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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(79)

(やつ)って?」

「上の階に逃げて行ったわ。あんたの言ってた赤いスーツの男」

 あいつだ、俺に虫を突き刺した男。

「体についていた虫の一つとすり替わって結界の中に入ってきたのよ。今は逆に出られなくなって困っているわけだけど、知らずにいたら殺られていた」

 すり替われるのか、だから俺に虫を撃ってきたんだ。初めからこの家に乗り込むつもりで…… 俺は怒りで痛みを忘れた。

()ってやる」

「物騒な言い方しないの。もう、かなり煙が上がっているからチャンスは1度だと思ってね」

 冴島さんが耳打ちした。

 冴島さんが防御の壁をつくり、それを盾にして俺が霊弾を撃つ。

「力はピンポイントに絞って、やつの眉間を撃ち抜くのよ」

「冴島さんを盾にするなんて……」

 冴島さんは階段を見上げている。

「あなたは手で弾くぐらいしか出来ない。また同時に撃たれたら食らってしまうでしょ」

「……」

 冴島さんを先頭にして階段を上がっていく。

 俺の暮らしている納戸である中二階を過ぎ、二階に上がる。煙が上に溜まっていて、冴島さんと俺は体を低くする。

「どうやら私の部屋にいるみたいね」

 秘書の中島さんの部屋は扉が開いていて、中が見えていた。赤い火狼(ほろう)がいるなら、冴島さんの部屋しかない。

「開けるわよ。眉間。一発で」

「……」

 冴島さんは前を向いていたが、俺は後ろでうなずいた。

 ノブを回しておいて、冴島さんは扉を蹴った。ベッド、タンス、机…… いない?

「上! 煙の中」

「見えません!」

 煙の中から、虫が飛び出てくる。

 冴島さんの体の周りに透明なアクリル球でもあるかのように、虫はぶつかって燃えてしまう。

「ほら!」

「見えない……」

 冴島さんは、腕を交差させて、避けるように構えた。

 再び何もない空間にぶつかって、虫が燃えてしまう。

「いいから撃て!」

「はい」

 俺は虫が飛び出てくるのを待って、出た瞬間に打ち返した。

 銃のように構えた指先から、細く青白い霊弾が煙の中を貫いた。

 相手の虫が、また冴島さんの体の前で燃えて消える。

「?」

 ベッドの上に、赤いスーツの男が落ちてきた。

 赤いスーツの男、火狼(ほろう)は右手をこっちに向け、睨みつけている。

「ごめん」

「なんですか急に」

「次で決めて。虫を防御するだけの霊力が持たない」

 冴島さんの肩が震えている。

 俺は冴島さんの後ろに隠れて、指先を相手に向けているだけだった。そんなに負担がかかることだったなんて、考えもせずに。

「はい」

 眉間だ眉間。

 俺が狙うと、冴島さんを中心にして死角へ動く。

 合わせて冴島さんの背後を動くと、今度は逆。

「家は燃えてるのよ、早く!」

 眉間にぶち込むには……

「行けぇ!」

 人差し指だけでなく、中指を伸ばして二本の指から霊弾をうつ。螺旋状にねじれながらお互いの進路を干渉しつつ、目標に向かって曲がりながら進む。

 火狼(ほろう)がものすごい形相で、俺の霊弾から逃げる。

 霊弾は逃げる火狼を正確にトレースするようにカーブして進む。

「やった?」

 腕が重なって当たった瞬間が見えなかったが、避けきれなかっただろう。

「!」

 火狼がこっちを睨みつける。

 命中し、貫いてはいたが、眉間ではなかった。奴の右目を貫いたのだ。右目を押さえている手からも濃い色の体液がつたって流れ落ちる。

 と、その時、冴島さんが俺にぶつかってきた。

「えっ?」

 倒れそうな冴島さんを支え、顔をみると目を閉じている。

「だ、大丈夫ですか?」

「いいから、逃げるのよ……」

「俺につかまってください」

 冴島さんを背負って、素早く部屋を飛び出した。炎と、煙と崩れかけた床。

「冴島さん……」

 首に回している冴島さんの腕の力が弱い。早く外に出ないと……

 背負いながらも、体を低く保ち、階段を降りると、玄関を蹴り開けた。

「お嬢様!」

 松岡さんが走り寄る。

 すると、急に松岡さんの背が高くなると同時に、腕や足に毛が見え始める。

「狼……」

 松岡さんは俺たちを通りすぎて、家との間に入る。

「(違う……)」

 冴島さんがちいさ声でそう言った瞬間、バキっ、と背後で大きな音がする。

「えっ?」

 振り返ると、焼け落ちた家の破片が降りかかってきていた。

「!」

 背が高くなった松岡さんが、飛び上がると、破片を蹴り飛ばした。

「松岡は、初めからあれを予測して」

「な、なるほど」

 俺は運転席の後ろの座席に冴島さんを降ろした。

 ぐったりした様子の冴島さんは、いつもの車のシートに安心したのか、自然に眠りについていた。

 四つ足で立っている松岡さんが、立ち上がったかと思うと背が引くくもとに戻っていった。

「さあ、今日はどうしましょうか……」

 松岡さんは運転席に戻ると、乗り込む前に俺に言う。

「大学はどうなさいます?」

「ああ…… そうですね。大学の授業があります」

 乗ってくれ、とをこっちに差し出した。

 俺はドアを開け、乗り込もうとして家を見返す。

 さっきまで俺たちがいた二階部分が真っ赤に燃え上がっている。

 遠くから消防車がやってくる音が聞こえる。

 俺たちの力では火事(これ)はどうすることもできない。

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