六話 誘拐
王都にある、とある倉庫にて……
「うっ……ん…………ここは……?」
目が覚めると知らない空間に居た。
そこは薄暗く特に何もないただただ広いだけだった。そして何故かそんな所に自分は寝かされている。
「……なんで私はこんなところに……ッ⁉︎」
取り敢えず現状を確認しようとミロクは体を起き上がらせるが途端に身体に激痛が走る。
よく見ると所々痣があり、手首が縄の様なもので縛られていた。
「そうだ……確か知らない人が家にきてそれで…….……」
ミロクはそこでようやく自分に何があったか思い出す。
〜〜〜
ユートが出かけた後、ミロクは普段通り家事を行なっていた。
暫く経ち、一通りの家事が終わりひと段落ついたところでミロクは異変を感じた。
『……知らない人の匂いがする……』
獣人族であるミロクは鼻がよく効く。
その為、部屋から漂う匂いの僅かな変化を嗅ぎわけることができた。
『……⁉︎誰っ⁉︎』
ミロクは背後からの気配にいち早く察知し、すぐさまその場から飛び避ける。
すると先程までそこには居なかったはずが今は一人の男が立って居た。
『ほう……流石獣人族。大した危機察知能力だ……』
男の外見は全身黒づくめ、顔もフードで隠れており、全てが謎に包まれて居た。
『……何しにここへ来たの……?』
ミロクは警戒を怠ることなく、その男に極めて冷静に尋ねる。
『お前が欲しいと言う依頼があってな。そいつにお前の誘拐を頼まれてここへ来た』
『……誘、拐…?』
ミロクは目の前の男の言葉に背筋を凍らす。それはミロクにとってのトラウマであり、未だ克服出来ていない。
『そうだ……貴様もよく知ってるだろう……ロワール伯爵』
『ッ⁉︎』
男の口から出た人物にミロクは顔が青ざめた。全身から血の気が引いて、立つこともままならない様な状態まで陥る。
『なん、で…捨てだはずじゃ……⁉︎』
ミロクは絞り出す様に目の前の男へ尋ねる。その声は震えており、そのせいで所々掠れていた。
『どうやら伯爵様はお前を気に入ったらしくてな』
『いやぁ……』
男は一歩づつ近づく。
『悪いが連れて行かせてもらうぞ、これも以来なのでな』
『来ないでぇ……』
また一歩、一歩と確実にミロクへ近づく。
ミロクの方は完全に怯えきっており、その目には涙を浮かべている。
『抵抗しなければ痛い思いはせずに済む……まぁ、それは今だけだろうがな』
『いやぁぁぁ!来ないでぇ!』
男がミロクに手を伸ばした瞬間、ミロクは半ば無意識に火属性魔法を男へ向けて放った。
ーーードゴオオォォォン!
ほぼゼロ距離で男はミロクの魔法を受ける。部屋の中からけたましい音が鳴り響き、その音は家の中にとどまらず街中に響き渡った。
部屋の中が煙で充満する。
やがて煙が晴れ、視界が確保される。
しかし、それによってミロクは絶望する。
『う、そ……⁉︎』
何故なら目の前の男が無傷で立っていたからだった。
『……悪いな、仕事上不意打ちには対応できる……』
(だめ!この男には絶対に勝てない…!ここは逃げなきゃ……)
ミロクは動かない身体を無理やり動かしその場を退散しようとする。
しかし目の前の男はそれを良しとはしなかった。
『逃さん』
『っぐ……⁉︎』
瞬間、ミロクの腹に凄まじい衝撃が走る。
見れば目の前の男がミロクの鳩尾に掌底をくらわせていた。その衝撃でミロクは一気に後方まで飛ばされる。
『ガハッ!』
壁に叩きつけられたミロクはその衝撃で肺の空気を吐き出す。
そしてその場で倒れ込んだ。ミロクは急いで起き上がろうとするが身体へのダメージが大きすぎたせいでまともに立つこともできない。
『悪く思うな……』
そして近づいてきた男の手刀がミロクの首に打ち込まれ、ミロクは視界をブラックアウトさせた。
〜〜〜
何故ここにいるかを思い出したミロクは顔を青ざめてガタガタと震えだす。
それはこれから起こりうるだろうことへの恐怖からくるものだった。
「うっ、ユー、トさん……」
ミロクは必死に自分の気を保つ為にユートの名前を呼んだ。それは彼ならばもしかすればなんとかしてくれる、そういう期待からくるものだった。
しかし、来たのは無慈悲な返答だった。
「其奴はここには来ない」
「っ⁉︎」
ミロクは慌てて、声の方へ顔を向ける。そこにいたのは自分を此処へ連れてきた、男だった。
「此処は特殊な結界が張ってある。万が一にも助けは来ない」
「そん、な……」
ミロクは唯一の望みも打ち砕かれ、弱々しくその場にへたり込む。
「次に見る顔は其奴の顔ではなく、伯爵様の顔だ……」
そして、その言葉がトリガーになった為か、ミロクはその目から涙を流す。
(短い間だったけど……幸せな毎日だったな……最後にユートさんにお礼を言いたかった……)
ミロクは抑えきれない思いを噛み締めながら静かに目を閉じてその時を待った。
しかし、この場にいる誰もが予想だにしないことが次の瞬間、起こった。
ーーーバコオオオォォォン!
部屋の外から耳がツン付く様な音が聞こえ、それと同時に地面が揺れる。
「なっ⁉︎結界が破れた……?」
男は未だ信じられないと言った風に激しく狼狽していた。
そしてガラガラと扉が開かれ、薄暗い部屋に一筋の光が射す。そして、その先に立っていたのはミロクが見知った人物だった。
「ごめん、遅くなって」




