八話 ミロクvsギル
その頃、湖では激しい戦闘が繰り広げられている。
「はっはぁ!どうしたぁ!その程度じゃ相手にもなんねぇぞぉ!」
「うぐっ!」
二本のナイフを携えたギルがミロクに攻撃の隙を与える間も無く、ひたすらに攻め続けていた。
回避で手一杯の様子のミロクは苦悶の声を漏らすがその目はまだ光り輝いている。
反撃の機会をうかがっているようだった。
「ちっ……機にいらねぇなぁ、その目が……よっ!」
「ぐぅ……⁉︎」
ギルは左手で一閃したナイフを態勢を仰け反らして交わしたミロクに右足で回し蹴りを撃ち込む。
予想外の攻撃にミロクは躱しきれず、もろにギルの右足がミロクの脇腹に食い込んだ。
ミロクは勢いに身を任せて地面を何度かバウンドして転がり込んでしまう。
「かはっ……⁉︎」
その際、肺の空気が外にだされ、呼吸困難に陥る。
(はぁ……はぁ……この人、戦い方が上手い……あの魔族よりも…………)
ミロクは目の前の男、ギルに戦慄していた。
ミロクの言う通り、ギルは戦闘技術が非常にたかかった。
魔族ほどの魔力や力はないものの、技術でそれをカバーする。
ミロクにとってそう言う相手との戦闘は初めてでありだからこそ、より一層の苦戦を強いられていたのだった。
「ミロク……」
レイラは固唾を呑んで見守ることしかできない。
レイラにはミロクのように戦うことはできない。
魔法学院に通っていないと言うこともあるがそれ以前に魔法というのを見たことがないのだ。
だが、レイラの目からみてもミロクの状況が芳しくないことは分かる。
レイラはレイラなりに出来ることを模索し続けた。
「はぁ……はぁ…………ぁ……」
ミロクはギルとの戦闘で疲弊しきっていた。
身体中にはナイフで傷つけられたであろう傷がつき、そこから痛々しく血が滲み出ている。
「……そろそろ限界だろぉ?もう諦めた方がいいぜ。俺を倒したところでゼルの野郎がいる。尤も死ぬ未来はかわらねぇがな!」
「これは……?」
ミロクは突然、ギルの魔力の流れが変化し始めた事に驚く。
「俺に適正魔法はねぇんだがな……とある野郎に身体を作り変えてもらってよぉ、俺にも適正魔法が出来たんだよ」
そう言うギルからは確かに身体から雷のようなものがバチバチと帯電している。
「……雷属性……」
「ご明察。俺の身体とこの属性は非常に相性がいいらしくてなぁ……こんな風に、な!」
「⁉︎……ぐぁ……っ⁉︎」
刹那、ギルの身体がぶれたと思ったらミロクの身体が斬り付けられていた。
ミロクは突然のことに頭が追いつかず、しばらくして斬られた痛みが身体を襲い、悲鳴をあげた。
(嘘……斬られた……?いつ?)
ミロクは斬られたという事実に狼狽する。
だがすぐに今が戦闘中だということに気づき、そこで思考を止める。
「くくく……どうやったのか?って顔してるなぁ?冥土の土産に教えてやるさ。無属性魔法の⦅身体強化⦆に雷属性魔法⦅雷化⦆を重ねがけした合成魔法、⦅雷身憑依⦆だ」
「合成魔法……」
ミロクは初めて聞くその名前を思わず反芻する。
「あの馬鹿……敵におめおめと情報を渡すなど……」
ゼルはギルのあまりの愚行に呆れて額に手を当て天を仰いだ。
「ったく……テメェは心配性だなぁ、ゼル……どうせここで殺すんだしよぉ」
「ふん……」
「さぁて、じゃあとっとと殺っちゃいますかっ!」
再びギルの身体中が雷に覆われていく。
そして、目にも留まらぬ速さでミロクに迫っていった。
「くぅ……⦅火壁⦆!」
「おせぇ!」
咄嗟に防御魔法を唱えるも、それよりも早くにギルがミロクの懐まで乗り込む。
そしてそのスピードのままミロクの鳩尾を拳で殴りつけた。
「ぁがぁ……⁉︎」
早さとパワーが増強されたギルの一撃にミロクの身体は耐えられずバキバキと嫌な音が鳴り響く。
ミロクは殴られた勢いで後方まで吹き飛ばされる。
「ごほっ、ごほっ……ぅ……」
先程とは比べ物にならない衝撃を受け、ミロクは苦しそうに咳き込む。
口からは血を吐き、意識も朦朧としているのか瞼も片方は閉ざされていた。
ミロクは立ち上がろうとするが身体に残るダメージのせいで上手く立ち上がることが出来ない。
「ぁ……あぁ……」
戦いを見ていたレイラはミロクの惨状を目の当たりにして掠れたような呻き声を漏らす。
レイラは自分のせいでミロクがボロボロになっているという罪悪感に呑み込まれていた。
「はっ……テメェもすぐにコイツと同じところに送ってやるさ」
「ぅぐ……」
ギルはうつ伏せで倒れるミロクに近づき長い髪を引っ張り上げる。
そしてそのままもう片方の空いてる手でミロクの首を掴み、締め上げながら持ち上げていく。
ミロクは苦しさから逃れるように首を掴む腕にしがみついて突き放そうとするが身体に力が入っていないミロクにはそれすらままならない。
「かぁ……は……ぁ…………⁉︎」
ミロクの履くブーツが地面から離れ、宙吊りの状態となり、いよいよ肺で呼吸できなくなってしまう。
「ミロク……⁉︎」
「そこで大人しく見ていな!オメェのお友達が絞め殺されていく姿をなっ!」
悲痛そうに叫ぶレイラにギルはカラカラと笑いながらレイラを見下すように言い放つ。
「いやぁ…………だれか……ユートぉ……助けて……」
無意識のうちにレイラの眦からは涙が止めどなく溢れ出し、ユートに助けを求めるように、すがるような声を絞り出す。
ーーースパッ!!!
刹那、何かを切断したような生々しい音がこの湖に鳴り響く。
「なっ⁉︎」
そして、最初に驚きの声をあげたのはギルだった。
ミロクを掴んでいたはずの左手は腕から下をスッパリと斬られ、目の前にいたはずのミロクが居なくなっていた。
そして、ハッと我に返り、地面に飛沫した血の先を見ると、黒髪の少年がミロクを抱えている姿が目に入った。
「テメェ……俺の腕を……」
ギルは鬼の形相で黒髪の少年を見据える。
だがそんなギルに黒髪の少年ーーーユートは怯みもせず冷徹な目でギルを見返す。
「⁉︎」
絶対零度のように冷えたその眼差しを向けられたギルは思わず身震いした。
「それはこっちの台詞だ……よくもミロクを…………覚悟はできているのか?下郎……」
ユートは全身の魔力を解き放ち、ギルにそう言い放った。




