(92)
立ち上がろうとする蘆屋さん。橋口さんのムチが飛ぶ。
「危ない!」
橋口さんのムチが危ないのか、ムチが絡みついた槍の動きが危なかったのかは分からない。
蘆屋さんはもう一度、尻餅をつく。
俺は命令が解かれたののか、蘆屋さんの元に走っていた。ムチで動きが取れなくなった槍の先を飛び越え、蘆屋さんをすくい上げる。そして、橋口さんや冴島さんがいるところに抱えて走る。
「お、お姫様だっこしてんだケド」
「あんたは、槍に集中しなさい」
槍が後ろにひかれ、ムチがピンと張る。橋口さんも対抗して、両手を使って鞭を引っ張る。
「くッ」
槍が急に押し出され、巻き付いてた部分が外れる。引っ張る為に踏ん張っていた橋口さんが飛ぶように後ろに倒れてくる。
頭を打たないように、俺は橋口さんを捕まえて支える。
「あ、ありがと」
ガンガンガン、と扉が突かれると、蝶番が外れて扉が倒れた。
「なんだ、一人はやれたみたいね。そのうち再生しちゃうんでしょうけど」
「なんのこと……」
「蘆屋さんのことよ。扉の爆発で、蘆屋さんはかなり怪我を負うはずだったわ。なんで蘆屋さんが無傷なのか。蘆屋さんに憑いていた『さやか』がかばったのよ」
「それで声が戻ったんですか」
橋口さんのムチが走る。
「お二人さん、霊弾来てるんだケド!」
「影山くんGLP! 助逃壁」
俺は竜頭をくるくると回し、文字を合わせてから、押し込んだ。
光の壁が前方に広がっていき、槍の先から飛び出る霊弾をせき止めながら、どんどん押し戻していく。
「妙な道具を使うのね」
槍が後ろに引かれ、
「けど!」
と言った時には、槍が突き出され、光っている『助逃壁』が砕けた。
「私には効かないわ」
扉のこっち側に、槍を持った女が現れた。
甲冑の頭、胸、尻、そこ以外は肌がむき出しだった。見えているラインは、か細く弱い感じの女性のそれだった。弱い感じというか、へその周りはしっかりくびれているし、二の腕は細いけれどもやわらかそうだった。太ももは張りがあって挟まれてみたい、と思った。
しかし全体のアンバランス感が異常だ。
「変態だ……」
「なんだと! 私の攻防は完璧だ」
「うん。完璧な変態女子だ。露出過多の」
「うるさい!」
びゅん、と馬上で使うような槍が突き込まれた。
俺は体をねじって避けた。
「影山くん。あんたは知らないかもしれないけど、あいつは『槍と甲冑』ってやつよ。凄い使い手の武器や防具が、霊を宿して自ら戦うことがあるの。だから、見えている部分は弱点じゃないのよ」
「見えてる部分は弱点じゃない…… って、どういうことですか?」
「はぁ…… 甲冑と槍そのものが霊体で、おへそや太ももがヤラレても関係ないってこと」
冴島さんがブレた、と思った瞬間、俺の顔の前に槍が突き込まれた。ブレたのはこれを察知して避けたってことか。
「うわっ!」
と、俺が避けた時、ぴゅん、と音がしてから橋口さんのムチが『槍と甲冑』のへそのあたりに巻き付いた。
「あんッ」
「思いっきり弱点みたいです」
「声だけよ。声だけ」
橋口さんが、グイッ、とムチを引き寄せる。
「うんっ、くぅっ……」
ランスアンドアーマーの表情が、声が、エッチな感じに思えてくる。
「あんッ……」
震える声、もだえるような表情、露出されている肌と汗……
ランスアンドアーマーが動くたびに、香ってくる匂い。
俺は目をつぶっていた。
「死になさい」
声に驚いて目を開ける。
大型の馬上で使うような槍が顔面を目がけて走る。
「なにやってるの!」
冴島さんの忠告が聞こえる。
いや、もっと早く言って…… つーか俺、なんでフラフラこんなところまで出てきてるんだ。
あれ、ランスアンドアーマーがこんなに近くにいる。しかも、橋口さんのムチが外れちゃってる。
槍がどんどん近づいてくる。なんか、槍がやったら遅い。やる気あんのか、と俺は重いながら、近づく槍を手でつかむ。
「!」
槍を掴んだまま、体を倒しながら右足を延ばし、胸部の甲冑に蹴りを当てる。
「うわっ」
ランスアンドアーマーが槍を手放し、後ろに吹っ飛ぶ。俺は槍を手に取って、持ち直す。
「これでアーマーだけになったな女だけに」
「何くだらないこと言ってるのよ」
「とどめは私がやるんだケド」
パチン、と音がして、まずは頭の甲冑が割れ、中の顔が見えた。
金髪碧眼、明らかにこの国の人間じゃない、ヨーロッパ圏の人種だった。
さらにバチン、と音がすると、胸の甲冑が砕け散った。
一瞬、何か『いいもの』が見えたような気がしたが、あっという間に左手で隠された。
橋口さんが、またムチを振り上げた。
俺は、この流れから次に起こる出来事を想像した。
残る甲冑は一つ。お尻の周りだけだった。
きっと、そこが外れた時は……
ムチがしなりながら、先端の部分が伸びていく。
恐怖に震えるランスアンドアーマー、もといアーマーは目を閉じてしまう。
「バカッ!」
必死に目を見開いていたにも関わらず、一瞬にして目の前が闇になった。
まぶたに、暖かいものが当てられている。人の手だ。
「この手は冴島さん?」
「あんた、ランスアンドアーマーが昇天する機会を奪うつもり?」
「どういう意味ですか?」
「この世にまた後悔やらが残ったらまずいの。綺麗にアーマーを破壊されて終わり、にしてあげなさい。あなたに見られた、なんてことになったら、現世に禍根が残るわ」
「俺にちょっと見られたぐらいで昇天できなくなるんですか?」
「あたりまえでしょ?」
冴島さんの手を通じて、目を閉じているのにも関わらず、太陽をみているようなまばゆい光を感じた。
そして声が聞こえる。
「……ありがとう」
冴島さんが解説する。
「あなたにはみせられないけど、まばゆい光につつまれて、ランスアンドアーマーが昇天していくわ……」




