十二話 学院長
「学院長!」
「フォッフォッフォ、いやいや今年の推薦者は実にレベルが高いですなぁ」
学院長と呼ばれたその老人はあご髭をさすりながら朗らかに笑う。するとそれに同調するように試験官も苦笑いを浮かべる。
「えぇ、全くです。私も二人と戦って消耗してしまい休憩している次第ですよ」
「ほぅ、ならばこちらの少年はまだなのかな?」
「えぇ、これから始める予定ですが……何か?」
「なぁに、だったら儂がこの少年を試験しよう」
「「「「ッ⁉︎」」」」
突然の学院長の提案にその場にいた全員が驚く。
「学院長……本気ですか……?」
試験官の青年は信じられないと言ったような口調で学院長に聞き返す。
「もちろんじゃ、それにそこの少年は何やら嬉しそうにしているがのう」
そう言って学院長はニヤニヤしながらユートへ視線を向ける。その視線を追うように他の者からも自然と注目が集まる。
そんな中ユートはと言うと……
「学院長が自らですか?それは光栄ですね」
大胆不敵に笑ってみせた。
〜〜〜
闘技場中央では二人の男が向かい合っていた。一人は六十くらいの老人ーーーこの魔法学院の学院長。そしてもう一人は黒髪の少年ーーーユートである。
そんな二人を茶髪の少年とこの国の王女、そして試験官の青年が固唾を呑んで目を向けていた。
「あの平民は馬鹿なのか?」
呆れ混じりにそう呟くのは茶髪の少年。推薦者の一人だ。
「学院長を相手にするなど無謀もいいところですね」
茶髪の少年のとなりに佇む少女、アイラも何処か冷めたような口調でユートを評する。
「……それかよっぽど実力に自身があるか……だろうね」
そう言うのは試験官の青年。その口調には僅かに期待が込められている。
三者三様、彼らは今から始まる戦いにそれぞれ思いを抱いていた。
「フォッフォッフォ、やはりシルフくんが推薦してきただけの事はあるのぉ。期待しておるぞ」
「いえいえ、まさかかつて〔大導師〕と謳われていた伝説級、デュッホ・ワーグレン様自らがお相手してくれるとは……こちらも嬉しい限りです」
「フォッフォッフォ、もう引退した身、昔ほど大したことなどありゃせんよ」
「……冗談がお好きなようで」
ユートは僅かに冷や汗をかきながらそう返す。
(その溢れるような膨大な魔力……まだまだ衰えてないでしょうに……25年前、帝国との戦争で多大な功績を残した生きた英雄……)
ーーーデュッホ・ワーグレン
かつて〔大導師〕と謳われていた実力は伊達では無く、魔法師階級も伝説級まで至っている。宮廷魔法師としてハウード王国に仕えていたが今はこの魔法学院で学院長をしている。
流石のユートでさえ伝説級を相手にすればかなり苦戦を強いられる。更に言えばユートは自身に⦅身体劣化⦆を付与しているため、普段より戦闘力も低下している。ユートにとってはかなり厳しい戦いなるだろう。それを分かっていてユートもいつも以上に気を引き締める。ユートは腰に携えた剣を抜き取り、構える。
その姿を見て学院長ーーーデュッホは驚きを隠せなかった。
ーーーまさかその若さでそこまで至れる者がいるとは……
デュッホは長年の勘で目の前にいるユートと言う少年が己より強い事を確信する。そして今まで戦ってきたどの相手よりも強いと……デュッホは口元の笑みを消す事なく冷や汗を浮かべていた。
今二人の強者がお互いを認め合いながらもその闘争心を更に燃やし合っていた。
〜〜〜
「試験内容の変更をしてもいいですか?」
突然そう切り出したのはユートだ。
「ほぅ、ではどのよう試験にするのかのぅ?」
デュッホは目を細めてユートに詳しく話すように促す。
「学院長の攻撃を三分間凌ぎ切ったら合格と言う事でどうでしょうか?」
「「「⁉︎」」」
その場にいた者全員が驚く。
「何故そのような形にしたのか聞いても良いかのぉ?」
デュッホは口元の笑みを絶やさず何処か期待したような風に問う。
「まぁ、色々ありますが……一番の理由は試験にならないからですかね」
「試験にならない?というのはどう言う事じゃ?」
「えぇと単なる模擬戦だと魔法を見せなければならないじゃないですか」
「まぁ当然じゃの」
デュッホはユートの言葉に頷く。
「僕、魔法使えないので」
「「「はっ?」」」
その場にいた者が固まる。
「僕、適正魔法ないんで」
ユートは繰り返し同じことを言う。
しかしまだ理解が追いついていないのか学院長まで呆けている。
時間にして二、三秒だったがやがてデュッホは意識を現実に戻し、ユートを見据えて豪快に笑った。
「なるほどのぉ、適正魔法がないときたか。これは面白い……ならばその方法で行かせてもらおうかのう」
「待って下さい学院長!」
不意に声がかかる。
その方向を向けばユートに何かといちゃもんをつけていた茶髪の少年が声を荒げていた。
「この神聖なる魔法学院に適正魔法がない無能など試験を行う必要もありません!不合格にしてしまい……ひっ!」
茶髪の少年はユートの試験など行うに値しないと抗議し学院長に訴えかけるが途中で怯えたような声をあげる。
見ると学院長であるデュッホが茶髪の少年に殺気を飛ばしていた。茶髪の少年はデュッホの殺気に耐えられず尻餅をついてガタガタと震えていた。
「それを決めるのは学院長であるこの儂じゃ。小僧が決めることではない」
デュッホは強い口調で茶髪の少年を叱責する。それを受け茶髪の少年もこれ以上何も言えなくなってしまった。
ユートはその一連のやりとりを終えたのを確認し再度口を開く。
「もし僕が三分もたなかったら不合格、持ち堪える事が出来れば学院長に一つお願いを要求したい」
「ふむ、してその願いとは?」
「それは終わってから話すとします」
「フォッフォッフォ、ますます面白いのぉ、ではそんなお主に評してちと本気を出すかのぉ……準備はいいかの?」
「えぇ、いつでも」
「それではいくわい……くれぐれも死んでくれるなよ」
デュッホは口元に弧を描きながらその膨大な魔力を放出した。
次回ユートの初戦闘シーンです
長らくお待たせしました




