五話 魔物討伐
ハリオード魔法学院には七日に一度休日がある。実技での激しい運動が続く為、身体を休めたり、気分転換をする為に設けられているのだ。
今日はその休日でユートは出かける予定があった。
「じゃあ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、ユートさん」
今回ミロクは一緒ではない。というのもユート一人で来いと言われてるからである。
ミロクはお伴しますと言っていたが聞かせられない話があるからと言って渋々引き下がらせた。
ユートが向かったのは、王都南にある森。
ここ最近、強い魔物が出没すると言われているらしく。その魔物の討伐命令が下った。勿論これには王都から討伐隊が派遣されたのだが、返り討ちに遭った為、神話級への討伐申請が送られたのである。
それを聞いたエリエルがそこから一番近い場所にいるユートにその魔物を倒すよう指示して今に至る。
「久しぶりの狩りだな」
ユートは王都を抜けた後、凄まじい速さで森まで向かっていた。あまりにも速いので見たものが居ても一瞬すらユートの事を視認することが出来ないだろう。
やがて五分もしない内にユートは目標地点へとたどり着く。
ユートは神経を集中させ、件の魔物を探し出す。
いかに強いといえど不意打ちをくらえば死ぬ事もある為ユートは最大限の注意を払っていた。
「……見つけた」
他の部分より明らかに濃密な魔力を放っている場所を発見したユートはそのままその方向へ向かった。
そしてユートの目にしたものは触手の様に畝る足が八本、目も八個ある不気味な形をした魔物だった。
「……ふーん、なるほど。〔オクトゲイザー〕か、確かにこいつは厄介だな」
ユートが目にしてる〔オクトゲイザー〕と呼ばれる魔物は危険度A級に指定される、強力な魔物である。
魔物には危険度と言うものが設定されており、上からS、A、B、C、D、Eとなっている。危険度A級は英雄級が束になってかかっても勝ち目が無いほど非常に危険で凶悪な魔物で個体数もそう多くない。危険度が上がるにつれて現存する魔物の数も少なくなっている。
〔オクトゲイザー〕はその身に持つ八本の足を伸縮自在に伸ばして敵を捕食する。また目が八個あるが故にに死角も存在しない。また、〔オクトゲイザー〕で最も厄介なのは、口から放たれる毒霧である。吸えば即死に繋がる毒で、その範囲は半径三十メートルにも及ぶ。
「本当は見つかる前に倒したかったが……」
ーーーグギャアアアアアアアアァァ!
ユートが近づいた事に〔オクトゲイザー〕も気づいたのだろう。〔オクトゲイザー〕はユートの方をギロリと向き、耳がツン付く様な咆哮を上げる。
そして捕食せんとばかりに八本の触手の様な足をユートに向けて一斉に放つ。
ユートはそれを華麗にかわしながらも剣で魔物の足を切断した。
ーーーガアァ⁉︎グギャアアアアアアアアァ
〔オクトゲイザー〕はまるで苦しむ様な声を上げた後、怒った様に咆哮し、ますますその攻撃を激しくしていく。
しかし、いくら攻撃しても躱されるどころか、その足まで斬られていく。
まずいと本能で悟った〔オクトゲイザー〕は足を引っ込め、口をあんぐりと上げる。
そして……
ーーーグワァアアアアアア!
