(96)
星? いや、筒の出口に違いない。
俺は両腕に力を込めた。
近づくと明るい部分は大きくなり、周囲が照らされ、筒状の壁もはっきりわかるようなってきた。
と同時に、敵の姿も見えてきた。
明るい部分に、黒い影がいくつか現れた。意志を持って動く物体の影。
1、2、3…… 12の影が見えた。
一番近くにいた影から、光が伸びてくる。
「?」
それが何かを認知した時は、避けるには遅すぎた。俺は両手をその光の方に向けて霊弾を撃つ為の力を込めた。
俺の拳の先にあった霊弾の光が、影から伸びてきた光を弾いた。
よく見ると、十二の動く影も、俺と同じように二つの光を放ちながら、この空間を動き回っていた。
霊弾の光の反動を利用して動いている、ということだ。
「それなら!」
立場は同じのはずだ。先に霊弾を当てれば倒せるに違いない。
両手の先に霊弾の光をともし、空間を縦横に移動しながら、その十二の動く影を狙う。
動きの遅い、影を見つけ、素早く回り込むと、右手をピストル風に構えて人差し指を伸ばす。
霊弾が俺の指先からビームのように伸びていく。
体は反動で逆方向に流れる。一方の手にも霊弾の光をともしてその反動を抑える。
影を俺の霊弾が貫く。
影は光を放ちながら、はじけ飛ぶ。
「ひとつ!」
俺は思わずそう言っていた。
すると、別の影が霊弾をいくつも放ち、近づいてきた。
その弾の合間を縫うようにして、影の正面に向かう。そして、衝突する寸前でかわして、影の背後から俺の霊弾が貫く。
はじけて消えていく影が放つ光で、俺の姿が闇に浮かび上がる。
「ふたつ」
複数の霊弾が俺に向かって放たれる。
その霊弾の光跡に重ねるように俺も霊弾を放つ。
こっちにあたるか、という寸前で避けると、それを撃った影は俺の霊弾に抜かれて、はじける。
「みっつめ」
斜めなった天井に、映像が表示されている。
そこには九鬼と戦う一人の男が映っていた。
指令室と思われるその部屋の一段高い場所に、腹の出た指揮官が座って戦況を確認している。
そして、同じくその映像を見ながら、戦場と連絡を取り合う部下へ言った。
「もう三鬼もやられたのか」
「はい。相手は戦いに慣れているようで、この空間で戦うのが初めてとは思えません」
「初めてでも初めてでなくともかまわん。わざわざこの空間に引きずり込んで、我々にチャンスが回ってきたんだ。さっさと処理するんだ」
「はい」
腹の出た男は、鬼の配置と敵の映像を見ながら、言った。
「鳥かご作戦だ」
「……」
「すぐ指示しろ」
「はい!」
部下は、付けているインカムを口に下げ、急いで指示する。
「鳥かご作戦、決行せよ」
俺は、ぐるぐると立体的に動く影に取り囲まれ始めた。
動きからすると、俺が球の中心に相当するようだ。
俺が動くと、全体が引っ張られるように動いてきて、また円運動を始める。
「そこっ!」
正面に回ってきた敵に霊弾を放つと、上下、または左右をとっている影の二機から霊弾が放たれる。
その霊弾から俺が逃げた方向に正面に回った敵が撃つ。
つまりは俺の動きを限定して、その先読みをしよう、という作戦のようだった。
「円運動してるなら!」
影の一機をじっと追えば、移動する先に霊弾を放てるはず。俺は体を回しながら影一機の動きを追った。
「?」
敵の影が、弾かれたように俺の視界から消えた。
「どういうこと?」
言っている間にも、霊弾の挟み撃ちが始まり、俺が避けると俺の進行方向にも霊弾が飛んでくる。
「くそっ!」
どうにもならないその動きにイライラしてきた。
俺は何度か動きを見ながら、俺を取り囲む円運動と、交わった瞬間に角度を変えて動き出す、を繰り返していることがわかった。消えているのではなく、こちらの予測と違う方向に動き始めるから、俺の視界から消えるのだ。
敵の霊弾を避けながら、俺はその動きの規則性を考え続けた。しかし、どうにも結論が出ない。
俺はやけになって、霊弾を撃つのをやめ、頭上に飛び続けた。球の中心である俺がスピードを上げると、囲むように合わせてくる連中の円運動が歪み始めた。
その瞬間、俺には影の二機がぶつかって角度を変える場所が、ぶつかるより先に見えた。
「そこだっ!」
まだ何もいない空間に向かって人差し指を向けると、思い切り霊弾を撃ち込んだ。
影の二機は俺の霊弾に吸い寄せらるように重なり、俺の霊弾が貫いた。
「五つ」
重力はなかったが、息が出来たので、空気はあるようだ。
撃ち抜かれた鬼が光りながら散っていく時、轟音があたりに響く。
その光に照らされる、他の鬼の姿が見えた。
目は頭の方に一つだけ。その目はライトのように光っていて、縦、横と十字に動くようになっている。体全体は黒く、背中と足に霊弾の光がともされ、前後や上下左右へ移動できるようになっていた。手に持った長筒から霊弾を発射し、こっちを狙ってくる。
突然、俺の頭に、どこからか声が届いた。
「……だれ? 何? スカート付きって…… あの鬼のこと?」
「影山くん!」
と冴島麗子が叫んだ。
麗子と橋口の力で、前の部屋に居たエア・エレメンタルを倒したのだ。
そしてやっと影山が入っていった部屋に来たところだった。
麗子が呼びかけた先の空間には、誰もいない。
麗子は橋口かんなの方を振り返る。
かんなは両手を広げて、首を横に振る。
「ここの部屋に入ったのは間違いないんだケド」
この部屋には扉がない。行き止まりだ。
「いない…… ということは、ここに、なにか罠がかけられていた、ってこと?」
「単純に考えれば」
麗子の目が吊り上がった。
「単純ってなによ。しっかり考えたらどういうことが分かるのよ」
「……」
橋口はトレンチコートの前を開け、サマーセーターの胸元を少し開いてパタパタと風を入れる。その下には大きな胸とその谷間がのぞく。
麗子はそれを睨みつけながら近づく。
「黙ってないで何か言ってみなさいよ」
橋口がつつくように指さす。
「あれ。机の上で、一つだけ転がっている試験管があるでしょ。煤でもついたように真っ黒。あれなんか怪しいんじゃない」




