十三話 神話の会談
「エリエル!」
「わかってる!黒狼の森でしょ?シルフ!私とミーナを飛ばして!」
とある、一角。神話級が集う拠点にて。
エリエル一同は魔神の出現に慌ただしく動いていた。
「……魔神討伐に何故二人だけでいくのですか?いくら神話級とは言え、最低でも四人編成で行くのが合理的なはずですが?」
耳が尖った美青年とも言えるような容姿の持ち主、神話級序列二位のシルフはエリエルを咎めるように諭す。
「……今回はこれがベストだと思ったからよ……」
エリエルはそう言いながらばつが悪そうに目を背ける。
しかし、他の集まった面々は納得していないと行った表情をしていた。
現在ここにいるメンバーはユートとそれにあと二人を除いて合計七人いた。
皆が皆シルフの意見に尤もと感じており、だからこそエリエルの決定に意を唱えている。
「あぁ、納得しねぇな。何故、此奴を選んだ?エリエル。お前は兎も角、此奴は非戦闘系だろ?」
この中で一番ガタイも良く、長身の男がエリエルに威圧的視線を向けてそう言う。
男の皮膚は所々、竜の鱗のようなものが露出している。どうやら竜人族のようだ。
「あら?ゴース。私の力では不足……そう言いたいのかしら?」
それに対し、先程まで穏やかに座っていたミーナが竜人族の男ーーーゴースに向かって噛み付く。
その表情は穏やかだが、目は笑っていない。
この男、ゴース・ティエルゴも当然神話級、序列は七位である。
「なんだ?ミーナ……ここで殺んのか……?まさかテメェ如きが俺を殺すなんてできると思ってんのか?」
そんなミーナに対し、ゴースも体内から魔力を放出し、ミーナへ敵対行動をとる。
序列はゴースの方が低いはずだが、ゴースはミーナにまるで気圧されてはいない。
それどころか自分が勝つと言っているような口調だ。
だがそれは事実である。
ゴースとミーナでは強さのベクトルが違う。
事戦闘において、ゴースは単騎最強と言わしめる実力者である。
対し、ミーナは戦闘補佐、主にバックアップを主体としている。
その為、ゴースとミーナがやり合えばどちらが勝つかなど自明の理だろう。
しかし、当然ミーナもただではやられない。
序列五位は伊達ではないのだ。
二人は一触即発、今にもやり合いそうな勢いであったがそうなることは無かった。
「おい……仲間割れはやめろよ……」
「「っ⁉︎」」
あまりにもドスが効いた低い声、一瞬誰の声かわからなくなるようなそんな声だったが、声と共に来る凶悪と言ってもいいくらいの魔力の奔流を前にしてすぐに誰の声か理解する。
この中で頂点にして最強の人物。
エリエルによって鎮められた。
ミーナとゴース、それに他の面々すらエリエルの圧倒的オーラを前に話す事は愚か、動くこともできなかった。
エリエルは静まりかえったのを確認し、ふぅっと息を吐くと先程まで出ていたドス黒いオーラを引っ込めてやがていつも通りの口調に戻る。
「ふぅ……もぉ、喧嘩はダメだよぉ?それはそうと今回は私とミーナで行く……それでいいね?ゴース、シルフ」
「あ、あぁ……」
「……はぁ、異存はないよ」
エリエルの問いにシルフもゴースも納得するしかない。
(あんなイカれた魔力ぶつけられたらそうするしかねぇだろっ⁉︎)
ゴースは内心冷や汗をかいていた。
「⦅転移門⦆!」
シルフがそう言うと、何もなかったはずの空間がグニャリと捻じ曲げられ黒い歪みが出来る。
「魔神の気配が消えて十分後に⦅転移門⦆は同じ場所に展開しますのでよろしくお願いします」
「わかった」「えぇ」
エリエルとミーナは既に戦闘服に着替えている。
「それじゃあ行くよ!」
エリエルの一声と共に、二人はシルフが開いた扉に入っていった。
〜〜〜
「……今の話は本当?ミーナ……」
「……えぇ、事実よ。なんせ視えたから……」
時は少し遡り、ユートがゼルと戦っている頃、エリエルとミーナは二人で会話していた。
「……まさか、ユートが魔神化するなんて……」
エリエルは信じられないと言った表情でミーナを見る。
しかし、ミーナの目は嘘を言っておらず、エリエルも認めざるを得ない状況だった。
「"未来眼"で視た事は絶対に起こる……のだもんね」
エリエルの言葉にミーナは頷く。
その際、ミーナの左の眼、紫色の瞳がキラリと煌いたように見えた。
ミーナの持つ眼は特殊である。
オッドアイであることから想像はつくであろうがミーナの左眼は"魔眼"と呼ばれ、世間一般では忌み嫌われているものである。
ただし、レイラが持つような魔眼よりも強力なものである。
ミーナの持つ魔眼、"未来眼"は文字通り未来を視る力を持つ眼である。
未来眼で視た事象は必ず起こり、その事象は絶対に変えることができない。
ミーナがどんなに悪い事を視てもそれを良い方向に覆す事は絶対にできないのだ。
未来眼の発動はランダムで所持者に深く関わる事が視えると言われているがその実情は未だ不明だ。
ミーナは今回、この未来眼でユートが魔神化するのを視ていた。
「……もし、他の神話級の皆が知ったら……」
「……確実にユートを殺すでしょうね……」
ミーナの声のトーンは低い。
そうなる事が分かっているからだろう。
「どうするの?エリエル……」
「……」
エリエルは顎に手を当て考える。
このまま手をこまねいていればやがてユートが魔神化し、ユートは仲間の手によって殺される。
その最悪の未来だけはなんとしても避けたいところであった。
やがてエリエルは口を開く。
「……ユートへの対処は私達だけでしよう……」
「……大丈夫なの?確かにユートを単騎で倒せるのはエリエルだけだけど……それでもタイムリミットが……」
「でもやるしかないよ?それが今できる最善だから……それにここでユートを失うことは今後に影響が出る、でしょ?」
「……分かった、ただしエリエルはユートとの戦闘は三十分まで……それを過ぎたら……分かってるよね?」
エリエルはミーナの言葉に静かに頷く。
「そうと決まればすぐに準備だね!行くよ、ミーナ」
「えぇ……」
エリエルの後を続く形でミーナは歩く。
その足取りは僅かに重い。
(一番最悪なのはユートとエリエルを失う事……だからこれが正しい選択……)
ミーナは痛む胸に手を当ててそう決意し、会議の場へ向かって行った。




