十七話 魔族襲来
「では続いての試合は⁉︎我が国の王女アイラ様対プレッソ魔法学院のアーゼルくんだぁ!」
闘技場の舞台には今、透き通るような翠眼を爛々と煌めかせた少女と金髪の少年が相対している。
「……」
アイラは先程から向けられる怪奇な視線に訝しんでいた。
その視線は他でもない目の前にいる金髪の少年、アーゼルから向けられているのである。
「……私に何か……?」
アイラは我慢ならずそう問いかける。
するとアーゼルは、不気味な笑みを浮かべながら肩を震わせていた。
「……何がおかしいの……?」
アイラはアーゼルの反応に苛立ちを覚え、声を荒げる。
「キヒヒ、いやナニ。箱入り娘にはわかんねェようだからナ。それが滑稽でつい笑っちまったゼ」
「なんのこと……?」
「……鈍い奴だナァ。つまり、テメェはこれから殺されるんだヨ!」
刹那、アーゼルから迸るような濃密な殺気が放たれる。
「……っ⁉︎」
アイラは目の前の少年から突然放たれた殺気に頭が追いつかず、その場で硬直する。
それがアイラにとって致命的となった。
「あぐっ⁉︎」
アイラは腹部に襲い掛かった突然の衝撃に呻き声を漏らし後方まで飛ばされる。
その場で起きた一連の流れにアイラはおろか、観客までもが何が起こったのか分からなかった。
「ちょっと⁉︎まだ試合は始まってないのよ!勝手に攻撃するなんて失格に……ひっ⁉︎」
司会はアーゼルに文句を言うが自身の悲鳴のお陰で最後まで言うことはできなかった。
そこでようやく誰かが気づく。
「お、おい……彼奴、魔族じゃないのか……?」
震える声で誰かがポツリとそう漏らす。
そう確信に至ったのは、アーゼルの姿を見たからである。
アーゼルの頭からは二本の角が生えており肩甲骨辺りからは漆黒に染められた翼が生えていた。
「いやぁぁぁ⁉︎魔族⁉︎」
「なんでこんなところに⁉︎」
「死にたくない⁉︎」
観客はアーゼルの姿を見てその顔は恐怖に染まりパニックを起こす。
「落ち着いてください!焦らず避難を!」
しかし、その場にいた宮廷魔法師の避難誘導でなんとか惨事には至らなかった。
「何故、魔族が……」
「嘆くのは後にしろ!まずは一般市民の避難、それから陛下の護衛だ!」
「わかりました!副隊長」
そういうや否や、宮廷魔法師達は慌ただしく、行動を始めていく。
「ヘェ……案外優秀なもんだナ、宮廷魔法師って奴ハ……っと」
アーゼルは行動の早い宮廷魔法師を見て感嘆の声を上げながらも横から飛来してくる魔法を身体を捩らせて難なくかわす。
「以外とタフなもんだナ、王女サマ。キヒヒ」
アーゼルが目を向けた先には先程飛ばされたアイラが所々傷が見えるものの、瓦礫から立ち上がり、魔法を放っていた。
「キヒヒ、器用な奴だナ。魔法で失速させたカ」
「はぁ…はぁ……舐めないでちょうだい……」
アイラは息荒く、キッとアーゼルを睨みつける。
アイラは吹っ飛ばされた後、咄嗟に発動させた風魔法により、そのスピードを減速させて、身体にかかる負荷を減らしていた。
もし、そのままの勢いで壁に激突して入れば、背骨はバラバラに砕け、肺は潰れていたことだろう。
(……なんで魔族がこんなところに……それにあの魔族は逃げる観客を狙わなかった……どうして?)
アイラは置かれている現状について考える。
普通魔族は見境なく人の命を喰い散らかすのだがアーゼルはそれをしなかった。
アイラにはそのことが不思議でしょうがなかった。
「何故、観客を逃したの……?」
アイラはダメ元でアーゼルに問う。
「アァ?んなもん興味がねぇからに決まってんだロ。オレはオメェを殺せればそれで依頼達成だからナ。キヒヒ」
「私が狙い……?それに依頼って……?」
「そこまで話す義理はねぇな……オメェはここでオレに殺されるんだからナ!」
アーゼルはそこで会話を切り、今一度戦闘態勢へと移行した。
〜〜〜
一方その頃、控え室にいたユートは闘技場から発せられる濃密な殺気に気づいていた。
隣ではミロクとリラが楽しそうに談笑しており、殺気には気づいていないようだった。
不意に扉がノックもされずに、勢いよく開けられる。
「わぁっ!びっくりした!」
リラは突然開かれた扉に驚きの声を上げる。
「すみません……緊急事態なので……」
「緊急事態?」
ミロクは首を傾げ、入ってきたスタッフに聞き返す。
「えぇ、魔族の襲来がありました。選手の皆さんは早々に避難を開始してください」
「「魔族⁉︎」」
魔族という単語が出てきて、リラとミロクは怯えたような声を上げる。
それもそうだろう。
なぜなら魔族とは、古今東西、あらゆる種族から恐れられている恐怖の象徴である。
それが攻めてきたというのだから、平和に暮らしてきた彼女達の気が動転するのも無理はないだろう。
「では、彼方の出口から逃げてください。私は他の生徒の誘導がありますのでこれで!」
スタッフの男性はそう言い残し、颯爽と走り去っていった。
「私達も早く逃げよう!」
「うん」
ユート達はこうして出口へ向かっていった。
〜〜〜
「アイラ様!お下がりください!ここは私達が食い止めますので!」
闘技場内では避難誘導を終え、役割を果たした宮廷魔法師達がアイラを守るような形で陣形を組み、アーゼルと相対していた。
「だ、大丈夫よ!私も戦うわ!」
アイラは震える声で宮廷魔法師にそう叫ぶ。
「ダメです!素人がいていい現場じゃない!」
「っ⁉︎」
宮廷魔法師はそれをすっぱりと断る。
全くの正論を叩きつけられたアイラはそれ以上何も言えなくなってしまう。
「……わかったわ」
アイラは渋々と頷き、その場を後にする。
「キヒヒ!逃げられちまったゼ……まぁこいつらを殺してさっさと追いつくカ」
「そう簡単にここを通すと思うなよ!」
「ここで仕留める!」
余裕綽々のアーゼルに宮廷魔法師は一斉に魔法を放っていく。
その威力は先程までやっていた生徒のお遊戯とは比べ物にならない威力だ。
だが……
「なに⁉︎」
「効いてないだと⁉︎」
アーゼルの身体には一切の傷も付かなかった。
「チッ……なんだヨ。この程度かヨ……」
アーゼルは宮廷魔法師の魔法を受けて心底残念そうにつぶやく。
「つまんねェーから……死ネ」
アーゼルは上空に飛び上がり、右手を掲げる。
そこからその手に収まらないほどの黒い球が形成されていく。
そしてその球を闘技場に向かって投げる。
「⁉︎総員!防御魔法を展開しろ!」
宮廷魔法師の副隊長は焦ったようにそう叫ぶ。
隊員はそれを聞き全力で防御魔法を展開するが……
「……くそっ⁉︎このままじゃ……」
そう言い切ることなく、その言葉は途絶えた。
闘技場はアーゼルの放った攻撃で跡形も残らず、そこにはクレーターだけが残った。




