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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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89/103

(89)

「蘆屋さん!」

 霊弾に対して、呆然と立ち尽くしている蘆屋さんを、俺は突き飛ばすようにどかして、霊弾を両手で受けてしまった。

「くっ」

 手で弾けた霊弾が派手な閃光を出して、辺りを照らす。

 皆が目を細めて、撃ってきた方向を凝視する。

 目が慣れてきて、何もいないと分かると皆が動き始める。

 よろよろと立ち上がる蘆屋さんに駆け寄る。

「蘆屋さん、大丈夫?」

「えっ、カゲヤマくん、それ……」

「?」

 俺は思わず右腕をかかげる。

 つられて左手もあがる。

 ……違う。

 霊弾を受けた右手と左手が手錠をかけたかのように、粘着性のある赤い物質で包まれている。

「なんじゃこりゃ?」

 冴島さんが手をかざす。

「霊体を物質転換したんだわ」

「えっ?」

「霊体を一時的に物質化しているのよ。物質が壊れたり、時間がたてば霊体もろとも消失するわ」

 俺は腕を下げて、足で赤い物質を取ろうとするが、腕がきつくしまるだけで抜けなかった。

「はずれない」

「……時間をまつしかないわ」

 手が動かなければ、手首につけたGLPも使えない。

 日向が俺の手をつつきながら言う。

「屋敷に行くのを妨害しようとしているヤツが、あたりにいるってことだな」

「けど、霊弾撃ってきた方向には何も感じません」

「霊弾は曲げられるんだケド」

 そうだった。俺自身も霊弾をまげたことがある。赤い火狼(ほろう)と戦った時だ。

 赤い火狼(ほろう)が、これを蘆屋さんに付けるために撃った?

 屋敷と反対の方向から、近づく人影があった。

「誰?」

 冴島さんが言うと、日向がすばやい動きをみせた。

「お嬢様こんなところを一人で歩くのは危険です。私が安全な場所までご一緒いたします」

 日向が話しかけている女性は、垂れ目で一重だった。唇は薄く顔はスッキリとほそい感じだが、それらのバランスのせいか、とても美人に見える。どこかで…… どこかで見たことがある女性だ。

 日向は片膝をついて女性の手の甲にキスをするところだった。

「日向さん! その女性(ひと)はっ!」

 俺が言ったときには、女性は日向の背後に回り込み、首を締めていた。

「くっ……」

 日向が立ち上がって、体を振って引きはがそうとするが、女性は首を絞めたまま離れない。

「あなたは日向(ひなた)というのね。霊力だけじゃなく、ちからも強いみたいね」

「だから見境なく口説くな、と言っているのに…… あなたは火狼(ほろう)の仲間ね」

 そうだ。だから何度も俺の前にあらわれたんだ。

「こいつを殺されたくなかったら、カゲヤマを残して下がりなさい」

「くッ……」

 日向が女性の腕を外そうとして、力を入れる。

 女性の力では、日向の腕力にかなわない。徐々に締まっていたはずの腕が開いていく。

「ふぅ……」

 その時、上空から霊弾が放たれた。

 霊弾は日向を狙っていたようだが、なんとかかわし、俺と日向の間に落ちた。

「くッ……」

 霊弾を避けようとした日向は、再び首を絞められてしまう。 

「日向さん!」

 日向さんに駆け寄ろうとした俺は、また上空から何かくる、と感じ立ち止まり、バックステップした。

 目の前に赤い影が降り、瞬間に蹴りを浴びた。

 そのまま飛ばされて、俺は地面を転がった。

「まったく」

 そこに赤い火狼(ほろう)が立っていた。

「除霊士一人やれないのか」

 赤い火狼(ほろう)は体を回すと、日向の腹を蹴った。

「ふっ、おっ……」

 日向は絞められている腕を引きはがそうとしながら、膝が落ち、腹をかばうように体が折れ曲がった。

「杏奈。ほら、今だ、締めあげろ」

「はい!」

 あんな、杏奈(あんな)だって? もしかして、上村杏は、井村杏奈? まさか。全然顔つきが違う。グラビアラインの持ち主である井村杏奈さんにくらべると、スレンダーすぎる。

 上村杏はコンビニでバイトしているときに来た娘。井村杏奈は『ミラーズ』でバイトしているときに知り合った()だ。この二人が共通するとすれば、俺に近づいてきた、ということ。こんな自分に近づいてくる、つまりそれは……

 それに、井村と上村、名前の杏奈と杏、という安易な偽名を作った可能性はあった。

「井村さん…… 井村さんなの?」

 俺の声は届いただろうか。

 片目の火狼(ほろう)がニヤリと笑う。

「聞いたか? 井村だとよ。あの時のお前が忘れられないんだと」

 日向を締めるためにしがみついている上村さんは無反応だった。

 俺は何か答えてくれ、と思って必死に見つめる。

「こら、よそ見すんな」

 赤い火狼(ほろう)が指を伸ばして俺に狙いをつける。

「俺と勝負しろ」

 火傷でつぶれた右目で狙いをつけているような恰好だ。けれど、狙いは正確だった。一直線上に俺が乗っている。

「井村さん!」

「てめぇ、そんな腕で俺を無視できんのか!」

 撃ってくる。俺は避けきれずに、腕についた赤い物質で受ける。

 手で受けた時の何倍もの激痛が走る。

 肌というか、腕そのものとこの赤い物質の一体感が半端ない。

「それで受けようってつもりなら、腕ごと砕いてやる」

 そういうことか、初めから腕ごと折るつもりだったのだ。

 橋口さんが、ムチを取り出して振り上げた。

「なら、あたしが援護するケド」

「またそのムチは燃やしてやる」

「また、って何よ?」

 パシン、パシン、と激しく地面を叩く。俺はムチのコースを裂けるように回り込んだ。

 腕を左右に振れない分、走るスピードが出ない。

「燃やされたんだろう、そのムチは」

 言いながらも、俺の方を確実に狙っている。

「お前に燃やされたんじゃないんだケド」

 橋口さんが警戒してムチを頻繁に動かすようになった。火狼(ほろう)に掴まれたら燃やされるかもしれないからだ。

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