二十三話 ユート対アーゼル ②
ユートの取り出した黒光りする剣。
刃渡り約六十センチほどの片手着剣だが、これと逝って変わったところはない。
その漆黒の刀身はユートの身につけている白い学生服とは対照的で少しばかり不釣り合いなものだった。
「久しぶりに持つけど……やっぱりよく馴染む」
使い込まれた柄を握り締めながら感触を確かめる。
すると、ユートの手にしっかりと馴染んで全くと言っていいほど違和感は感じられないほどだった。
「頼むよ……【マキュリー】」
ユートがそう言うと、それに答える様に【マキュリー】と名付けられた剣が光を反射して煌めいた。
ユートは【マキュリー】を構え、魔力を注いでいく。
その量は先程まで使っていた鉄剣とは比べ物にならないほどの量が注がれていた。
「疾っ!」
音速を超える速度でユートはアーゼルに接近して行き剣を振り下ろす。
アーゼルはユートの使っていた動きを模倣し、それに相対する。
「アガァ!」
しかし、アーゼルがユートの攻撃を防ぐことはできなかった。
アーゼルがユートの動きを持ってしても、今のユートの動きについてこれなかったのである。
アーゼルは同時に七箇所もの場所を斬り付けられ苦悶の声を上げる。
先程のユートの攻撃、それは今までの綺麗でお手本の様な剣さばきでは無く、何ものにもとらわれない不規則なものだった。
今までのユートの攻撃は乱れることのない美しいものだった。悪く言えば洗練されすぎているため動きが単調、攻撃の予測がしやすいのである。
だが、今の一撃はそれと全くの逆だった。
アーゼルが模倣したユートの動きを逆手に取る様に動きを変則的に変え、剣撃を放った。
それだけならユートが使っていた鉄剣でもできるだろうと思うかもしれないがそれは違う。
あのただの鉄剣では現在のユートの剣技に耐えられない。
正攻法で使われる為に打たれた剣は変則的なユートの剣技を使うにはスペックが足りないのだ。
その点ユートが今使っているこの【マキュリー】はユートの為に打たれた剣。
その剣にはまるで意思があるかの様に、ユートの剣技を最大限に活かすことが出来ていた。
そこから戦況は大きく逆転する。
アーゼルの学習能力を持ってしても今のユートの動きを模倣することはできない。
不規則なユートの動きにアーゼルはついて行けず為すすべなく攻撃を受けていく。
「ガァ⁉︎」
剣技で勝ち目が無いのが分かり、アーゼルは魔法を繰り出すが、ユートの無属性魔法⦅魔力防御⦆はアーゼルの攻撃を許さない。
今のユートの出力で貼った⦅魔力防御⦆は土属性上級魔法⦅不落の要塞⦆よりも硬い圧倒的防御力を誇っていた。
ユートは剣を逆手に持ちかえてアーゼルに攻撃をする。
するとまた攻撃が変化し、アーゼルは為すすべなく斬り付けられる。
神話級序列二位の称号を持つユートの実力は伊達では無い。
ユートが最も得意とする戦闘スタイルは一対一の状況だ。
圧倒的戦闘技術に底知れぬ魔力量、戦場で培ってきた感性などがユートの強さである。
アーゼルはそのどれもがユートよりも劣っていた。
つまり、勝敗は初めから決まっていたのである。
「ガァ……」
ユートの剣を受けるたびに弱々しくなっていくアーゼル。
もともと連戦だったアーゼルはもはや悪神となる前よりも弱くなっていた。
「終わりだ……」
ユートは最後の一撃をアーゼルに放つ。
剣で飛ばした斬撃がアーゼルを縦に真っ二つにし、上空から真っ逆さまに墜落していった。
こうして長きに渡る王国を脅かした魔族との決着に終止符を打ったのだった。
「ふぅ……」
アーゼルを倒したユートは、溢れ出る魔力をその身に戻して愛刀である【マキュリー】も【時空の指輪】へと収納する。
ユートは両手を組み伸びをしてその場に座り込んだ。
『今回の件で色々と学ぶことが多かったんじゃないのかい?』
脳内でイルナギが語りかけてくる。
「そうだね……ほんと、ここに来てから新しいことばかりだよ……」
ユートは目を瞑り今までの事を思い出す。
最初は学院に通うのは乗り気では無かった。
恩人であるエリエルの頼みだった為、渋々通う事を決めた。
しかし、時間が過ぎるたびその心境は徐々に変わってくる。
路地裏でミロクと出会い、一緒に住み始めたこと。
クラスメイトのリラとの訓練。
そして今回の対抗戦。
ユートは今まで経験したことの無い様々な事をこの学院で学ぶことができた。
そして少なからずそれをユートは楽しいと感じていた。
だからこそ……
「寂しいなぁ……」
ユートは晴れ渡った青空を見上げながら呟く。
今回の件でユートの実力が露呈した為、ユートは学院に通うことができなくなるだろう。
