十四話 対抗戦 ②
リラとカシューが試合を開始してから数分が経過していたが、戦況は全くと言っていいほど変わっていなかった。
リラは持てる限りの魔法をひたすらに放ち続けているが、カシューの形成した土壁は一向に崩れない。
攻めのリラと守りのカシュー。
そのどちらが優勢なのかは試合を見れば一目瞭然だろう。
(……あの壁、なんて硬さなの……?)
リラは内心焦りを覚えていた。
それもそのはず。リラが放っている魔法は中級魔法、リラ自身が使える魔法の中でも最高火力である。それをいとも簡単に防ぎきっているカシューの土壁に荒い息遣いを整えながらもリラは思考を巡らせていた。
「……いくら魔法を撃とうが、俺の要塞は陥落させられない。諦めな、嬢ちゃん」
カシューは仁王立ちしたまま、リラに降伏をけしかける。
しかし、リラはカシューの言葉に耳を貸さずに魔法を撃ち続けた。カシューにはそれがリラの覚悟に見えた。
「……それがお前の出した答えか……ならば気力が尽きるまで攻撃してくるがいい!その全てを防ぎ切ろう!」
リラの覚悟を垣間見た、カシューは余裕の表情をしていたその顔を引き締め、土壁越しにいるであろうリラを真っ直ぐと見据えた。
そして、新たな魔法を詠唱した。
「大地を持って矛を沈めよ!⦅不落の要塞⦆!」
次の瞬間、カシューの前に形成された土壁が黒色に変色し始め、その大きさも以前の倍以上となった。
その要塞に誰もが息を呑んだ。それほどまでカシューの使った魔法に驚かされていた。
「……なんなの……この壁は……」
リラは目の前に出来た新たなる壁ーーー要塞にただその場で立っていることしかできなかった。焦りや動揺よりも先にリラが感じたのは圧倒的実力差だった。
「……土属性上級魔法、⦅不落の要塞⦆。この壁はただの土ではなく、大地の奥深くに眠っていると言われているミスリルが混ぜ合わせてある」
カシューの説明にリラは当然の事ながら周りからどよめきが起きる。
その中には宮廷魔法師の声もあった。
「まさかあの年で上級魔法を使えるまでに至った子がいるとは……しかし、あのカシューと言う少年の名は聞いたことありませんね……」
「うむ、恐らく辺境地に住んでいたか、国外出身、あるいは…………傭兵だろうか?」
「傭兵……ですか……?」
「あぁ」
宮廷魔法師の男はそう言って顎をさすった。
カシュー・ノーゼットは学院に入るまで傭兵としてその身を削っていた。
傭兵とは言ってしまえば何でも屋である。
魔物の討伐や街中での警備、さらには暗殺など様々の事を行なっている。それらを依頼主から依頼された事をこなして報酬をもらう。それが傭兵である。傭兵をやる者は大体が魔法師崩れや盗賊など、訳ありで正規の仕事に就けない者たちである。その為傭兵という職業は国では非公式な職なのだ。
カシューにも勿論傭兵をやる理由があった。
カシューはもともと辺境の小さな村でか細い暮らしをしていた。家は決して裕福ではなかったがそれでもカシューにとっては十分だった。
しかし、カシューのいた村は突然魔物が襲いかかり、一夜にして壊滅する。奇跡というべきか、生存者はただ一人、カシューだけだった。当時11歳だったカシューは行くあてもなくただただ必至に生き抜くことだけを考えた。
幸運というべきかカシューには魔法に才があった。
生きる為には金が必要。そう思ったカシューは転々と各地を周り傭兵として、金を稼いでいたのである。
傭兵として腕の良いカシューは偶然にもドルップ魔法学院の学院長の目に留まり、学院へ入学したのだった。
「悪いな嬢ちゃん……俺には返すべき恩がある人がいるんだ……その為にはまずこの大会に優勝しなければならねぇんだ……」
そう言ってカシューはリラを見据えた。
リラは自身との実力の差を感じた為か、はたまた魔法の使いすぎなのか、その身体はもはや満身創痍だった。そして足で体重が支えられなくなり、前方へ倒れ込んで行く。
(ごめんね……ユート……ミロクちゃん……勝てなかった……)
リラは薄れ行く意識の中、友達の二人に謝罪をしながらその場で倒れた。
「試合終了!リラ選手が戦闘続行不可能となりましたのでカシューくんの勝利です!」
こうして二試合目はカシューの勝利で幕を閉じた。
「リラちゃん……」
ミロクは担架で運ばれて行く友人を見ながら悲しみで涙を浮かべている。
「……対戦相手が悪かったね……相手は戦闘なれしてた」
「でもさっきユートは彼の壁は打ち破れるって……」
「あぁ、壁は壊せる事は出来た……けどリラはその方法には気づけなかったようだね……」
ユートはそう言って瞼を閉じた。
先程使っていたカシューの魔法、⦅土壁⦆とその上位互換である⦅不落の要塞⦆には致命的欠点が存在する。
どんなに強力なものであろうと必ず弱点は存在する。
土属性魔法は基本的に守りの魔法と言われ、そのほとんどが外敵からの攻撃を防ぐ魔法だ。
⦅不落の要塞⦆もその名の通り、防御魔法であり、その防御力は火属性上級魔法でも突破不可能であろう。
しかし、⦅不落の要塞⦆は言ってしまえば堅いだけなのだ。
堅い物を壊すにはどうすればいいか?
それは至極単純、鋭い鉾を持って穿てばいいのである。
どんなに堅いものでも鋭い攻撃には弱い。その為、先の試合で言うならばリラの使う魔法は⦅水斬⦆ではなく⦅水弾⦆の方が良かったのである。中級魔法の⦅水斬⦆は殺傷力の高い魔法に対し、初級魔法の⦅水弾⦆は貫通力の高い魔法なのである。
戦いにおいて必ずしも威力の高い魔法が強いのではない。その場で臨機応変に使い分ける事こそが真に魔法師として必要な能力なのだ。
(まぁ、リラもまだ一年だ。これからそれは学んで行くだろう)
「リラちゃんの為にも私達が勝ち上がっていきましょうね」
ミロクは決意に満ちた表情でユートを見つめる。
「……そうだね、その為にも他の選手は見とかないとね」
「はい!」
ユートとミロクは決意を胸にその場を離れていった。
人物紹介
カシュー・ノーゼット
15歳
人間族(男)
適正魔法 土属性
身長は180センチで筋肉隆々。
類稀なる魔法の才で学院に入るまでは傭兵をしていた。
その為、戦闘経験も豊富で選手の中でも実力は頭一つ抜けている。




