか。


案の上、次のバッターに対して明らかに腕を振れていなかった。しかも、コントロールもできていない。慌てて、古屋がマウンドに行って声をかける。内野陣も山川を励ましている。山川は必死に頷いている。


しかし、一度狂った歯車はなかなか元に戻らない。アウトコース一辺倒になってしまったところを徹底的に狙われた。


デッドボールの後、連打でノーアウト満塁のピンチを迎えた。マウンドの山川は大量の汗をかいていた。


キャッチャーの古屋が山川に向かって、腕をしっかり振れ! という動作で無言のメッセージを送る。古屋はデッドボール後のコントロールに苦しむ山川に対してあえてインコースのサインを出している。逃げずに攻めて来い! ということだろう。


山川がインコースを狙って投げたストレートがド真ん中に吸い込まれる。やはりインコースを突けないのか……


バッターはストレートを待っていたようにタイミングがしっかり合ったスイングだ。ヤバイぞ……


完璧に捉えられた打球が高々と舞い上がって、フェンスを越えて近くを流れる川の中に飛び込んだ。

スプラッシュグランドスラムだった!


マウンドでガックリしている山川は早くも限界のようだった。セカンドを守る菊池は一応ピッチャーの練習もしていた。普通ならピッチャー交代だが、俺は山川を続投させた。ここで安易に交代させると山川の成長に繋がらない。こんな経験は実戦でしかできないんだ。何とか頑張ってほしい。


この後もコントロールが定まらず、得意のはずのフォークボールも全く決まらなかった。滅多打ちを喰らい大量リードを許していたが、みんなで懸命にプレイしている。どれだけ失点しても全員が全力で戦っていた。


最終回、16対1だったが、俺は山川に、アドバイスした。

「何も考えずにバッターのインコースにストレート3球投げて戻って来い。もし、当ててしまったら俺が丁重に謝罪するから心配しなくていい」


山川は頷いていたが、2球ともアウトコースに外れていた。真面目は山川は、やはりこれ以上のデッドボールを気にしているのだろうか。


3球目を投げる時にベンチの俺を見て、山川は自分の胸を強く叩いた。山川の表情に覚悟をみた気がした。


糸を引くようなストレートがバッターのインコースを厳しく突いた。この日最高のボールで見逃し三振に仕留めた!

山川はホッとしてマウンドを降りてきた。16対1の大敗だった。


エースの山川のメンタルトレーニングが今後の課題だな。

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