神話級は一カ国に干渉してはならない。
その戦力の貴重さから各国平等に扱われるのだ。
もし、ユートが神話級とバレればそれだけで様々な問題が出る。
それはユート自身がよく理解していることである。
ユートが力を露呈したことはエリエル達にも知られているであろう。
しばらくすればユートを迎えに来るはずだ。
「それまでには、ミロク達にお別れを言わないとな……」
ユートは重い腰を持ち上げてミロク達のいる所に戻ろうとする。
しかし、それは徒労に終わった。
「ユート〜!」
元気そうに手を振ってこちらに近づいて来る影が見えた。
ミロクともう一人、今回の敵のターゲットであったアイラだ。
「終わったんだね……あの魔族に勝っちゃうなんて……やっぱりユートは凄いね!」
人懐っこい笑顔を向けながらミロクがそう言う。
ユートはそんな彼女を微笑ましく思っていると彼女の後ろにいたもう一人の少女に目を向ける。
「……傷が治ってよかったよ、アイラさん」
「あなたが治してくれたってミロクさんに聞いたわ。その……ありがと……」
伏せ目がちにお礼を言うアイラ。
心なしか頰が少し赤くなっている気がした。
「お礼を言われるほどの事はしてないよ……そうなる前に助けなかった僕の方こそ本当にごめん」
そう言ってユートは頭を下げる。
その後しばらくこれまでの事について聞いた。
あの場に居たリラやマークは無事に避難できて居たそうだ。
ミロクの無事を見たリラは泣きながら抱きついて来たそうだ。
そして、ユートが魔族と交戦している事を聞いた宮廷魔法師団はもうじきここに到着するらしい。今回、この王国の最高戦力の団長が不在だった為、神話級への救援要請もして居たらしい。
また、学院長であるデュッホも無事に救助できたそうだ。
見つけた時はほぼ瀕死だったらしいが凄腕の治癒魔法師がたまたま近くにいた為、運良く助かったらしい。
尤も左腕は失われ、彼の伝説級としての実力も大幅に減少してしまったが。
そんな事を聞いているうちに豪華そうな馬車が一台こちらにやって来るのが見えた。
「あれは確か……王族の紋章……?」
ユートが視認した馬車の紋章はこの国の王族の紋章である。
やがて、ユート達の前で止まり、二人降りて来た。
一人は三十代くらいの男性でもう一人は二十代くらいの美しい女性だった。
「お父様!お母様!」
アイラは驚きの声を上げる。
アイラの両親、と言うことはやはりこの国の国王とその王妃だったようだ。
「おぉ……アイラよ。無事で何よりだ」
国王はそう言ってアイラの頭を撫でる。
アイラは特に拒絶の意を見せることなく受け入れて居た。
「あなた?人様の前でそのようなことはなさらないでください」
王妃がそう言ってジト目で国王を睨む。
国王はそれを聞き、ビクッとしながらアイラから手を離す。
どうやら国王は王妃には逆らえないらしい。
「んん……すまなかった。私はこの国の国王、ジータ・ハウード・ミレニアムだ」
「エリザ・ハウード・ミレニアムです。」
ジータとエリザはそう言ってユートとミロクに挨拶をする。
ユートとミロクも膝をつき、ジータ達に挨拶をする。
「よいよい。ここには私達以外おらんのだ……楽にしたまえ」
「それでは……」
ユートはそう言って立ち上がる。
「まずはユートくん、ミロクくん。娘を救ってくれてありがとう」
「いえ、お礼を言われることのほどでは……」
「そうです!クラスメイトを助けるのは当然です」
ユート達の物言いにジータは豪快に笑った。
「そうかそうか。いい友人を持ったようだの、アイラ」
「はい」
「それでユートくん……君がその魔族を倒したのは本当か?」
ひとしきり笑い終えたジータは真剣な表情でユートを見据える。
「はい、事実です。そこに転がってる魔族は確かに僕が殺しました」
淡々と答えるユートにジータは眉を寄せる。
(ふむ……やはり事実か……それにしてもこんな少年から平気で殺すと言う言葉が出て来るとは……)
ジータはふむと頷き、
「なるほど……それほどの力お主は何者だ?」
鋭い眼光でユートを射抜く。
「それは……」
そう言いかけたところで急に空間が歪みそこに穴ができる。
そこから女性が出てきた。
「そこから先は私も交えてほしいな?」
「嘘!もしかして……」
「え?」
アイラとミロクはその人物の登場に驚き目を見開く。ジータでさえ動揺して居た。
やってきた女性は燃えるような赤い髪を揺らし、澄み渡るような青い瞳を持ち、頭からは角を二本、尾骶骨から伸びる長い尻尾が特徴的な女性ーーーエリエル・バースフォルフその人だった。




