LP学園対大阪南
LP学園のエース候補山川のピッチング練習が続く。山川は、俺が巨人時代に投げていたフォークボールを見て、自分も投げたいと思ったらしい。
山川のボールの握り方を見ると、オーソドックスなタイプだ。そして、指が長い。確かにボールを挟みやすそうだ。山川は小学生の頃から、野球以外でも常にボールを持ってフォークを投げるイメージトレーニングをしていたらしい。
これまでも受けてきたが、確かに高校一年生とは思えないほどの落差だ。しかし、まだまだ精度が低い。抜けるボールも多かった。
俺はボールを受けながら、アドバイスした。
「お前のフォークは決まった時は凄いが、抜けた時には危険なボールになっているぞ。そして、フォークは指への負担も大きい。浅く挟むフォークと深く挟むフォークを覚えろ。あと、カーブを使って緩急もつけろ」
山川は、頑張って取り組んでくれた。今はまだ精度が低いが、ストレートとフォークボールを磨けば、勝負できるピッチャーになれるだろう。
山川は、ピッチング練習している時は嬉しそうだ。俺も昔は投げるのが楽しくたまらなかったな。
熱心に投げる山川を見ていると、微笑ましくなってくる。
「監督、僕が山川を倒します。対決させて下さい!」
LP学園の4番候補の山本が言ってきた。
山本は、部員の中では一番の飛距離を持っている。巨漢で大飯食らいだ。弁当箱のデカさは半端ない。お母さんの苦労と愛情を感じる男だ。
山川は小柄なので、2人は同学年に見えない。
人気野球漫画のキャラクターで、小さな巨人里中とドカベン山田のような2人だ。
これから何度も繰り返される「山川vs.山本」のLP学園名物対決の第一回だ。
「さー、来い!」
山本がピッチャー山川を睨む。
キャッチャー古屋の配球はどうするのか?
山川が古屋のサインに頷いた。初球は、アウトコースのストレートだ。山本はバットを出してきた。一塁線への強烈なライナーのファウルだ。
投げたコースは良かったが、まだ球威不足だな。2球目に、浅めに挟んだフォークボールを使ってきた。山本はタイミングが合わず空振りだ。山本は、驚いていた。
「お前、こんなボール持っていたのか! やるなぁ」
勝負球は、どうする? 古屋のサインに山川は首を振った。山川が投げたいボールは何だろう。
山川が投げたのは、フォークボールだ。しかし、高めに抜けてしまった。山本のバットが火を噴いた……かと思うぐらい豪快なスイングの空振りだった。
第一回対決は山川の勝ちだ。しかし、山川は納得いっていなかった。
「勝負には勝ちましたが、監督の言う通り、僕のフォークボールはまだまだ精度が低いですね」
俺は笑って、
「俺が高校一年生の頃は、まだフォークボールは投げていなかったよ。変化球はカーブだけだった。だから、お前はボチボチやれよ」
山本も、
「お前のフォークボールを続けて空振りしてしまった。2球目の抜けたフォークはホームランボールだったな。次回の対決では覚悟しておけよ」
俺は山本に対して
「お前のような打ち気満々のバッターは、タイミングを外されやすいぞ。振り回すんじゃなくて、バットの芯で捉える事を意識しろ」
キャッチャーの古屋も、
「フォークボールに頼りすぎるのも良くないですね。しっかり考えてリードします」
みんなよく考えているな。感心だ。
みんな精力的に練習に励んでいる。部員からは、
「監督、対外試合がしたいです」
LP学園野球部は9人しかいないので、紅白戦ができない。どうしても、実戦練習が不足する。俺は、近辺の高校に試合を申し込んだ。
その結果、大阪南高校と練習試合できる事になった。この高校は公立高校だが、スポーツにも熱心に取り組んでいる。実力的にはLP学園と近いと思われる。ちょうどいい相手だ。
俺は部員たちに、ゲキを飛ばした。
「みんな、今日は勝負にこだわるぞ。絶対に勝つぞ!」
LP学園はこれまで1試合だけ練習試合をやっていたが、負けていた。今日は対外試合の初勝利を目指すんだ。
大阪南高校は、全体的に小粒だが、スピードがある選手が多い。守備も鍛えられているようだ。
初回、先頭バッターがいきなりセーフティーバントをやってきた。LP学園のピッチャー山川も素早くボールを取ったが、一塁はセーフだ。快速ランナーだな。
山川はセットポジションからの投球に少し課題があった。球威が落ちる傾向があった。対外試合をほとんどできていないので、やはりセットポジションにもイマイチ不慣れだ。
牽制球も上手いとは言えなかった。大阪南高校の監督は、山川の弱点をすぐに分かったようだ。ランナーのリードが広い。
山川も何球か牽制するが、ランナーは楽々帰塁している。ほぼ100%盗塁を狙っているな。LP学園のバッテリーはどうするだろうか。
2番バッターの2球目にランナーがスタートした。山川はストレートを投じていた。
キャッチャー古屋は強肩ではないが、フットワークをずっと練習してきたんだ。快速ランナーとも勝負できるはずだ。
古屋は捕球すると、流れるような動作で二塁へ送球した。タッチ、アウトだ! キャプテン古屋が練習の成果を見せてくれた。
これでチームの雰囲気は一気に良くなった!