十二話 波乱の予感
「はぁ……はぁ……ッ⁉︎……くっ⁉︎」
ここは王都から少し離れた平原。
そこには二つの影がまだ上りきっていない陽の光に照らされていた。
だがその二つの影は対照的。
「どうしたんだい?まさかこのくらいでへばっちゃったかい?」
「ぅぐッ⁉︎……まだ平気だ⁉︎」
一人はただ悠然とその場に佇み、もう一人は至る所に傷を作りながらも尚、目の前の相手に向かって行っていた。一見して見ると身長は15センチほど違い、攻められている方が明らかに年下の様に見えるがその実力は容姿からは想像もできない様なものだった。
少年の特徴は紫色の髪に琥珀色の瞳、身長は150センチほど。身体付きも体が作られている様な筋肉は無い。にもかかわらずその棒の様な細い腕で自らの身長よりも大きい大剣を軽々と振り回していた。それも片手で、である。
「ほら、頭上がお留守だぞ!」
「しまっ⁉︎……ぐっ⁉︎」
少年は相対する彼へとアドバイスをかけながらもその隙を逃さず大剣を振りかざす。
その攻撃に反応出来なかったもう一人の黒髪の少年はもろに攻撃を浴びてしまい地面にその身を転がした。
「ふぅ……今日はこんなもんでいいだろう……大丈夫か?ユート」
数十メートルは吹っ飛んだであろう黒髪の少年、ユートに対して心配そうに紫髪の少年が声をかける。
「っ⁉︎……うん大丈夫だよ……イルナギ」
ユートはそれに大丈夫と返事をし立ち上がった。
時間にしてみればまだ早朝と言っていい時間。ユートは目の前の相手イルナギに稽古をつけてもらっていた。
ちなみにイルナギとはユートと契約している神であり、普段はユートの中にいるのだが、ユートの魔力を媒体にしてその身を現世に宿す事が出来る。尤もイルナギ本来の力は大幅に減少しているため、大した問題にはならない。視認できるのも契約主であるユートだけで他の人には気配を感じることすらできない。なんでも、神の気配は通常のそれとは違うらしく神気というものを感じ取れなきゃいけないらしい。
神気を感じ取れるのはユートを除いては隣国の聖女辺りだろう。
何故こんな朝早くにイルナギに稽古をつけてもらっていたかというと、先の戦闘、ユートとミロクを攫った闇ギルドの一員との戦闘で想像以上に苦戦を強いられた。そのことに対し、イルナギが最近平和ボケしてるんじゃ無いか?とユートに言い、久しぶりに稽古をつけることになったのだ。
「ところでユート……今日で何敗目だ?」
「……487敗目……」
「もうすぐ500に届くな」
「……うるさいっ」
イルナギの厭らしい挑発にユートは不機嫌さを隠そうともせずにそっぽを向く。
ユートはイルナギと出会ってから唯の一度も勝てたことないのだ。神話級序列二位のユートが勝てないイルナギは一体どれほどのものなのかと聞きたくもなるが、考えてみれば相手は神、当然といえば当然である。
イルナギはユート反応を見て面白がっていた。
「ほら、早く帰んないとお嬢さんが起きちゃうよ」
「わかってるよ……」
イルナギがお嬢さんと呼んでるのはミロクの事である。
ユートはイルナギに頼んでボロボロになった服と身体を直してもらいそそくさと帰路に着いた。
「……それで今日の対抗戦は緊張するね」
「……うん、そうだね……」
ユートは朝の稽古が終わり一度家へ戻った後、朝食をミロクと摂り、学院へと向かっていた。
実は今日は魔法学院に通う一年生にとってはかなり重要になってくるイベント、対抗戦の日だ。対抗戦にはユート達が通うハリトオード魔法学院を含めて五校が参加し、各学院から五名の生徒がトーナメント形式で勝負する。対抗戦に出場した選手は宮廷魔法師に一目おかれる為、生徒たちにとってはとても貴重なイベントなのだ。さらに対抗戦には国王陛下も来席し、優勝者には国王陛下直々に名誉勲章を授与されることとなっている。
ユートとミロクはしばらく歩いていると魔法学院が見えてくる。門の前には馬車と学院長が立っていた。
「フォッフォッフォッ!ご無沙汰だだだのう、ユートくん、ミロクくん」
「お久しぶりです学院長」
「お久しぶりです」
ユート達は軽く学院長と挨拶を交わす。
「他の選手はもう馬車に乗っておるぞ。お主らもこの馬車に乗ってくれ」
「わかりました」
ユート達は馬車に乗り込もうとするが途中、後ろから学院長に声をかけられた。
「今日の試合、期待しとるぞユートくん」
「まぁ、ぼちぼちと」
ユートは苦笑いしながら馬車に乗り込んだ。
〜〜〜
「……いよいよ今日だ。失敗は許されん」
「キヒヒ!俺サマが殺るんダ。心配はいらねェヨ」
「……ふん、期待しておくとしよう」
「キヒヒ!アァ、必ずテメェのところに王女サマの首を届けてやるヨ」
対抗戦で盛り上がる中、静かに闇が動こうとしていた。
〜〜〜
一方国王陛下御一行は。
「国王陛下、王妃様。ではこちらへお乗りください」
「うむ」
「今日はアイラの活躍が観れるのね。楽しみだわ!ねぇ、アナタ?」
「あぁ。だが、アイラが優勝するとは限らんぞ」
「うふふ、そうね。アイラよりも強い男の子がいたらアイラをその子のお嫁さんにしてもらおうかしら」
「なにっ!アイラを嫁に行かせるなど儂が許さん!其奴の首を国王の勅命で切り落としてくれるわい!」
「うふふ」
この国の国王はどうやらかなり親バカだった。
だが、国王はこの時思っても居なかっただろう。
ーーーアイラの同学年に人類最強がいることを。
ーーー王女の命が狙われていることを。
それぞれの思いが渦巻く中、対抗戦は着々と始まろうとして居た。




