二十四話 小さな変化
「エリエル……」
ユートはエリエルを見据え彼女の名前をこぼす。
「ちょうど話したいメンバーが揃ってるねー……これはラッキーラッキー」
にこやかに笑いながらいつものように何処か抜けた口調のエリエル。
しかし、その身体からは絶対的強者のオーラが滲み出ており、その場にいる誰もがまともに動くこともできなかった。
「エリエル殿……今回はどのような件でここへ……?」
国王のジータはエリエルが来た理由を聞く。
「今回ここに襲撃した魔族……確かアーゼルだったかな?あれが悪神になったのは知ってるかな?」
「なんだって……⁉︎」
悪神と聞き、ジータは驚愕の声を上げる。
悪神とは邪神の眷属の事で、一定以上の負のオーラを纏うと悪神になる。その上にさらに魔神というものが存在する。
悪神ともなれば国が丸々一つ落とされてもおかしくないほどの脅威であり、今の王国の軍事力を総動員させようとも討伐できるか危うい程のものである。
それ程の脅威をたった一人で討伐したユートに疑いの目を向けられるのは当然の事だった。
「その悪神を倒したユートって一体……」
誰かがそう呟く。
流石にこの状況でユートの正体を秘匿することは出来なかった。
やがて決心したようにユートが瞼を開き、エリエルを見据える。
その視線を理解したエリエルは頷き、口を開いた。
「……そこにいるユート・ラルシエールは私と同じ神話級で序列は二位だよ」
「は?」
流石に状況についていけず、ジータは呆けた声を上げる。
王妃のエリザは愚か、ミロクとアイラも信じられないと言った表情でユートを見つめていた。
「もしそれが本当なら……ユートくん……いや、ユート殿の種族はなんなのですか?確か神話級は各種族に一人までのはず……」
神話級にはいくつかの制約がある。
その一つとしてジータの言う通り、神話級に同じ種族の者を二人以上入れてはならないというものがある。
これはその種族の"最強"を二分化させない為の抑制でもある為、意外と重要な規範なのだ。
そして現状ジータ諸共、ユートの種族を人間族とは思っていない。
何故なら人間族では悪神を一人で倒すなどということは不可能だからである。
各種族には様々な特徴や秀でた才がある。
例えば獣人族なんかで言えば他種族よりも身体能力が高く、五感も優れているという特徴がある。
エルフ族で言えば、他種族よりも魔法の適正値が高いので必然的に強力な魔法師になる者が多いのだ。
他の種族もそれぞれ様々な特徴を持っている。
だが人間族にはそれがない。
人間族の唯一の特徴といえばその量だろうか。
生殖能力が非常に高い分、この世界において人間族の人口が一番多い。
また、他種族との生殖もできるというのも特徴だ。
元々人間族は人類の祖の種族でそれが進化して行き、様々な場所で順応できる身体へ変化させて言ったものが獣人族やエルフ族などの他種族なのである。
つまり、進化前である人間族は獣人族のような秀でた身体能力やエルフ族のような魔法適正値もない為、個々の能力はそこまで高くないのである。
少し長くなってしまったが、これが人間族が"最強"に属さない所以だ。
過去に一度も神話級に上がれた人間族は一人も存在しない。
だが、
「ユートは正真正銘、人間族だよ」
エリエルはきっぱりと断言する。
それを聞きジータは益々驚愕の表情になった。
「……で、では、何故神話級ともあろう者が我が国の育成機関で学生の真似事など……」
ジータの疑問は至極当然である。
本来、優秀な魔法師に育てる為の学院に最高峰の魔法師が通っているのである。
奇怪以外の何者でもない。
「まぁ、いろいろとあるんだよ……それにユートは見ての通りまだ十五だよ?本来ならそこにいる子達と共に切磋琢磨していくものじゃないかな?」
それを聞き、ジータは口を閉じる。
確かに十五の少年が学院に通う事はおかしくない。
「けどこうして素性を知られてしまった以上、ユートが学院に通うことはない」
「え?」
エリエルの言葉を聞き、驚きの声をあげたのはミロク。
