四話 尾行
学院代表を決める個人戦が行われてから数日が立ち、ユート一年生も本格的な授業が開始された。
しかし、ユートにとってはどれも退屈なものばかり。数学や国語といった物はどれも取るに足らない基礎的な事ばかりだし、歴史の授業に関しては間違った記述が多々あった。
ユートが特に酷いと感じたのは魔法基礎学。魔法の事を座学で学ぶこの授業だがはっきり言って何故こんな荒唐無稽に書かれた教科書を使い、担当教師の自論をつらつらと聞かされなければならないのか、ユートには甚だ疑問だった。
ユートだけでなく、普段からユートに魔法を教えてもらっているミロク、リラもこの授業に関心を持っていない。
ちなみに現在ユート達が受けている授業はまさに魔法基礎学だった。
「……以上の事から魔法は成り立っているのです!」
ちょうど長々しい教師の説明が終わり、それとともに授業終了の鐘が鳴る。
「時間なのでこれで終わります。次回から教科書34ページを扱うのでよく予習しておくように」
「……はぁ」
魔法基礎学の担当教師が去った後、ユートは盛大に溜め息をついた。
「なんでこんな退屈な授業に出なくちゃいけないんだ……」
「確かにつかみどころの難しい授業ですよね……」
ミロクはユートの愚痴に相槌を打ちながら苦笑いをする。
「だいたいそれぞれ行使できる魔法が違うのに全員が同じ理屈で魔法学を学べるわけがない」
ユートが言う事は尤もである。
魔法は使用者によって同じ魔法を行使しても違いが出てくる。その違いは誤差の範囲かも知れないしその逆もまた然り。どちらにせよ全く同じ魔法は存在しない。その日のコンディション、環境など細かいところでその誤差は起きてしまう。魔法はその誤差をいかに最小限に減らしていく事が重要なのである。
しかし、その誤差は本人にしか分からないものである。だからこそ他人の魔法に助言する事は出来ても改善させる事は出来ない。
この魔法基礎学では教科書を書いた者の自論を担当教師の自論を持って説明すると言った実に不確定なものなのだ。
故にこの授業にはっきり言って意味は全く無い。
ユートはこれから三年間、退屈な毎日が過ぎていくのだろうかと言う一抹の不安を抱きながら再度溜め息をつくのであった。
放課後になり、ユートとミロク、そしてリラがいつものように魔法の特訓を学院に設備されている訓練場で行なっていた。
リラはもともと個人戦の為の特訓をユートに教えてもらってたのだが、その後もユートに是非特訓して欲しいとお願いした為、今も付き合っている。
「はぁ!⦅炎爆⦆!」
「いくよ!ユート。⦅水旋斬⦆!」
「ふっ!」
ユートはミロクから放たれた⦅炎爆⦆を跳躍して避けながらもリラから放たれた⦅水旋斬⦆を右手に持つ剣で斬り裂く。
現在はユートを相手にしてミロクとリラが協力しながらユートに攻撃を当てると言う訓練をしていた。
「疾っ!」
「くっ!」
「きゃっ!」
ユートが高速で間合いを詰めてきたのにミロクとリラは反応できずそのまま剣で峰打ちを喰らってしまう。
決着はついたようだ。
「「参りました……」」
「うん、確実に上達してると思うよ」
「そうかな〜?それでもまだ一発もユートに当てられてないからな〜」
「私も悔しいですがそうですね……」
ユートはミロク達に賞賛を送るが当の本人たちは不服そうだった。
それもそのはず、この特訓は何日か続けているが一発たりともユートに魔法を当てられていない。
ミロクとリラは悔しがっているがユートに攻撃を当てられるのはそれこそ神話級くらいなものなので仕方がない。
しかし、それは比べる基準が違うだけで一般的に見れば彼女達の成長は凄まじい。
ミロクはつい最近まで初級程度の火属性魔法しか撃てなかったのに今では中級の魔法まで撃てるようになっていた。対するリラも最初とは比べ物にならないくらいの成長を重ねている。
無論、ユートの教えがいいのもあるが本人達の努力と才能がここまで成長させていた。
「いや、上達してるよ確実に。多分今の二人なら王女様と同格くらいじゃないかな?」
「「本当に?」」
「うん」
すると先程まで落ち込んでいたのにすぐ様自身に満ち溢れた顔になっていた。
ユートはそんな二人を見ながら苦笑いする。
(やっぱり成長が早いな……これは僕もうかうかしてられないかな)
ユートは満足げに笑い合うミロクとリラを見ながら一人静かにそう誓った。
〜〜〜
その日の帰り道でユートとミロクは夕飯の食材を買うために寄り道をしていた。
「今日は何にしますか?」
「うーん、このキノコとかは?」
「ミドリキノコですね。今が旬なのでちょうどいいですよ。では今日はこれを使ったシチューにしますね」
「わかった」
淡々と買い物を済ませるユートとミロク。
「⁉︎」
ユートは不意に何かに見られていたような視線を感じ後ろを振り向く。
「……逃したか」
「?どうかしましたか?ユートさん」
「いや、なんでもないよ帰ろうか」
「はい」
ユートは平然を装いながらも警戒を怠らず家へ向かった。
〜〜〜
時は少し遡る。
一人の男が馬車に揺られながら外を見ていた。
「ふむ、俺の玩具となりそうな奴は居ないかね」
男はまるで品定めをするが如く、外を歩く様々な女を見比べていた。
しかし、男は急に驚いたように目を見開き、外にいる行者に声をかける。
「待て!止まれ」
男がそう言うと馬車は程なくして止まる。
「あの女は確かつい先日まで遊んでいた俺の玩具か?」
男が目を向けていた先、それは一人の男と共に歩く少女、ミロクだった。
「感情が抜け落ちてつまらないから捨てたが……ふふふ、よもや直した奴が居たのか」
男は楽しげにそう嗤う。
「直ったならばまだ使えるな……おい、ガル」
男がそう呼んだ瞬間、急に一人の黒づくめの男が現れる。
「お呼びでしょうか」
「うむ、其方にはあそこにいる少女を攫ってきてほしい。無論隣にいる男はいらん。なんなら殺してもいい」
「御意に」
男はそう言って再び姿を消した。
「ふふふ、また楽しませてくれよ」
男はユート達を尾行していた。
そしてミロクを攫うタイミングを伺っていた。
だが、予想外のことが起きる。
「⁉︎あの男、まさか此方の視線に気づいた……?」
男はユートが向けてきた射殺さんばかりの視線を受け冷や汗をかいた。
「あの男は危険かも知れん。今は撤退すべきか……」
そう言い残し、男はその場を後にした。




