七話 邂逅
ユートが墓参りに来てからどれくらい経ったのか、時間を忘れてただ泣いていたユートは今ではいつも通りのユートに戻り、しばらく墓石を見つめていた。
「……さて……行きますか……」
ユートは腰を上げて墓石を後にしようとする。
「……っ⁉︎」
しかし、そこで背後から気配を感じる。
あまりに予想外の事にユートは思いっきり墓石の方に飛び退く。
「……誰だ……?」
底冷えするような声でそこにいるであろう者に声をかける。
(気づかなかった……?気配探知だって怠っていなかった筈……それにここに入れるなんてそもそも有り得ない……)
しかし、内心ではユートは相当焦っていた。
ユートのみしか入れない空間に侵入しただけでも得体が知れないのにユートの気配探知を欺いた事まで加味すると……そいつは相当な手練れだということは間違いないだろう。
しばらくユートが睨みを利かせていると、観念したのかザッザッと音を立てて姿を現わす。
その者の見た目は黒い外套で身を包み、素性を見ることはできない。
体格から見て、女だと推測でき、身長はユートと同じくらいかそれよりちょっと高いくらいだ。
黒づくめがユートの目の前に現れたのと同じ頃に湖の方から爆発音が鳴り響いた。
〜〜〜
「ユート……遅いね……」
「……ん…………」
その頃ミロクとレイラは湖の縁に座りながらユートのことを待っていた。
あれから数十分が経つが未だユートは帰ってきていない。
「やっぱりちょっと見に行こうかな」
「……ん……わたしも……」
ミロクがそう決断し、レイラもそれに従いユートの向かった方へ歩き出そうとしたその時、突如ミロクとレイラの前に何者かが飛来してきた。
ーーードゴオオォォォン!!
けたましい音を立て、そこから砂埃が起こる。
とっさの出来事にレイラはおろか、ミロクも反応できずにいた。
しかし、それがこの状況では命取りになるとすぐに気づかされる。
「⁉︎……くっ⁉︎」
ミロクは砂埃の起こる方を見ていると突如そこから飛来してくるものをレイラを抱え、身をよじりながら躱す。
飛来してきたものはどうやら投げナイフらしく、間一髪で避けたミロクは靡いた金色の髪を何本か巻き込んで通り過ぎていった。
「へぇ……今の避けるんだ!やっぱ獣人ってのは反射神経いいんだねぇ〜」
どこか楽しんでいるような弾んだ声がその場に鳴り響く。
声の主は当然、砂埃が舞う所からだった。
「……⁉︎」
砂埃が収まり始め、視界がクリアになっていく。
やがてレイラにも視認できるほどになり、そこに見えたのは二人組の人間族の男だった。
「やぁやぁ、お嬢ちゃん方〜……あぁ〜、特に言うことないなぁ……まぁいいや。今から君達を殺しまぁす。よろしくー」
背の低い方の男が手に持つナイフを舌舐めずりしながらそんな事を宣う。
「おい、ギル……以来では銀姫のみが抹殺対象だ……その獣人は含まれない」
すると、もう一人の男がギルと呼ばれた男を諭すように話す。
「ちっ……んなことはわかってるぜ、ゼル……だからこっちの獣人は俺の私用で殺すんだよ」
「はぁ……相変わらずだなお前は。まずはそのイカれた頭のネジを締めることから始めろ」
「あぁ?ゼル、テメェ今なんつった?テメェからミンチにすんぞ?」
ミロクとレイラは二人の男を冷や汗をかきながら眺めていた。
「貴方達は何者なの……?」
「あ?俺たちは闇ギル「おい……」…………ったく分かってるよ……ちょっとした依頼でそこの銀髪を殺すことになってんだよ」
「じゃあ、貴方達が暗殺者の……」
「へぇ……気づいてたんだぁ……なかなか頭が回るじゃねぇの……だが、解せねぇな。こんな辺鄙な森に逃げ込むとは……」
「悪いがこちらも依頼なのでな……大人しくしていれば楽に殺してやる」
「レイラ下がってて……ユートが来るまでここは私が食い止めるから」
ギルとゼルが戦闘態勢に入るや否や、ミロクはレイラを庇うように前に立ち、迷いなくそう言い放つ。
「でも……ミロクが……」
「大丈夫。時間稼ぎくらい私にだって」
「へぇ……お嬢ちゃん一人で俺たちを?その選択を後悔させてやるぜっ!」
ミロクとゼルが互いに火花を散らし、今激突した。
〜〜〜
その頃、ユートは目の前にいる黒づくめと対峙していた。
「……ここに何の用かな……?ここは僕しか入れない筈だけど……」
「……」
ユートは努めて平静を装うように慎重に目の前の黒づくめに話しかける。
しかし、ユートが話しかけても黒づくめは終始無言を貫き通している。
「……君は誰かな?……少なくとも今回の件とは無関係だと思うけど……」
今回の件、というのはレイラを狙う組織の連中の事だ。
ユートは目の前の黒づくめはレイラとは無関係だと推測した。
それは間違いではない。
これほどの隠密性があるのならばとっくにユートの目を欺き、レイラを殺していた事だろう。
しかし、それをせずユートの前に現れた事を考えれば狙いはレイラではなく、恐らくユートだ。
「……用があったのに姿を表したんじゃないのか……?だんまりを続けるなら僕はもう行くけど……」
「……」
ユートは少しでも早くこの黒づくめから離れたかった。
ーーーこいつは危険だ。
ユートが培ってきた経験による本能がそう告げている。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
直後、黒づくめがアクションを起こした。、
「⁉︎」
ユートは即座に臨戦態勢をとる。
黒づくめは右手を空に向かって掲げた。
しかし、それだけだった。
当然ユートは黒づくめの不可解な行動を訝しむ。
すると、ここで初めて黒づくめがユートへ話しかけた。
「……"私達は完成品……実験の"……」
「……?」
「"私達は造られた……神々の器として"……」
「何を言って……?」
「"来るべき時に神器である私達は解放される"……その時にこの世界は大きく命運が左右するだろう……」
「……」
「また逢おう、ユート……来る時に……」
「⁉︎待てっ!なんで僕の名前を……くっ……」
ユートが慌ててそう尋ねるが黒づくめが掲げていた右手から眩い閃光が放たれユートは思わず腕を手に当て、目を瞑る。
目を開けた時には黒づくめは姿を消して残ったのはユートただ一人だった。
「……なんだったんだ……あの言葉はどう意味で……それに……」
ユートは呆然と立ち尽くしながら黒づくめの言葉の意味を考える。
しかし、いくら考えようともその意味を今のユートが分かることはなかった。
「考えてもしょうがないか……⁉︎ミロクが誰かと交戦してる……僕がいないタイミングを攻めてきたのか、くそっ⁉︎」
ユートは思考を止め、ミロクとレイラの元へ急いだ。
(……それよりも今は、ミロク……無事でいてくれ……)
ユートは結界を抜け、森を疾風の如く駆け出して行った。