〔オクトゲイザー〕の切り札とも言える毒霧のブレスをユートに向けて放つ。
いくらユートと言えどこれを喰らえばひとたまりもない。
しかし、ユートは特に焦る様子もなくその場で佇んでいる。
「……⦅魔力防御⦆」
ユートは右手を突き出し、その魔法を唱える。すると、毒霧に直撃してるはずなのにユートの身体には何も起こらない。
ユートが使った⦅魔力防御⦆、これは誰でも使える無属性魔法の一つである。
しかし、ユートの⦅魔力防御⦆は普通のそれとは違う。なぜなら通常、⦅魔力防御⦆はあくまで身体を薄い魔力で覆い、塵や埃で服が汚れるのを防いだりする魔法である。決して毒霧や魔物の咆哮を喰らい鼓膜が破れない程強い防御魔法ではない。
だが、ユートの⦅魔力防御⦆はそれを可能とした。つまり、ユートの持つ膨大な魔力を極限まで圧縮し、纏う事によってこの様なことを可能にしたのだ。
「今度はこっちから行かせてもらうぞ!」
ユートはそう言って、地を踏み抜いた。
あまりの速さに〔オクトゲイザー〕も八個の目を持ってしてもユートを視認する事が出来ず、ユートに懐への侵入を許してしまう。
「疾っ!」
そしてユートは目にも留まらぬ速さで剣を振り、あっという間に〔オクトゲイザー〕の持つ全ての足を切断。
ーーーガギャアアアアァァァ!
もがき苦しんだ〔オクトゲイザー〕は慌てた様に先程ユートが居た位置に顔を向け毒霧を吐こうとしたがそこにはすでにユートはいない。
「……上だ」
声をした方を向くがもう遅い。
ユートは既に上空から〔オクトゲイザー〕に突貫しており、右手に持つ剣で一閃した。
そして〔オクトゲイザー〕は叫ぶ暇もなく、身体が真っ二つに割かれ、絶命した。
「……ふぅ、討伐完了っと。帰りますか」
ユートは剣に付着した魔物の血を振り払い納刀する。
ユートの身体には魔物の返り血で真っ赤になっていたーーーってことは無かった。
何故ならユートは⦅魔力防御⦆を使い身体を魔力で覆っていた為、その様な惨事には至らなかったのだ。
ユートは〔オクトゲイザー〕の死骸を火葬し、その場を後にした。
朝出かけたユートが王都に到着したのは昼頃だった。
「以外と早かったな。昼飯でも食べてから帰ろうかな」
ユートは王都を歩きながら昼食をとる為に良さそうな店を探す。すると特に時間もかからず良さそうな店を見つけたのでそこにはいる。
「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」
「うん」
「わかりました!こちらへどうぞ!」
ユートは元気に接客する看板娘に案内された席に付く。昼時なだけあってなかなか多くの人で店内は賑わっていた。
「日替わりセットで」
「かしこまりました!ただいまお持ちしますね」
注文を終えたユートはボーっとしながら時間を潰す。しばらくすると、看板娘がユートが頼んだものを持ってやってきた。
「お待たせしました!日替わりです」
「ありがとう」
ユートは早速、スープに口をつける。
「……美味しいな」
ユートはその味に舌鼓を打った。食べている品は豪勢というわけではないがどれも丁寧に作られていてユートは満足した。
ユートはしばらく食べ続けていると他の客の会話が聞こえてきた。
「そういえばさっき西区の方ででっかい音がしてたな」
「あぁ、なんだったんだろうなあれ」
(西区ね……僕の家があるけど……)
ユートはその話について大した関心は抱かなかった。しかし、後にそれが自分と関わってくることなどこの時のユートは知る由もなかった。
ユートは昼食を食べ終えた後、真っ直ぐに家へ向かった。
家に着いたユートは僅かに眉を潜めた。
「ミロク以外の魔法の痕跡があるな……」
ユートは玄関を開けて中に入る。
「ただいま」
だが、返事はない。
普段ならミロクが出迎えてくるはずなのに今日はそれがなかった。
ユートはそれを疑問に思いながらもずんずんと家の中に上がっていく。そしてユートはリビングを見て驚きで目を見開いた。
中は誰かが暴れた様にぐちゃぐちゃになっており、僅かだが焦げ臭い。恐らく火属性魔法を行使したせいだろう。
ユートは焦ってミロクの部屋へ向かいそして扉を開けた。
しかし、そこには誰もいなかった。




