二十二話 ユートvsアーゼル ①
「お前はここで倒させてもらうよ」
刹那、ユートの魔力が放出された。
ユートの身体が目には見えない魔力で覆われていく。
髪の色が変化し、黒一色から紫がかっていき、瞳も琥珀色に変化していた。
これはユートがイルナギの力を引き出す時に起きる現象だ。
『今日の相手は手強そうだからね。ユートの⦅身体劣化⦆も一時的に解除することにするよ』
ユートの身体に憑依したイルナギが脳内に語りかけてくる。
同時にユートの枷となっていた魔法、⦅身体劣化⦆も解除された。
「久しぶりに解除したから身体がすごく軽く感じるよ」
ユートは腕を回して身体の調子を確認する。
「いい感じだ……じゃあ、いくぞ!」
ユートは腰に携えた鉄剣を振り抜き勢いよく跳躍する。
その速さは普段から訓練で相手をしているミロクでさえ視認できないほどの速さだった。
「すごい……これがユートの力?」
辺り一面を満たす程の魔力量に圧倒的に身体能力。その全てが今までに類を見ない様な規格外のものの為、思わず息を呑む。
「ガアァ!」
一方でアーゼルはユートの急接近の攻撃に辛うじて反応する事が出来ていた。
咄嗟に張った魔力壁により、その身をユートの剣撃から守る。
「ふっ!」
だが、それを見越していたかの様にユートは剣の軌道を変えてアーゼルの脆い部分に打ち込む。
「アガァ!」
予想外の攻撃を受けて苦悶の声を漏らすアーゼル。
慌てて空中でバックステップをし、体勢を整える。
「グガガガァ……ガアァァァァ!」
アーゼルは自分が追い詰められてる事に苛立ちを覚え、咆哮する。
ただ吼えただけでなく、それにより更にアーゼルの魔力は膨張していた。
「グラァァォァ!」
今度はアーゼルからユートに攻撃を仕掛ける。
アーゼルの手から無数に生成されていく黒い魔力球が上空からユートに降り注いでいく。
魔力球の弾幕を身を捩ったり、剣で切り裂いたりして躱すユート。
しかし、いくらユートでも弾幕となった魔力球を全て避ける事はかなわない。
「……」
そこでユートは致命傷となる攻撃のみを防ぐ手段に出る。
それにより、所々に損傷を受けているにもかかわらずユートは全く戦闘力が衰える事無くアーゼルに接近する事が出来た。
接近されたアーゼルは自らが持つ長い爪でユートに斬りかかる。
それを剣で受け止めるユート。
二人の攻防は更に激化して行った。
ユートとアーゼルが対峙してから暫く経ち、致命傷を負っていたアイラが目覚めた。
「ん……ここは……」
朧げな頭を働かせ、周囲の状況を確認する。
「あれ……私は……」
アイラは眠る前の自分の記憶を思い出す。
ミロクが自分のために体を張って守ってくれた事、ミロクを守る為に自分が犠牲になった事。
そこで異変に気付く。
「なんで生きているの……?」
あの怪我ではいくら治癒魔法でも再生は不可能だった筈だ。
それなのに自分が生きている事が不思議でならない。
それによく見ると開けられた腹部は綺麗さっぱり元どおりになっている。
どういうことかと頭を悩ませていると、
「アイラさん!」
元気のいい声がかかる。
振り向けば、狐の様な耳と尻尾を揺らす獣人の少女、ミロクが目に涙を溜めながら笑顔でこちらに向かっていた。
「ミロクさん……私……」
「アイラさんが私を庇ってくれた時、もうダメって思ったんだけどね、ユートがアイラさんの傷を直してくれたんだよ」
「ユート……?」
未だ状況について行けないアイラはユートという名前を聞いて一瞬誰なのか分からなかった。
だが直ぐに思い出す。
黒髪黒瞳のあの少年。自分が嫉妬していた者の名だ。
「でもどうやって……」
しかしアイラにはどうも腑に落ちない事がある。
それがいくらあの少年が凄腕の魔法使いであろうともあれほど重傷を負った身体を綺麗に戻すことなど可能なのだろうか?と。
「私も信じられないんだけど、本当にユートが直していたよ……」
そう言ってミロクは悲しそうに笑う。
何故その様な表情をミロクがしたのかアイラには分からなかった。
「それでそのユートさんは何処に?お礼をしたいのだけれど……」
アイラが辺りを見渡すがユートの姿は見えない。それにあの魔族ーーーアーゼルも。
「それなら今ユートがあそこで戦ってるよ」
ミロクがそう言いながら指を指す。
その方向を向ければ視認できないが確かに戦闘が繰り広げられているだろう音が聞こえてきた。
「危険だわ!早く避難しないと!」
しかし、たかだか生徒が魔族と戦っているなど正気の沙汰ではない。
アイラは焦った様に声を荒げながらミロクに詰め寄る。
しかし、ミロクは笑った。
「アイラさん、大丈夫ですよ。ユートは絶対に負けませんから」
それは、信頼からかはたまた別の何かから来るものなのか。
アイラにはミロクの笑顔にそう感じさせる何かを感じていた。
一方ユートは目の前の敵、アーゼルにやりにくさを覚えていた。
「一度使った戦法が通じない……まさか学習しているのか?」
『それだけじゃないね……更にユートの使った戦法を模倣して使用してきている……長引かせれば厄介極まりないよ』
アーゼルはユートと戦い始めてから何度もユートの攻撃を受けている。
それを学習して同じ様にユートへ攻撃しているのだ。
「グラァァォァ!」
またアーゼルの攻撃の手数が増えていく。
その代わり、ユートの攻撃の手数が減っていく。
ユートは剣を交えるたびにどんどん自らが不利になっていくのであった。
「くっ……どうする……?」
何箇所もの場所に傷が出来て来たユートはアーゼルを倒す為のプランを思案する。
このままではユートの攻撃が通らなくなり、アーゼルは手のつけられない怪物となる可能性がある。
『どうする、ユート……そろそろ本気でやばいことになりそうだけど……もう少し、出力を上げる?だけどこれ以上の剣技は君の持つそのガラクタじゃあ持たない……』
『「あぁ!」』
イルナギとユート、二人の声が重なる。
(そういえばこの剣、ただの鉄剣だった……)
今までこの剣を使っていて何の不自由も無かったユートの完全なる盲点だった。
ユートはこの剣が耐えられる様に無意識的に力を抑制してしまっていた。
それにより、力を解放していても満足に使いこなせていなかったのである。
それをイルナギとユートは今の今まで失念していた。
「それなら……」
ユートは右手の人差し指に嵌めている指輪に手をかざす。
そして、何もないはずの場所から黒くて長い物が取り出された。
【時空の指輪】ーーー異空間から収納しているものを取り出す魔道具である。
ユートが取り出したもの。それは黒光りした剣だった。




