五話 王都
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薄暗く湿り気の孕んだ部屋。何かを叩く音だけが反響している。その正体は鞭の音。一人の中年男が天井から吊るされる鎖に手首を拘束された少女を鬼のような形相でその手に持つ鞭を振るっていた。少女の首には首輪のようなものが嵌められている。少女は抵抗するわけでもなくただ痛みに耐えるのみ。いや、もはや抵抗する気力すら残ってはいない。瞳に光は無くただただ無気力でまるで人形のようにその身体を痛めつけられていくだけだった。
「…チッ!とうとう声すらあげなくなったか。つまんねー玩具だなっ!」
男は悪態をつきながらその手に持つ鞭を先程よりも強く振るう。
「…ッ!………」
少女は痛みを感じるもののそれでも声を上げなどしない。
何日経っただろうか。もはや時間感覚すらその少女には無く、身体に入る力など残っていなかった。
「チッ!」
男はそんな感情を出さない少女に興味が失せたのか舌打ちをし、その手を止め踵を返す。
「この玩具ももう壊れてしまったか。まぁいいこいつは捨ててまた新しいのを探すか」
男はそう言って口元に弧を描く。そんな彼を少女は憎悪すら抱くことも無く、ただ空虚に彼が去っていくのを見つめていたのだった。
「ここが王都か…前に来た時はあまり見てなかったけど改めて見ると凄いなぁ」
エリエル達と別れを告げて10日後、ユートは学院のある王都に着いていた。
ここハウード王国の王都ロイセンは人口およそ20万人という大都市である。ハウード王国は人間族に限らず、様々な種族が行き交う国の中では珍しい多種族国家である。
王国に着いたユートはエリエルに渡された地図の印のついた場所へ向かう。途中普段見慣れないものがあり、つい周りを見渡したりしていたが。そんなこんなで特にトラブルも無く目的地に着いた。目の前にある一軒の家、どうやらここがユートの住む家になるらしい。エリエルが国に働きかけて貰った家で特に目立ったりすることのもなく、大きくも小さくもない普通の一軒家だった。
とりあえず、ユートは貰った鍵を使い、家の中に入る。二階建てのその家は4LDKとなっており、浴場まで着いていた。
「一人で住むにはでかすぎる気がするんだけどなぁ」
ユートは苦笑いを浮かべながらも内心この家を用意したエリエルに感謝する。
一通り家の中を見回ったユートはこの後のことを考える。
「予定よりも早く着いちゃったからなぁ。この後どうしようかな?」
入学試験まであと4日ある。この時間何をするかだがユートは街の散策に費やすことにした。
先ずユートが向かったのは自分がこれから通う学院、ハリオード魔法学院。家からおよそ5分くらいのところにあり、とても目立っていたのですぐに見つかった。その敷地面積はとても広くこの街で王城の次くらいに立派な建物だった。王都は5地区に分けられており、魔法学院のあるここは西地区である。
その後も点々のと街を散策していき時間を潰していく。
日も沈み始めそろそろ帰ろうとしたその時、ユートはふと路地裏に目を向ける。何やら気になる事があり、その路地裏に足を向ける。しばらく進むとユートは人が倒れている事に気づく。
「…女の子?それにこの子は獣人族か」
そこに倒れていたのは衰弱しきって身体は痩せ細っている金髪の少女だった。年はユートとあまり変わらないくらいだろうか?獣の尻尾と耳を持つ彼女はユートの言った通り獣人族だった。
「どうしてこんな所でこの子は倒れているんだろう…しかもこんなに弱り切っ………ッ⁉︎」
ユートは少女の状態を見て激しく驚いた。
「戒めの首輪…だと…⁉︎」
戒めの首輪とは付けた者の身体能力を大幅に制限し魔力をゼロにする強力な魔道具である。犯罪者に付ける魔道具として作られた。
しかし、この能力を逆手にとって人間族は非人道的な行為に走った。それは多種族の奴隷化である。
数十年前、見た目が美しいエルフ族や愛玩用にと獣人族を中心にこの魔道具の被害に遭い、無理矢理奴隷化させると言う事件が起こった。
それ以来、この魔道具は処分するように各国で規制され持ってるだけでも犯罪となるよう法がたてられた。
この事件の事はユートももちろん知っている。シルフや他の神話級も良くこの話をして悲しんでいたのを覚えている。その為目の前の光景にユートはとても怒りを覚えた。
しかし、現状どうこう出来る訳でも無く、とりあえずユートはその少女を抱えその場を後にした。