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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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82/103

(82)

 反対側のドアは松岡さんが開け、そこからは冴島さんが降りてくる。

 松岡さんが車を駐車場へ移動させると、俺の前に屋敷が見えた。

 俺がいた、屋敷? 俺の家族といた、屋敷?

 この一年ぐらいの記憶はなく、この屋敷のことは覚えていない。一年以上前にもここに住んでいたのなら、そんなことが思い出されても変じゃないのだが……

「……」

 ぽん、と肩を叩かれた。

「あまり意識しすぎないことね」

 俺はもともと住んでいた部屋の方へ振り返り、荷物を抱え、部屋を目指した。

 階段の下に来た時、蘆屋さんがいないことに気付いた。

「どうしたの?」

「蘆屋さんがいません」

 蘆屋さんを探しに、俺は部屋の前に荷物を置いて車を降りたあたりに戻った。

 すると屋敷を見つめたまま、蘆屋さんが立っていた。

「蘆屋さん?」

 俺は屋敷側に回り込んで、蘆屋さんに正対して言う。

「どうしたんですか?」

「……」

 うつろな目をしていた。

「蘆屋さん? 大丈夫? 蘆屋さん!」

 俺の声が聞こえたのか、急に瞳に火が入ったようだった。そしてこう言った。

「お兄ちゃん!」

「おにいちゃん?」

 蘆屋さんは大きく頭を縦に振った。

「そう! お兄ちゃん」

「……何言ってるの。蘆屋さん部屋に入ろうよ」

 俺は少々強引に蘆屋さんの腕を引いて部屋の方に向かった。すると、

「違うよ! お家はあっち!」

 屋敷を指さし、逆に俺が引っ張られてしまった。

「どうしたの? 蘆屋さん」

「!」

 蘆屋さんが、急に力が抜けたように倒れ込んでくる。

 俺は慌てて蘆屋さんを抱きとめる。

 蘆屋さんがいたところには冴島さんが立っていた。

「何をしたんです?」

「この()、屋敷の近くに住み過ぎたのかも」

 なんのことだろう、ここに住んだ長さなら俺の方が長い。

「いや、そうじゃなくて」

 俺は冴島さんに見せるように蘆屋さんを揺さぶった。この()が起き上がらないのは何故か、ということを伝えたいのだ。

「ああ、ちょっと私の術で寝てもらっただけよ」

「……なんか変なことを言っていたのは何ですか」

「さっきも言ったけど、この屋敷に影響受けたのよ。あなたがきっかけになって、大学の近所で話していた時から、変だったけど、おそらくその何か霊が渦巻いてるんだわ」

 思い返してみた。確かに、教室にいる間はそんなに変ではなかった。

 具体的に引っ越したいと言い出してからだ。

「駐車場の時から変だった?」

「変じゃなかったら、あんたに向かって頬を染めるような女の子はいないわよ」

 自分の顔がムッとなると同時に、やはりモテていないことにショックを受けた。

「……」

 黙っていると、冴島さんはさっさと部屋に戻っていこうとする。そこで突然立ち止まると言った。

火狼(ほろう)を撃った霊弾は良かったわ。決戦まであの間隔を忘れないことね」

「はい…… って、ちょっと待ってください。決戦ってなんですか」

 冴島さんは屋敷を指さす。

「もうすぐあそこで始まるの。そうじゃなければ私達もここに来なかったろうし、その()もさっきみたいにならなかった。今度は決戦、になるわね。絶対」

「……」

 ここからでは、奥に立っている屋敷そのものは見えない。だが、まるで透けて見えるように、屋敷の様子が思い出された。橋本さんと冴島さんが力を出し尽くして、火狼(ほろう)を倒した戦い。次は、屋敷の中へ進むのだろう。そして、屋敷の秘密がわかる。そうなれば俺の記憶も…… 戻る?

「あれ?」

 冴島さんは部屋に戻ってしまっていなかった。俺は一人で蘆屋さんを抱きとめていた。

 蘆屋さんを部屋に連れていくのを手伝ってくれないなんて、酷い。

「お、重いよ、蘆屋さん……」

 俺は時間をかけ、蘆屋さんを引きずるようにして部屋に入った。




 蘆屋さんの目が覚めなかったので、俺は何も告げずにコンビニのバイトに向かった。距離が近くなった分、遅く出ても間に合った。

 制服に着替える前に店長に挨拶すると、店長は暗い顔をして、俺に言った。

「あの客……」

 店長の視線の方向を見た。成人コーナーの本を立ち読みしている髪の毛のないおっさんが立っていた。成人コーナーのエロい本を見ているとは思えないような、鋭い眼光。

 あれ? この男……

「もうかれこれ三時間になるだろうか、本の上のホコリを取ってみたり、床を掃除しじいったり、なんども邪魔だ、とアピールするんだが、帰ってくれんのだ。まったく」

「ハッキリ買わないなら帰ってください、って言えばいいんじゃ?」

「……わかってないな。まったく。二度とこなくなったり、悪い噂を立てられては困るんだよ。だから、やんわりと帰ってもらうんだ。わかったね」

「はい」

 男の姿を思い出していた。

 前のバイト先『ミラーズ』周辺で降霊していたあの男だ。

 こいつが、降霊をしている証拠をつかんで、殺人や窃盗の補助した罪を立証しなければならない。

 制服に着替えた後、俺は顔を隠す為にマスクをつけて男に近づいた。

「!」

 さして近づかないうちに、気付かれた。男は俺の顔をみて、首をかしげる。

 集中して読んでいたエロ雑誌を閉じて、棚に綺麗に返す。俺は怖くなって目をそらし、コンビニの外に出た。

 しかし男は店のガラスを通してずっとこっちを見て、近づいてくる。

 店を出てきて俺を呼び止めた。

「お前…… どこかで」

 橋本さんと追いかけた時に、結界に閉じ込められたのを男も覚えていたのだろうか。それとも、井村杏奈さんを助けるために入った公園でこのだろうか。もっとも、あの時は、顔をはっきり見るほど近くまで近づけなかったけれど……

「まあ、いい」

 アッと言う間に距離を詰めてくる。

「お前、モテないだろう?」

 とりあえず、バレてはいなかったようで安心した。

「な、なんのことですか?」

「女の子にモテないだろう? モテたくないか。いい方法を知っているぞ」

 俺の顔をみて開口一番、それっていうのは、どれだけモテないように見えるのだろう。大体、鼻と口は見えないはずだ。何を根拠に俺がモテないといっているんだ。モテないオーラでも出ているというのか。

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