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LP学園野球部のキセキ  作者: 砂糖
12/18

砂浜トレ

LP学園は、大阪南高校との練習試合で勝利を収めた。我がチームは初心者もいるような雑草軍団だが、1対0の緊張感に張り詰めた試合を制して、雰囲気も盛り上がってきた。


「監督、海に行きましょう!」

キャプテンの古屋が言ってきた。まさか、勝利に調子こいて遊ぶつもりなのか?


「僕たちは、熱血野球小僧なんです!」

古屋は大真面目に言っている。


そうか、コイツらは昭和の野球漫画のようなことをやりたいんだな。

俺はニンマリして、

「よし、俺に任しとけ。覚悟しろよ〜」


俺は部員たちを砂浜に連れてきた。海水浴に来ている人たちの邪魔にならないように、砂浜の端っこに陣取った。


俺は、部員たちを一列に並ばせて、

「よし、みんな。まずは、海に向かって叫べ! テーマは何でもいいぞ」


古屋が嬉しそうな顔で、

「はい! しかし、自分たちは若輩者で未熟者であります」


んっ? この展開は? ちょっと嫌な予感がするんだが……


「巨人でエースナンバー18を背負われて幾多の修羅場をくぐり抜けてこられた前田監督に見本を示していただきたいです!」


くそー、はめらめた!

部員たちは満面の笑みで俺を見ている。監督として、やらないわけにはいくまい。俺は覚悟を決めた。海に向かって叫ぶなら、やはりこの一言だろう。


俺は大きく息を吸い込んで、

「バカヤロー!」

と海に叫んだ。


「監督、男前っす。もう一回お願いします」

部員から声が掛かった。よーし、ならば更に気合いを入れて、

「バッカやろ〜!!」


どうだ! 部員たちは拍手してくれた。しかし、海水浴に来ている人たちがスマホを俺に向けて構えていた。どうやら、動画に撮られているじゃないか。


その中の1人が、言ってきた。

「勝手に撮影して申し訳ありません。元巨人の前田さんですよね。僕は大ファンだったんです。動画は削除した方がいいですか?」


そう言われたら仕方ないな。

「今のは削除しなくてもいいですよ。でも、これから部員たちの風景は絶対に撮らないでくださいね」


その人は喜んで、

「はい! 約束します。ありがとうございます。僕は○○スポーツ新聞の記者なんです。この写真使わせていただいていいですか?」


えっ? そうなの? ちょっと恥ずかしいんだけど……


数日後のスポーツ新聞に、俺が叫んでる姿が掲載されていた。付けられたタイトルは、「男、LP学園前田監督。巨人への恨みを叫ぶ!」


何故、こんなタイトルになったんだ? 巨人時代から分かっていたが、やはりマスコミの印象操作は怖いな。いちいち抗議しないが、もちろん、俺は巨人に対して恨みごとは一切ない。


砂浜では部員たちが思いのたけを叫んでいた。キャプテンは模範的に、甲子園優勝を叫んでいたが、中には片思いをしている女の子の名前を叫んでいるヤツもいた。


青春だなぁ……

微笑ましく見ていると、なんと、たまたまその女の子が同じ砂浜に居た。そして、その部員はゴメンなさいされていた……


これも、貴重な青春の一コマだ。その部員はチームメイトに胴上げされていた。


さて、練習だ。

砂浜は足腰を鍛えるのに絶好の場所だ。まずは、普通にランニングをしてからタイヤ引きだ。


俺も可能なかぎり一緒に体を動かした。砂浜でタイヤ引きは想像以上にシンドイが、みんな顔をゆがめながら必死に取り組んでいる。


俺はコイツらがここまで頑張れるとは思わなかった。エース候補の山川は体力的に不足していたが、アイツなりに頑張っている。この砂浜トレを、ピッチャーにとって重要な下半身の強化に繋げてほしい。


今の若い子には根性論は響かないと言われるが、それでも俺は技術よりも気持ちの大切さを信じたい。今はまだ未熟な部員もいるが、コイツらは必ずうまくなるだろう。


それから数日間は砂浜トレを続けた。全力で取り組む部員たちに対して、俺の練習メニューも強度を上げていった。すると、恐れていたことが起こった。


ある日、練習が終わってから、部員の渡辺が神妙な顔で、

「監督、話があります」


俺は、嫌な予感がした。渡辺が本格的に野球をやるのはLP学園野球部に入ってからで、体力も厳しかった。ランニングでも、いつも遅れ気味だった。


「今まで僕なりに必死にみんなについてきましたが、もう限界です。この前の砂浜トレで自分にはもう無理だと分かりました。野球部を辞めたいんです」


あの砂浜トレが渡辺にトドメを刺してしまったのか。監督である俺のせいだな。部員たち一人一人の体力を考慮せずに、厳しいトレーニングを課してしまった。


元プロ野球選手の俺からしたら、あの程度の練習でへばるぐらいなら辞めた方がいいと思うが、LP学園はかつてのような全国屈指の強豪チームではない。休部状態から数年ぶりに再始動したチームだ。


いわば、弱小チームと言ってもいい状態からスタートしているんだ。ついてこれないヤツをふるい落すような練習ではダメなんだ。しかも、現在、部員は9人ちょうどしかいない。


部員の石崎が口を挟んだ。

「監督、辞めたいヤツは辞めたらいいんじゃないですか。足手まといになりますよ」

石崎は初心者だが、いつもガッツを見せていた。


渡辺はカチンときて、

「何だ、その言い方は! お前もヘタなくせに!」

石崎に掴みかかった。

ヤバイ、一体どうなってしまうのか……

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