七話 殺し合い
「ごめん、遅くなって」
「あ、うっ……ユート、さん……」
ミロクは歓喜のあまり涙をボロボロと零し、ユートを見つめた。
「……何故貴様が此処にいる?」
男は警戒心をむき出しにしてユートへ尋ねる。
「あんたこそこの程度の結界で僕の目を欺けると思ったのかい?」
「何……?」
〜〜〜
ユートはあの後、ミロクが誘拐されたことを考えて行動した。
誘拐犯も当然痕跡を残しておらず、手がかりがない状況だった。
しかし……
「……ふぅ、どうやら向こうの方から認識阻害の結界がかけられているな……とすると、そこが当たりかな?」
ユートはミロクを探すのでは無く、ミロクの連れ去られた場所を探した。
結果、それらしき場所を最速で見つけ出し今に至るわけだ。
〜〜〜
「……だが解せんな。この結界の解除は術者である俺しか出来ない……一体どうやってこの結界に入って来れた?」
男はユートがここまでたどり着けたのが甚だ疑問だった。結界に入れるのは指定された者のみ、それ以外の者は何人たりとも侵入はできないのである。
「別に解除する必要なんてないさ……壊せばそれで済む」
「なっ⁉︎」
男は驚きで目を見開く。
今、目の前の少年はなんて言った?壊す?この結界を?
ありえない事を言われ普通ならつまらない冗談とひと蹴り出来たかもしれない。しかし、現に今ここにいるという事がなによりの証拠だった。
男は目の前の少年に対し、警戒レベルを最大まで引き上げた。
「……どうやら貴様は危険のようだ……よってここで始末する!」
そういうや否や、男は腰に巻きつけていた短刀を引き抜き、ユートへ突貫して行く。その速度は余りに速く、ユートとの距離を一瞬で詰める。
「もらった!」
男はユートの首を目掛けて短刀を一閃する。
「ユートさん!」
ミロクは悲鳴のような叫び声を上げる。
ユートが全く動かなかったのを見て、反応できなかったと思ったのだろう。
そして、ユートの死を確信して、ミロクは目を瞑る。
しかし、
ーーーキイィィィィィン!
というかん高い音と共にミロクは強く瞑っていた目を徐々に開ける。
するとそこに写っていたのはユートの首の目の前で短刀が止まっているところだった。
「……貴様何をした……?」
「防御魔法を施しただけだけど?」
焦ったように聞く男に対し、ユートはさも当然のようにそう答える。
ユートの声を聞き届けた後、男は即座に後ろへ飛び退いた。
「僕からも一つ聞いていいかな?」
「……なんだ?」
「どうしてミロクを攫った?」
「……とあるお偉いからの依頼でな、この女を攫えという」
「ふーん、そう……まぁ依頼の詳細は聞かないでおくよ、特に興味ないからねっ!」
瞬間ユートの身体がぶれたかと思うと、その身体は既に男の前まで迫っていた。ユートが剣を振り抜き男を斬りかかるが男は短刀でそれを弾く。
その後も一合、また一合と互いに剣をまじ合わせるがどちらも引けを取らない互角の勝負が繰り広げられた。
しかし、それもしばらくして瓦解する。
「⁉︎」
一瞬、ユートは男の攻撃に対して僅かに反応が遅れる。致命傷にならなかったものの、その刃はユートの頰を薄く掠めた。
そう、徐々にユートが押され始めてきたのである。
実力は両者互角といったところだが、ユートの動きに変化が見られてきた。
「……ふぅ…」
ユートは一度間合いを開けて息を吐く。
先程から押されていたユートは肩で息をしながら額には汗を浮かべていた。
「どうした?先程から動きが悪くなっているが?」
「……毒か……」
「ほぅ、気づいたか……だが、気づいた所で状況は変わらんがな!」
二人の間は再び近づく。
男がユートに向かってもの凄い速さで駆ける。
「くっ……⁉︎」
ユートも反応はするが先程よりその動きは鈍い。
男の攻撃を徐々に受け始め、至る所に浅い傷がつけられ始めていった。
(このままじゃ、ジリ貧だな……)
ユートの左腕は毒が回り始めた為か動かなくなり、だらんと垂れ下がっている。
ここまで追い詰められるのはユートにしては珍しい。
勿論毒の影響で動きに支障が出ているせいもあるのだが、それだけではない。
目の前の黒づくめの男は相当の実力者だった。特にその動きから見て取れるのは対人格闘能力が極めて高い。
そして、もう一つ。それは、ユートが連戦であることだ。
先程までユートはA級の魔物を相手にしていた為、その影響も少なからず、出ているのだろう。ユートの能力は自身に掛けられた⦅身体劣化⦆のせいで大幅に減少している。そのせいで疲労も早くなっているのだ。
「……貴様、何者だ?何故毒が回っている状態でそこまでの動きができる?」
だが、ここまで追い詰めているのに目の前の少年は未だ死んでいない。それどころか、致命傷すら受けていない状況だった。
故に、男にとってそれは当然の疑問だった。
「そう言うあんたこそ、その対人戦闘技術は明らかに常人では無い……まさか、闇ギルドのメンバーか?」
「ッ⁉︎……なるほど、どうやら貴様の事はますます生かしては置けなくなったようだ……」
男はユートの言葉に一瞬驚いた後、先程よりも濃い殺気を放つ。
(やっぱりか……だとするとこのままだとかなりまずいな……どうする?)
ユートはこのままだと確実に殺されることが分かっていた。⦅身体劣化⦆を解けばそれだけで済む話だが、それだとエリエル達に迷惑がかかる可能性が出てくる。ここは別の方法を模索しようと考えていると、突然ユートの頭に声が響く。
『いつまでそんな痴態を晒すんだい?僕を使えばそれで済む』
(いや、それじゃあ⦅身体劣化⦆を解くのと変わらないよ……君はまだ出るべきじゃない)
ユートは頭の中で語りかけてくるそれを拒否するがそれは尚も食い下がってくる。
『そういうなよ……僕だって暇だったんだ。ここ最近ずっと中にいるだけでさ』
(そうは言っても……)
『大丈夫さ、別にユートが考えてるような惨事にはならない』
しつこく話しかけてくるそれ|にとうとうユートが先に折れる。
(……はぁ、分かったよ。けど一割だ、それ以上は許可しない)
『ユートは心配性だなぁ、でもまぁいいけど』
そこで脳内での会話は途切れる。
そして意識を目の前の男に向ける。
「悪いけど、僕の方もあんたを生かせなくなった」
「何?」
ユートは身体の力を抜き、目を瞑る。
そして身体の中にいるそれに呼びかけた。
「力を貸してもらうよ、イルナギ!」
瞬間、ユートからとてつもない魔力が奔流した。
主人公台詞変更
レグリア→イルナギ




