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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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98/103

(98)

「どういたしましょう」

「!」

 指揮官は立ち上がり、『どういたしましょう』と言った男の胸倉をつかんだ。

「もちろん、ただじゃすまさん…… だが、このままでは勝てないのも事実。この戦いを解析しろ。すぐさま、徹底的にな。なぜ負けたのか、何が弱点なのか。分析するんだ、次はないぞ」

 さっきまでの怯えたような敗者の目が、鋭く厳しい目に変わったのをみて、男は震えながら敬礼する。

「わかりました!」

 掴んでいた手を離し、再び気の抜けたような顔つきになった司令官は言った。

「十二鬼を回してもらってこのざまとは…… なんて説明すりゃいい」




 正面に見えていた光が、大きくなって俺の周囲を包み始めた。

 真っ白で、何も見えなくなった、と思った直後、周囲は暗くなり、重力が発生していた。

 手から放つ霊弾の光では進むことが出来ない。バランスを崩し、背中から床に落ちていく。俺は尻餅をついた格好になった。

「いててて……」

 俺は打った箇所をさすりながら立ち上がった。

 周りを確認して、思わず声が出る。

「書斎? いや、実験室?」

 机の上に試験管やアルコールランプなどが並んでいるのが見える。壁は書棚になっていて、ずらりと本が並べられている。

「暗い闇から抜け出したのに…… そこは書斎? どういう意味?」

 ここに入った経緯を思い出していた。

 橋口さんのムチが扉の取っ手に絡まり、扉が開いた瞬間、俺は吸い込まれるようにこの部屋に……

 そして闇。聞こえてくる様子から、エア・エレは冴島さんと橋口さんによって倒された…… と思うのだが。

 この扉から、元の部屋に戻れば、きっと冴島さんが…… いる…… と…… 信じたい。

 俺はおそるおそる取っ手を握り、ひねり、押し開けた。

「……」

「!」

 部屋の先に、冴島さんの姿があった。

 パッと、目があった瞬間、俺は一気に緊張が解け、冴島さんに走り寄った。

 冴島さんの目にも、涙が見えた、ような気がした。

 俺の手が冴島さんの背中に回り、抱き寄せる直前まで接近した時、冴島さんの人差し指が俺のあごに触れた。

「セクハラは禁止」

 俺の腕は体側(たいそく)へとまっすぐに戻った。

「麗子。感動の再会は例外にしてあげたら?」

「……影山くん、いったいどこにいたの?」

「わかりません。気が付いたら無重力で真っ暗な空間に入れられていて。壁がありました。円筒状の空間だったと思います」

 冴島さんと橋口さんは互いを見て言った。

「やっぱり、あの試験管だ!」

 さっきの部屋の机の上に置いてあった実験道具のことだろうか……

「あっ、一本黒くなってました」

「それに吸い込まれたに違いないわ」

 そう言われると腑に落ちる点もあった。円筒形の空間である意味はその試験管の内側だったのだ。

「……そういうことですか。と、とにかく助かってよかった」

「ただ暗い世界だったの?」

 俺は手を使って起こった出来事を説明した。

「無重力で、空気はあったんですけど。そこに霊弾を撃ってくる敵が現れて。真っ黒くて、スカート付きの一つ目の鬼」

「スカート付き? 言ってる意味が分からないんだケド」

「……そんな話はあとにしない」

 俺と橋口さんが振り向くと、冴島さんは、まっすぐに腕を伸ばし、別の扉の方を指さしていた。

「あそこ。あの扉を開けるのよ」

 その扉の方を向くと、なにか、嫌な予感がする。

「何があるんです? 開けていいですよ」

「あんたにしか開けれないんだケド」

 冴島さんと橋口さんが同時に俺を見つめる。

 俺は自分の鼻を指さした。

「俺しか開けれない?」

 説明を聞くと、どうやらその部屋は異常な霊圧が掛かっていて、『反魂の術』を行っているという。そして蘆屋さんが反魂の術の材料として取り込まれてしまった。何故蘆屋さんを取り込んだのか、なぜ橋口さんや冴島さんに開けれないのか、その理由は復元しようとしている人間が、(・・)()関係者(・・・・・)だから、ということらしい。

「蘆屋さんを取り込んだからには、あなたの妹、というのが一番可能性が高いわ」

「妹?」

「蘆屋さん自身、半分妹になりかけてたケド」

「……」

 俺は扉に近づく。

 蘆屋さんは、突然出てきた大きな手で引き込まれたようだ。

 扉に近づいたら、扉の先の者が俺に反応するかもしれない……

「こわいです」

 手が震えているのに気が付いて、俺は冴島さんを振り返る。

「早くしなさい」

 手で払うような仕草をすると、俺に命令(コマンド)が入った。

 震えは収まらなかったが、ためらう間もなく取っ手を掴むと、ひねって扉を手前に引いていた。

「!」

 そこには服を着ていない蘆屋さんが立っていた。

 白く透きとおるような肌。そこに映えるためのように真っ黒な髪が肩にかかっている。

 視線を下げていくと、一つの谷間と二つの頂がみえる。その膨らみは、やわらかそうなカーブを描いている。

 腰骨のあたりで広がるまで、綺麗にくびれていく。その中心に、窪んたへそが見える。

「えっ、えっと……」

 その下は…… その下……

「あれ?」

 おぼろげに見えるが、その下を見ようとすると、眼球が動かない。首を動かそうとしても、顔が、というか体全体が拒否した。

「あのね。いくらこんな状況とはいえども、そこは見ちゃダメ」

 後頭部に触れている手は、冴島さんの右手だった。

 ただ触れているだけではなく、同時に命令(コマンド)も入れられたようだった。

「……と、とにかく! 蘆屋さん!」

 と、蘆屋さんの体を包み込むように黒い煙が流れてきて、あっという間に蘆屋さんの顔以外は見えなくなってしまった。

 そして、蘆屋さんの瞳が開かれた。

 蘆屋さんの口が動く。

『もう少しで反魂(はんごん)の術が完成する。何故、お前が邪魔をする』

 蘆屋さんが言ったにしては、声が低すぎる。これは蘆屋さんが話しているのではない。包んでいる黒い煙のようなもの、霊が言っているのだろう。

「えっ? 俺が?」

『扉を開けたのはお前だな』

「はい」

『ではお前が、邪魔をしたのだ』

「?? ……はい」

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