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いや、それよりこれはチャンスだろうか。俺に対して降霊するところを捕まえればよいのではないか?
「確かに女の子にモテないですね。あの、その、いい方法っていうのはなんですか?」
「そんな簡単には教えられないよ。会ったばかりだからな。人間社会というのは信用関係成り立っているんだ」
「信用って言ったって、無いに決まってますよ。会ったばかりですから」
「そういうことだ。つまり、信用というのは、究極的にはお金だよな」
「はあ……」
いきなり金の話とはシラケる。
「なんだ、乗り気じゃないな」
「モテたいという気持ちは人一倍あるんですが、お金はないんですよ」
「……そうか。残念だった。この出会いは残念な出会いだった」
ちらっと後ろを向くと、コンビニから店長が出てきた。店長は俺たちの様子に気付くと、何も言わずに戻って行ってしまった。
店長はどうでもいいが、この流れはまずい。せっかく違法降霊する現場を押さえられるかもしれないのに。
「安い方法はないんですか? なんとかお金を用意しますから」
金についてはあとで冴島さんに相談しよう。
「なら、一番安いヤツにしとくか」
「いくらですか?」
「二万だな」
「に、二万」
俺の食事代の倍…… そんな金が残っていたらキャベツなんて食わなくてもいい。つまり、何故俺がキャベツを食っているかというと、金がないからだ。
「フーゾクいくと思えばやすいだろう。兄ちゃんフーゾク好きそうだな。だろ? モテモテになれば、やりたいほうだいだぞ。すぐ元が取れる」
「……」
一体俺はどういう人間に見えるというのだ。モテない上に、スケベを人間にしたような顔なのだろうか。
「どうだ?」
「お金を。お金を用意させてください。時間もください」
「よ~し、よし。いい答えだ。お前、ここら辺に住んでるのか?」
「はい」
「じゃあ、ここの道を駅方向に言った道の先に、スナックがあるの知っているだろう? そうだな。明日の同じぐらいの時間に、そのスナックに来たら、方法を教えてやる。うまくやるとか、やならいとかはない。必ずモテるようにしてやるんだから信じてこい」
「スナックなんてありましたっけ? 後、明日も、ここのバイトがあるんです」
「アヤカ、ってスナックだよ。すぐわかる。まあ、少し早くてもスナックはやってる。バイトの前にこい。店に俺の姿が見えなかったら、『入道と話がしたい』って言えばいい」
にゅうどう、ってなんだろう、後で調べてみよう、と俺は思った。
「あと、お金が用意できなかったら」
「そん時はさようならだ」
「……」
おっさんはそのまま、駅方向へ帰っていった。
俺はスマフォで『にゅうどう』を調べた。『出家、剃髪して仏道に入ること』なんかしっくりこない。ああ、こっちか『転じて坊主頭の人』まさにその通りだ。
おっさんの姿が見えなくなると、すぐに店長がやってきた。
「追っ払うのはいいけど、仕事サボりすぎなんだよ。まったく」
お前はどんだけバイトに厳しいんだ、まったく。俺はそう思った。
夜中、商品を数えたり、並び替えたりしていると、来客があった。聞き覚えのある声の女性三人。おそらくわざとここに買いに来たに違いない。冴島さんと秘書の中島さん、そして蘆屋さん。俺はバックヤードに引っ込んで、三人の対応は店長に頼もう。見つかったら、冴島さんからも、店長からも、何を突っ込まれるかわからない。
「なんでお前がバックヤードに戻ってくるんだ?」
「えっと……」
女性客と話したら問題になるからでしょう、とは言えなかった。実際はその通りなのだが。
「女性客は苦手で」
「……」
店長は店内の様子を見、自らが俺に言った発言の数々を思い出したのか、交代してくれた。
俺は、バックヤードでの仕事が手に付かず、ただただ何事もなく過ぎ去ってくれと祈っていた。
すると、店長が戻ってくる。
「替わってくれ」
「えっ、まだ女性のお客様帰ってないじゃないですか」
「いいから替わってくれ」
「俺が女性を接客したらまずいんじゃ?」
「替われと言っているだろう」
俺はマスクをしたまま店に出た。もしかして、万一、このマスクで俺だと分からなければ何事もなく帰ってくれるだろう。
冴島さんと中島さんが同じレジについていて、後ろに蘆屋さんが並んでいる。
えっ、この状況で、店長下がるのはおかしくない? 冴島さんが文句を言ってきたとして、せめて後ろに並んでいる方を処理するとか……
「おまたせしました」
「影山くんワザと避けてた?」
「……(店長がうるさいんです)」
俺は小声でそう答えた。
「店長は私からちょっと下がってもらったから。それより至急確認したいことがあったのよ」
冴島さんが手で払うような仕草をした。おそらく何か術をかけて、引っ込んでもらったんだろう。そうでなければ、後ろに客を待たせた状態でバックヤードには下がらない。
「なんですか、至急確認って」
「家に大切なものとか残してないよね? 私達は、あんたが授業に出ている間に回収したんだけど。今、家の形がないから盗まれ放題なのよ。焼け跡の整理を業者に頼んではいるけど、必要だったら自分で探さないと」
「そ、そうですね……」
「ああ、ピンときてないみたいだから、はっきり言うけど、私が気にしているのは『あの屋敷の鍵』よ。鍵、家に置いていた?」
「ああ…… それならここにあります」
俺はキーホルダーに付けた鍵を取り出して、目の前にブラ下げた。
「……よかった。じゃあ、会計して」
「……あっ、えっと、俺の私物の話は?」
「ああ、あのパソコンとテレビはぐしゃぐしゃだったわ。燃えた後に、水もかけられてるから。私の服は見事に燃えて、回収できるものは一つもなかった。玲香の金庫を回収したぐらいね。さっき言った通り、業者に頼んでいるけど、自分で探す必要があったら自分で入ってね」
「……」
いや、もういい。大したものはなかった。どうせパソコンに入っていたものなんて、ネットから拾ってきたものだ。
「お会計は千三百七十二円になります」
「電子マネーで払うわ」
「こちらにタッチしてください」
電子マネー独特の音がなると、レジ側のレシートが印刷される。
「ありがとうございました」
冴島さんがどくと、代わって蘆屋さんがレジ前にやてくる。
ペットボトルの飲み物やら、食パン、お菓子類などを並べた後、最後にカラフルな小さい箱を一つ置いた。
えっ…… これって。『ちいさな家族計画』っていう奴では?
蘆屋さんは意味ありげに、俺を見つめる。
そしてうつむき、頬が赤くなる。
俺は一つ一つバーコードリーダーを当てていく。
例の小箱の品名を見る。カタカナで書いてある…… って、やっぱり、これは、アレだ。
こんなところで、言及するわけにもいかない。
同じ部屋に住まねばならない女性が、こんなものを部屋に用意しようという意味を想像し、いろんなところが熱くなった。しかし、それをここで勘づかれたりしたら嫌だ。俺は必死に平静を装う。




