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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら
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(9)

 まだ朝礼をやるほど人は集まっていなかった。

 それでもこんな朝っぱからヘルメットをかぶったおじさん達が集まり、コーヒーを飲んだり、体を動かしたりして活気があった。

 プレハブ側は灯りがついているものの、日中のドタバタした感じまでは行っていない。

 さっきの視線を確かめる為に、プレハブ小屋の扉を開けた。

「おはよう、影山くん」

 俺は手首の辺りに違和感を覚え、腕を後ろに組んだ。

「おはようございます」

 どうやら、階段の上。二階にいるようだ。

「上がってもいいですか?」

「いいわよ」

 簡単なつくりの階段を上がっていくと、メガネを掛けた斎藤さんが立っていた。この現場にはじめてきた時、この下のフロアでカードを作ってくれた女性だった。

 しかし、まだ下には他の事務の人は人は来ていない。

「こんな朝早くからお仕事なんですか?」

「……」

 反応がない。

 俺は何かやらかした、と感じた。

「あの、何か気に障ること……」

「えっ?」

 急に斎藤さんの表情が緩んだ気がした。

 俺は変にそこに触れないように別の話を考えた。

「昨日、現場監督さんが夜中、木刀持っててビックリしました」

「ああ、なんかそうみたいね」

「斎藤さんもご存じなんですか?」

「あの監督さんのパワハラで工事遅れてるんじゃないかって」

 また、手首に違和感が生じた。

「ああ、そうかもしれませんよね」

「そうかも、じゃなくてそうに決まってるわ。私もずっとここに勤務したくはないのに」

 斎藤さんはそう言って、プレハブの窓から外を見た。俺も斎藤さんの横に立って、窓からビルを眺めた。

「外側はとっくにできてるのに。中は誰も使ってないなんて…… もったいないですよね」

「そうよね……」

 斎藤さんが、少し俺の方に体を寄せているような気がした。一生に一度あるかないか、俺にもモテ期がきたのか、と思った。

「影山くん。現場の鍵開けしてくれ」

 プレハブの下から呼び出された。俺は斎藤さんに軽く会釈をした。俺の思い込みか、斎藤さんが少し寂し気に見えた。

「じゃあね」

 そう言う斎藤さんに軽く手を振って俺は別れた。

 フェンスで囲まれた現場の前に、工事の人たちが集まっていた。俺はそこを分け入って、鍵を開けた。

 我先にとばかりに、ヘルメットをかぶった連中が入っていく。

 俺がふと、プレハブの方を見ると、斎藤さんがビルの方をじっと見ていた。

 斎藤さんが見ている何かを見たくなって、俺もビルの方を見つめた。

 ガラス張りで、空の様子がくっきりと映っている。二十三階建ての商業ビル。周りと比較して、飛びぬけて高いわけでも、低いわけでもない。デザインも特筆するところのないような、普通のビルだった。

「う~ん」

 俺は腕組みして考えたが、これをしげしげとみる意味は分からなかった。

 プレハブを振り返ると、斎藤さんが俺に気付いたようで小さく手を振ってきた。俺も軽く手を振り返した。もしかすると、もしかするのかも。錯覚ではなく、モテ期がやってきたのかもしれない。俺は警備室に向かいながら、小さくガッツポーズをした。

「?」

「平田さん。そとの現場の鍵開けやってきました」

「ああ。ありがとう。で、そのガッツポーズは何なの?」

「あっ、いえ……」

 平田さんが指を上に向けて言う。

「まあいい。ビル内も鍵開けあるから、一緒に行こうか」

「はい」

 俺と平田さんでビル内を回った。

 鍵開けが終わると夜勤は仕事が終わり、日勤と交代する。夜勤は何日か続いてから、一日おいて、日勤と交代するような日程だ。俺は今日も朝家に帰って、昼間に睡眠をとらなければならない。

 俺は家に戻って布団に潜り込んだが、斎藤ゆう子さんの姿が思い出されて眠れなかった。

 別に恋愛経験がなかったわけではないが、自分より先に相手からアプローチされたことはなかった。まさかこんな俺を好きになるなんて、と思うと興奮して眠るどころではない。次々に妄想が浮かび、さそってみようとか、デートはどこに行こうとか、映画は好きだろうか、とか想像しているだけでわくわくしていた。けれど、警備のバイトに行く頃には、もう斎藤さんは勤務を終えているはずだ。翌朝に会えるかな、とか日勤になるのはいつかな、などと日程表を何度も確認してしまった。

 体は横になっていたが、そんな感じで眠れぬまま次の勤務の為にビルへ向かった。

 もしかしたら斎藤さんが残業しているかもしれない、と一縷の望みをかけて現場へと入る。

「よお、どうだった今日は昼ねれた?」

 俺が着替えていると中島さんが声をかけてくれる。

「いや、まだ慣れなくて。布団には入るんですが、寝れませんね」

 まったく違う理由で寝れなかったのは内緒だ。

「寝れないのは体が疲れていないからじゃないか? 平田に言っとくから今日から体動かせよ」

「はい。頑張ります」

 俺は着替え終わると、平田さんに言って外の見回りを買って出た。

 外はプレハブ小屋があって、そこではまだ、斎藤さんが仕事している…… かもしれないからだ。

 ビルの外交はかなり進んでいて、本当に後はビルの内装が上がれば、という状態だった。

 工事の箇所を見て、鍵を確認して、次の場所を見回る。

 斎藤さんのいるプレハブもまだ仕事しているようで明かりがついている。

 俺は、期待しながらプレハブに入る。

「おつかれさまです」

 中で働いている人がいたら、『帰るときは鍵をお願いします』と言って出る。本当に人がいないようなら、こっちで灯りを消して、鍵をかけて出ることになっている。

 灯りはついているものの、俺の声に反応する様子がない。

 誰もいないのか? 俺は窓の鍵を確認しながら、フロアを一周する。

「(やっ……)」

 小さな女性の声がした。助けを求めるような感じ。俺はそれが斎藤さんの声ではないか、と思って声のする方をじっと見た。キャビネットで影になっている辺りだ。

「誰かいるんですか?」

 答えがない。何か、嫌な予感がする。

 俺はゆっくりとキャビネットの裏に回り込む。

「おい。それ以上近づくと…… 女を殺す」

「斎藤さんと監督!?」

 現場監督が斎藤さんを後ろから羽交い締めし、首にナイフを当てている。

 どうしてこんな事に? この事態がどうして起こったのか、理解出来ない。

 何か違う。俺は監督が言った言葉が気にかかっていた。

「近づくなと言っているだろう」

「助けて、醍醐くん」

 また手首に違和感。

 なんだろう、この関係は良くわからない事だらけだ。

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