「神話級は一カ国への介入は禁止されているからね。もしこの国に神話級が肩入れしているのが各国に知られれば、ユート以外の全ての神話級がこの国とユートを潰す、そういう決まりなんだよ」
「そんな……」
ミロクはどうしようもない事実に涙を浮かべながら両手で口を覆う。
「ユートは神話級で唯一、素性が知られていなかった。ユートは言い方が悪いかもだけど爆弾のようなものだからね……」
人間族初の神話級、さらにそれが成人すらしていない十五の少年……それが露見すれば世界は大きく傾くだろう。
人間族はその人口の多さから、人間族が束ねる国が多い。
「何より、ユートの存在は帝国だけには知られちゃいけない……」
エリエルの言う帝国ーーーラスカーノ帝国は人間が治める国である。
さらにラスカーノ帝国は各国の中で最も高い軍事力を誇る大国。
それ故に他国への侵攻や非人道的な事にまで手を染めたりしていると嫌な噂は絶えない。
神話級のエリエル達でさえ帝国に関わることを嫌っているほどだ。
「確かに最近の帝国の動きはなにやら不審だしな……」
ジータも顎に手を当てて頷く。
「今回の魔族侵攻でそこの王女殺害を企てたのも帝国に画策だったんだ」
「やはりそうか……」
エリエルの言葉に何処か納得していた様子のジータが神妙な声で呟く。
帝国は今回それなりに高い軍事力を誇るこれまた大国のここハウード王国を内部から崩そうとしていたらしい。
「まぁ、難しい話はここまでとして……ユート。わかってるね?」
「うん……」
話に区切りをつけたエリエルはユートへ視線を向ける。
ユートは一つ頷きエリエルの元へ歩きだす。
「本当にこれでお別れなんですか……?」
ミロクは寂しそうな表情でユートに声をかける。
「遅かれ早かれこうなっていた事だから……それじゃあ……」
「ユート……」
ミロクはユートの後ろ姿をただ見つめることしかできない。
ついにユートがエリエルの前まで辿り着く。
「さてと……じゃあ……」
エリエルはユートの頭にポンと手を置く。
そして、
「ユートに新たな任務だよ」
「うん……」
「この国に残って王女の護衛をしなさい」
「うん……………………え?」
驚いた様子で目をパチクリさせるユート。
周りも呆気にとられている。
「帝国にこの国を滅ぼされると私たち神話級にも迷惑だからね!ユートは学院に残って王女を守るんだよ!わかった?」
エリエル無理に後付けした様な理由をつらつらとユートに述べていく。
「わ、わかった……」
有無を言わさぬ様な勢いに身をたじろぎながらユートは素直に首を縦に振った。
「え?え?じゃあ……」
ミロクは何が何だかといった風に慌てている。
「と、言う事でジータ、エリザ!うちのユートをよろしくね!もし、ユートに何かあったら私が許さないからね!……あ!早くしないとゲートしまっちゃう!じゃあユート、また時間が空いたら遊びに来るから!…………あ痛!」
エリエルはそう言い残して閉じかけているゲートにものすごい勢いで飛び込んでいった。勢い余ってゲートの向こうで転んだであろうエリエルの声を残して、ゲートは完全に閉じられていった。
「う、うむ……なにやらよくわからんがこれで一件落着ということか……?」
「あらあらうふふ……お転婆なところは相変わらずね」
ジータもエリザも嵐の様に飛んでいったエリエルに半ば呆れながらもユートの在住に納得するのだった。
「よかった〜!またユートと一緒に学院に通えるね!」
ミロクはそう言ってユートに抱きつく。
「ちょ、ちょっとミロクさん!男の人に抱きつくなんてはしたないですよ!」
ユートに抱きつくミロクを見てアイラは怒ったような声を上げる。
「……結局エリエルの手のひらの上で転がされてたのかな……」
抱きつくミロクとそれを引き剥がそうとするアイラを横目で見やりながら小さくそうこぼすユート。
その表情は心なしか何処か嬉しそうであった。
ユートを取り巻く環境は少しずつ変化しながらまた学院生活を送っていく。
これにて第一章『学院対抗戦』編は完結です。
ここまで見てくださった方々、ありがとうございます。
二章へ行く前に閑話を挟もうと思います。よろしくお願いします




