八話 入居者
「ん、んん〜〜」
暫くして少女の意識は徐々に覚醒していく。
「目が覚めたか?」
ユートが声をかけるがまだ完全に意識を覚醒させていないためか、少女の半目状態でユートの顔を見上げる。
「ん〜〜?」
少女は首を左右に振りながら辺りを見回す。
そして自分がユートに膝枕をされていることに気づい時、意識を完全に覚醒させて飛び上がるように起き上がった。そして、ユートと距離を取るようにそのまま後退する。
顔は茹でダコの様に赤くなっており、今にも湯気が吹き上がりそうな勢いである。
「あー、なんて言うか……大丈夫?」
「ひゃっ、ひゃい⁉︎全然大丈夫でしゅ⁉︎」
「そう…?顔真っ赤だし、全然大丈夫じゃ無さそうなんだけど…て言うかちょっと性格変わった気がする…」
少女は明らかに動揺してもはや上手く言葉を発せていない。そんな少女に対してユートが疑念を抱いているが、理由までは分かっていないようだ。
この後少女の方が落ち着くまで数分かかった。
〜〜〜
「そういえばまだ君の名前聞いてなかったよね」
「確かに話してなかった気がします」
「取り敢えず自己紹介した方がいいよね?僕の名前はユート・ラルシエール。魔法学院に通うためにここにやって来た」
「わ、私の名前はミロク・クローネです。あの、ユートさんって呼んでもいいですか?」
「うん、構わないよ。僕もミロクって呼んでもいい?」
「もちろんです。それにしてもユートさんは魔法学院を受験されるんですか⁉︎凄く優秀な魔法使いなんですね。回復魔法も凄いみたいですし」
「そんなに大した事ないよ…ん?回復魔法?」
「はい!私の傷を治してくれたじゃないですか。ユートさんが治してくれたんですよね?」
「あ、あぁ。あれの事か…確かに僕が直したけど…」
ーーーあれは回復魔法なんかじゃないんだよね
ユートはその言葉を咄嗟に呑み込んだ。
自分の能力は最低限秘密にしておいた方がいいだろうという判断からである。別に彼女のことを信用してないわけじゃないのだがやはり不必要に情報を開示する意味はない。
(ただ臆病なだけか…)
自嘲気味に笑いながら頭をかく。
ユートの服の袖からはみ出た手首には、まるで何かに繋がれた様な痕が付いていた。
〜〜〜
「ところでミロク。君はこれからどうする?その…君は家族が居ないから…」
「そうですね…私には帰る場所が無いんだ……で、でも多分なんとかなると思います…だから……ユートさん。助けてくれてありがとうございました。後は自分でなんとかしてみます!」
(空元気……だな)
ユートはミロクの心情をすぐさま察する。一人で生きるのは凄く辛いことなのだとユートは誰よりも知っている。だから彼女のあんな顔を見てしまってユートは思考よりも先に声が出ていた。
「それだったら僕の家を使いなよ」
「え?」
ミロクは驚きで目を丸くする。
「僕の家さ、一人で住むにはちょっとデカすぎる気がするんだよね。だから一緒に住んでほしいかなーなんて」
ユートはそこまで言い終えた後でとても後悔する。
(あれ?僕なんか凄い事言ってない?ヤバくない⁉︎て言うか女の子相手に何ナンパ紛いな事してんだ⁉︎僕⁉︎)
内心凄い冷や汗をかきながら自らの言動を悔いるユート。いつもの冷静さは欠けていたようだった。
ぎこちない笑みを浮かべながらミロクの方を見る。ミロクの顔はまたもや真っ赤になっていた。
(ヤバい⁉︎とても怒ってらっしゃる!なんてヘマをやらかしているんだ僕は⁉︎)
「そ、その…本当に良いんですか…?私一文無しですし、ユートさんに迷惑じゃ…」
(あれ?怒ってない?)
ユートはミロクが怒っていないことに安堵する。
そして、さらなる追い討ちをかけていく。
「迷惑なんてそんな事ないさ!それにミロクは可愛いから一緒に入れるだけで嬉しいよ!」
「か、かわいい⁉︎私がですか⁉︎」
フシューッと音を立ててさらに顔を赤くするミロク。目も回しており、意識は完全別世界のようだ。
「もちろん!ミロクは誰が見ても可愛いよ」
(くっそー!完全にナンパ野郎だよ!僕!)
ユートの方もいつもの冷静さはもはやない。テンパっている姿は実に新鮮である。
「じゃ、じゃあ、ユートさん…お、お世話になります…」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします…」
王都に着いて二日目。
早くもユートは二人暮らしとなった。