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LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
14/18

ランニング

渡辺と石崎のケンカがキッカケで部員たちが次々と離脱してしまった。ピッチャーの山川とキャッチャーでキャプテンの古屋だけが練習に参加していた。


チームがこんな状態にもかかわらず山川と古屋は監督の俺についてきてくれた。


「監督、今日もやりましょう!」

古屋が元気な声でやって来た。

今日もやる気充分だな。


まずは、しっかりランニングだ。山川と古屋の二人しかいないので、実践的な練習はほとんどできない。その分、下半身強化に時間を割いた。俺もタイヤを引いたり、一緒に汗を流した。


試合もできずに、二人のモチベーションが心配だった。このまま状況が変わらなければ、俺が新たな部員を集めてとにかく人数をそろえなくてはならないなぁ。


練習をしていたら、誰かがグラウンドの隅からこっちを見ていた。そして、猛ダッシュで向かってきた。


「前田監督、失礼します。お時間をいただけますか?」

部員の渡辺だった。元々は、渡辺が野球部を辞めたいと言ったことから石崎とケンカになって、部員たちの離脱に繋がっていた。


「渡辺、どうした?」

俺は落ち着いて聞こうとした。


「僕は野球部を辞めたいと言いました。でも、それがキッカケでこんなことになって申し訳ありませんでした」

渡辺は、本当に申し訳なさそうに言っている。


俺は渡辺の肩を叩きながら、

「お前のせいじゃない。気にするな。全ては、監督である俺の力不足のせいだ。それより、お前は野球部を辞めたんだから、その分勉強をしっかり頑張れよ」


渡辺は声に一層力を入れて、

「勉強はボチボチ頑張っています。それよりも、辞めたはずの野球が気になるんです。実は、あれからもランニングを続けたり、素振りをしたりしてたんです」


意外だった。渡辺は砂浜トレなどの練習についてこれなくて、辞めたいと言ったんだ。だから、もう野球は完全に辞めるだろうと思っていた。


「僕は体力も技術もなくて、野球部を辞めようしました。でも、野球は大好きなんです。ワガママで自分勝手な言い分ですか、野球をやりたいんです。もう一度、チャンスをいただけませんか?」


渡辺は確かに真剣だ。しかし、本当に気持ちは切れていないのだろうか?

「渡辺、お前の気持ちは分かった。だったら、今からグラウンドを10周走ってみろ」


俺は渡辺を試してみた。野球への情熱が切れていなくて、トレーニングを続けていたのか見極めるためだ。元プロ野球選手の俺から見たら、気持ちを入れてトレーニングしていたかはすぐに分かる。


渡辺は本人も言うように、体力的に厳しいところがあった。その渡辺が必死に走っていた。今日の姿を見ていると、渡辺の言葉に嘘がないことが分かった。恐らく、かなり徹底してランニングをしていたのだろう。

明らかに、走るフォームも良くなっている。


10周を超えたのに、渡辺はランニングを終わろうとしない。俺は黙って見守っていた。


結局、渡辺は20周走った。息を切らしているが、良い顔をしている。


「お疲れさん、よく走ったな」

走り終えた渡辺に水を渡した。


「ありがとうございます。僕は全然ダメな奴ですか、どうしても野球を辞められないんです!」

渡辺の眼差しは熱かった。


俺は頷いて、

「お前の走る姿を見ていたら全て分かったよ。野球への情熱を失うどころか、以前よりも遥かに高まっているようだな」


「また、一緒に野球をやろう。まだ部員は減ったままだが、俺がスカウトでも何でもやるさ」


渡辺は少年のような嬉しそうな顔で、

「よろしくお願いします!」


とりあえず良かった。と思っていたら、また大きな声が聞こえてきた。

「前田監督、僕たちも20周走らせてもらえませんか」


ケンカ騒動の当事者である石崎を始め、練習に来なくなっていた部員たちも集まっている。


「お前たち、本気なのか?」

俺がビックリしていると、石崎たちはランニングをスタートしている。


黙って見ていると、コイツらもずっとトレーニングを続けていたことが分かった。20周を超えて30周走っている。


走り終えてから石崎が俺のところにきて、

「監督、僕がつまらないことをやってしまったせいでチームと監督に多大な迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」


「今のL P学園のメンバーと一緒に甲子園を目指したいんです。やらせていただけませんか?」

石崎の目は血走っているかのようだ。


他の部員も負けていなかった。

「僕たちも勝手でした。もし、許されるなら今度は何があっても野球を辞めません! お願いします!」


しょーがない奴らだな。熱い気持ちに俺が弱いことを知っていやがる。


キャプテンの古屋も、

「僕が責任をもって部員たちを引き締めます。コイツらと僕と山川に、甲子園の夢を見させてください!」


キャプテンは、更に熱かった。俺の気持ちは固まった。

「俺が必ずお前たちを甲子園に連れていってやる。容赦しないから覚悟しろよ!」


「はい、絶対に甲子園に行きましょう!」


ちょうどその頃、キレイな夕焼けだった。新たな出発にふさわしい空だった。

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