第二話 悩み
2018/5/31 誤字訂正
エリエルの衝撃的な発言を受けてから数分が経ち、ユートは自室に戻っていた。
ユートの部屋にはベッド、机、椅子、そして様々な本がびっしりと詰まっている本棚しか置いてない。このくらいの年の少年の割にはやや簡素な部屋である。部屋の広さはエリエルの部屋とは変わらないのに先程居たそこよりもだいぶ広く感じてしまう。
「はぁ〜〜〜」
ユートはベッドにうつ伏せになり枕に顔を埋めながら長い溜め息を吐く。
「それにしても学院……かぁ…」
未だに信じられず、といった感じで呟く。その表情も憂いを孕んでいるようであまり優れない。
実はユートは悩んでいた。
それは本当に自分が学院に通っていいのだろうかという不安によるものである。ユートは若干15歳で世界最強の神話級の1人だ。当然これまででも進行して来た魔物や魔族、そして魔神などの討伐を行ってきている。そんな彼と普通の学生とでは生活の環境が違いすぎる。ユートはこれまで生きてきた経緯上、世間一般での常識にはかなり疎いし、人付き合いも圧倒的に少ない。それは自分でも自覚しており、だからこそそんな自分が普通に学院に通うということに躊躇いを感じているのである。
ーーーコンコン
ユートが思案していた所に不意にそんな音が扉から聞こえた。こんな時間に来客とは珍しいなと思いながらもユートはドアノブに手をまわす。
「こんにちわ、ユートくん」
そこに立っていたのは20代くらいの女性だった。ウェーブのかかった金髪を腰あたりまでのばしておりその髪は見ただけでもサラサラできめ細やかだと分かる。また、瞳の色が左右で違う、所謂オッドアイで右眼が緋色、左眼が紫色になっている。背中からは二枚の白い羽が生えており、その姿はさながら天使のように神々しい。
「ミーナさんでしたか、こんにちわ」
「えぇ、それでちょっと用があるのだけれど上がらせてもらっていいかしら?」
「分かりました、どうぞ」
「ありがとう、お邪魔します」
ミーナと呼ばれた女性は、ペコッとお辞儀をしながらユートの部屋に上がる。
ーーーミーナ・スペラ
彼女もまた神話級の1人であり、その序列は5位。種族は天翼族と呼ばれるもので、その背中から生える二枚の白い羽が特徴的な種族である。誰に対しても優しく接する非常に温厚な性格で、その妖艶な身体から滲み出るオーラからは頼り甲斐のあるお姉さんという感じがうかがえる。
ユートはミーナにベッドに座るように促す。その後、自分も椅子に座り会話に切り出した。
「ミーナさんは何故ここにきたんですか?」
「う〜んそうねぇ、カウンセリングかしら?」
「カウンセリング…?」
ユートはよく分かっていないという風に首をかしげる。
「えぇ、ユートくん今すごく悩んでるんでしょ?………学院に通うことに」
「…っ⁉︎」
確信をつかれたことにユートは動揺を隠せない。そして勤めて冷静になるよう深呼吸をしてからミーナに問うた。
「……なんで分かったんですか…?もしかして顔に出てました?」
「う〜ん、長年の勘?かな?」
見てくれは20代のミーナだが実年齢はもっと高い。というのも天翼族である彼女は寿命も長いのでその分衰えも遅いのだ。ユートの種族は人間族だがその平均寿命は80〜90歳である。それに比べて天翼族の平均寿命は人間族のおよそ2倍、つまり200歳ほどである。故に先程の彼女が述べた長年の勘、というのはユートよりも圧倒的に長く生きているのでその経験上、あながち間違いではないのかもしれない。
「……」
またユートもその事を分かってか、深くは追求しない。これも共に前線で戦ってきた仲間としての信頼があってのこととも言える。
ミーナは微笑みながらその視線でユートに相談するように促す。その意図に気づいたユートは一瞬躊躇いながらもポツリポツリと自分の悩みを打ち明けていく。
「……すぅー…はぁ…」
話を書き終えたミーナは深呼吸するように息を吐く。ユートの悩みは正直ミーナの言葉でどうこうなるようなものではない。それは人の心、つまり精神的問題でありそれを解決し、成熟させていくにはやはり自分自身で乗り越えなければならない。何も出来ないことにミーナは小さく歯噛みする。それはユートに何もしてあげられないことへの悔しさから来るものだった。
正直に言ってユートが神話級でいる事にミーナは反対だった。
ーーーどうしてこんなにも幼い少年を最前線で戦わされなければならないのか?
ーーーどうして大人達を差し置いてこんな大役を背負わされているのか?
ユートが初めて神話級に所属した時にミーナはこう感じていた。しかし、ユートの戦闘を見て同時に納得もしてしまった。
ーーーあぁ、この子は強い、いや…強すぎる、と。
そして結果的にユートに頼ってしまっている。きっとミーナに限らず神話級全員がユートに負い目を感じている。それこそエリエルは人一倍に…
ミーナは自分達のせいでユートが悩んでしまっているのに自分がかけていい言葉などあるのか?などと考えてしまう。そんな迷いを振りほどくかのようにミーナは首を振りユートに思いを伝えた。
「ユートは優しい子だから直ぐに人の心配をしちゃうと思うの…でももっと自分にも優しくなってもいいのよ?」
「…自分に…優しく?」
「えぇ、だからまずは同い年の子が見てる景色と同じものを見てきなさい。そうすればきっと別のものが見えてくるわ。」
ミーナはそう言って微笑みながらユートの頭を優しく撫でる。その姿は弟を思う姉のようだった。
「…あ、ありがとうございます。ミーナさんがそういうなら少し頑張って見ます…」
撫でられて気恥ずかしかなったのか、ユートは視線下に晒し顔を少し赤らめながらお礼を言う。ミーナはそんなユートが可愛くてつい抱きしめてしまう。ユートはミーナの胸に蹲る形になってしまいその顔をさらに赤くする。心なしか顔から湯気が出てるように見える。
流石に我慢できなくなったのか、体を仰け反らせてそのまま脱却する。その時のミーナは何故か不服だったが…
「ミ、ミ、ミーナさん!あの、その、今日は本当にありがとうございますっ!」
しどろもどろになりがらもお礼を言うユート。しかし、その顔には先程の憂いは無く、どこが吹っ切れたようにも見えた。
「さーて、ユートくんも元気になったところでもう一つの方のお手伝いもしないと」
「もう一つ?」
「えぇ、ある意味こっちの方がこれからのユートくんには大切なことだわ」
「それって…」
「それはね…」
ミーナは一呼吸置き、ユートに告げる。
「入学試験よ」
これからユートは入学試験を突破する為にさらなる苦労が強いられるのであった。
各部屋の様子・・・
エリエル
割と片付いているがそこら辺に脱いだ服やら下着やらが落ちてる。内装に特に拘りは無く、女の子らしい部屋ではない感じ。紅茶の匂いがする。
ユート
本編で描いた通り
ミーナ
すっきりとしたとても整った部屋。机やタンスなどを宝石なんかで少々着飾っている。薔薇のフレグランスが漂う。