十九話 復活
「ここは……?」
ミロクのいる場所は上下左右何も見えない、ただの暗闇の中だった。
だがここは確かにイルミナーーーユートの心象世界の中である。
レイラの魔法によりミロクはユートの心の中に入り込むことができたのだ。
とはいえ、何時もの心象世界とは異なっていた。
以前までであれば辺りは一面真っ白だったのだが今ではその対となる真っ暗闇。
まるで大きな闇にユート自身が塗りつぶされているかのようだ。
「……っ⁉︎ユート?」
ミロクは先へ進んで行くと人の気配を感じ取る。
すかさずそれがユートだと思い込んだがよく見るとユートでは無かった。
「やぁ、まさか君が来るとは……てっきりエリエルかミーナ辺りであると思ったんだけどね」
声主はそう言いながらコツコツとミロクに近づいて行く。
暗い為ミロクは声主がどんな容姿であるか分からないが火属性魔法を灯りがわりにして辺りを照らすとその人物をはっきりと視認できた。
「あなたは……?」
ユートとは髪の色が違い紫髪、瞳の色も琥珀色であった。
見た目は十八歳くらいで成人しているかどうかといったギリギリのラインの青少年だが雰囲気は何処と無くユートを感じされるものがあった。
しかし、戦いの果てか身に纏う服も所々切り裂かれておりそこから露出される肌は生々しい傷痕が見られた。
「君は……と言うかユート以外の人に認知されるのは始めてだね。ボクの名前はイルナギ。一様神様でユートの契約神としてユートの中に住んでる者?かな」
「え……神、様……?」
あっけらかんととんでもない発言をするイルナギに対しミロクは呆け顔でイルナギを見つめる。
「まぁ今は自己紹介してる場合じゃないね。君のことはユートを通してよく見ているから大方知っている。どうやらユートのお気に入りのようだね」
「え?」
「とにかく事態は急を要する……今君は魔法でこの世界に現界しているけどおそらくその魔法が解けるのも時間の問題だろう」
「はい」
「君には早急にユートに会って貰いたい」
「そのために来たので」
「うん、場所は今から教える……本当はボクがユートを引っ張り出せればいいんだけどね……それは君の役目のようだ」
「……?」
悲しそうに目を伏せるイルナギにミロクは頭に疑問符を浮かべる。
「ユートのことは任せたよ……あの子の命は君にかかってる」
「必ず連れて帰ります!」
「……君は強いね……だがらこそユートは……」
「あの……今何か……?」
「いや、なんでもないよ。さぁ急ごう。場所はこっちだ」
「は、はい」
イルナギは最後に何か言っていたがミロクにはよく聞き取れなかった。
イルナギははぐらかす様にユートの居場所であろう方角へ歩き出す。
ミロクは見失わない様に駆け足でイルナギを追いかけて行くのであった。
〜〜〜
ユートは現在、鎖で縛られている氷像の中で囚われていた。
暗い闇の中を氷像の淡い光が辺りをかすかに照らし出す。
ーーー何も見えない、何も感じない
ユートの今の状況を作り出したのはユートの身体を乗っ取っているもう一柱の神、イルミナである。
ユートは音も光もない断絶空間でただただ何をするわけでも無く蹲っていた。
「……ト………………ユ……⁉︎」
ユートの耳に何か声が聞こえてくる。
誰の声?分からない。
ユートには雑音にしか聞こえない。
だがだんだんとそのノイズの様に聞こえる声がはっきりと聞こえてくる様になる。
ーーーこの声は……知っている?
ユートの心に刻まれた僅かな記憶がその声を覚えていた。
「ユート!」
遂に自分の名前が鮮明に聞こえた時、ユートは声主が誰であるかはっきりとした。
(この声は……⁉︎そうだ……この声は……ミロク!)
瞬間、淡い光を放っていた氷像がピキピキと音を立てながら眩く発光する。
そして鎖がちぎれパリーンと音を立て、その中からユートが出てきた。
「ユート!」
「おっと……」
ミロクは駆け足でユートの元に近づき、そのまま抱きつく。
ユートはミロクの行動に一瞬戸惑いながらもやってきたミロクを支えてあげる。
「……」
「?……あ……ただいま、ミロク」
ミロクはユートの事を上目遣いで見ながら眦に涙を浮かべ、じとっとした目を向ける。
その視線にユートは何故そんな目を向けられているか分からなかったが直ぐに気付き、その言葉をミロクにかける。
「おかえり!ユート」
ミロクはパーッと花が咲いた様な笑みを浮かべる。
その満面の笑みにユートはほんの少しだけ顔が赤くなるのを感じた。
しばらく互いに見つめ合う二人。
その独特な雰囲気が光の満ちたこの世界を支配していた。
「んん、えぇとお二人さん……そろそろいいかな?」
「あ……イルナギ……ごめん」
「ひやあぁぁ⁉︎」
イルナギはそんな二人をわざとらしく咳き込んで現実に引き返す。
ユートはイルナギがいた事を気づいて申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするがミロクは突然声を掛けられた事に素っ頓狂な声を上げてユートから数歩後退した。
一緒に来ていたイルナギの事を忘れるとは恋は盲目、とはよく言ったものである。
「おかえりユート」
「ただいまイルナギ」
イルナギとユートの再開はミロクほど大層なものではなかった。
しかし、二人は心で通じ合っている。それだけで十分なのだ。
「やる事は分かってるよね?」
「うん。決着はつけるさ」
「分かってればいいよ……イルミナの事、頼んだよ」
「うん。じゃあミロクの事もお願い」
「任せといてくれよ」
「ユート!」
「何?ミロク」
「無事に……帰ってきてね?」
「ああ、分かってるよ……だからまってて」
「うん」
ミロクの元気な返事を聞いた後、ユートは満足そうに頷くとイルミナがいる世界へと向かった。




