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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(78)

「そこ手で押さえないで」

「えっ、見えちゃうじゃないですか」

(はら)う必要があるらしいのね」

 俺は首を傾げた。どうもおかしい。適当に言っているんじゃないか。俺はかまをかけた。

「そんなこと書いてませんでしたけど」

「あら、バレちゃった? 個人的にちょっと興味があっただけなんだけど」

「個人的な興味の為なら手をどけましょうか?」

 (ぬさ) を振りながら期待しているような様子だったので、恥ずかしくなった。

「ウソです! 冗談です」

「……」

 中島さんはじっと股間の方を見ながら、言った。

「みみなし芳一の話って知ってる?」

「……ちゃんと祓わなかったここだけ持っていかれるとか、そういうこと言いたいですか? 私は信じません」

「ざんねん」

 いやいやいや。残念って、どういうことだ。見せた結果、ソチン認定されるだけだろう。いや、そうじゃなかった場合はどうなるんだ。俺は変な妄想を始めてしまった。

「!」

 なんだ…… 下腹部に痛みが……

「どうした、やっぱりそこ、祓っとく?」

「いいですいいです」

 俺は腕を軸にして手を振った。 




 ようやく家に入り、服を着ることが出来た。今から行けば二限目は間に合うだろう。

 準備をして階段を下りてきたところに、冴島さんが帰ってきた。

「お帰りなさい。仕事はどうしたんですか?」

「遅かったか……」

 冴島さんの視線が俺を見ている。自分自身の鼻を指さしながら、言った。

「俺? 俺がどうかしましたか?」

「そこよ。痛くないの?」

 冴島さんは小指で小さく指し示す。どう考えてもその方向にあるのは俺の股間。

 えっ? 股間? 俺の股間の話? 

「ごめんなさい冴島さん、もうバイトくん家に上げてしまって」

「玲香、もうちょっとメッセージとか気にしてよ」

「俺の面接の時、スマフォは低級霊にもイタズラされるから使わないっていったくせに」

「ぎゃあぎゃあ言ってないで、外に出て!」

「えっ? なんで? 俺、もう学校に」

 冴島さんが手を上げ、俺に命令(コマンド)を入れた。

「イタタ、痛い痛い……」

 腹が、下腹部が痛い。奥ではなく、肌が、肌が擦り傷のように表面が……

 立っていられなくなって、玄関口に転がる。手で痛い箇所を押さえると、肌の下で何か(うごめ)いた。

「まずい! 玲香、逃げて!」

「はい!」

「うわっ……」

 言いかけた直後に強烈な痛みが走る。手に動く何かが当たった。

「……なんだ今の」

 虫。いや多関節、多足だから、節足動物だろうか。下腹部は血でぬるぬるしている。

「影山、玲香、家を焼くから、外に逃げて」

「えっ? 家を焼くって?」

 倒れたまま俺は冴島さんに聞き返した。

「今の見たでしょう? 結界の中に侵入されたの。結界ごと焼き殺すしかないわ」

「玲香にはちゃんとやれって言ったのに…… やっぱり私がやれば良かった」

 股間の事か……

「みみなし芳一」

「こんな時、何言ってんの?」

 ジリジリジリと火災報知機のベルのような音がなる。

『緊急退避、緊急退避、この建物は三十秒後に発火します。繰り返します。この建物は二十八秒後に発火します……』

「なんですか、このアナウンス」

「早く立って外に出なさい」

 股間を手で押さえながら、よろよろと立ち上がった。

「冴島さんは?」

「結界の仕上げをする」

「俺もやり…… ぐっ……」

「早く行きなさい。大丈夫だから」

 玄関先で、秘書の中島さんが俺の手を引っ張る。

「……」

 引っ張られるがまま、俺は家を出た。

 ジーンズのベルトのしたあたりが破けて、血だらけになっている。そこを押さえながら、門を出た。

 松岡さんが車のところで立っている。

「お二人とも、早く車に乗ってください」

「けど、冴島さんが」

 松岡さんがうなずいた。

「車は出しません。シェルターとして使うだけです」

 俺はいつもの通り助手席に、中島さんは助手席の後ろに乗り込んだ。松岡さんは冴島さんが出てくるのを、外で待っている。

 ドン、と爆発的な音がして、車が揺れた。

「えっ?」

 身をよじりながら、家の様子を見た。

「松岡さん!」

「大丈夫。お嬢様に限ってミスはありません……」

 そういう過信って、死亡フラグじゃんかよ!

「俺が行く」

 俺は車を飛び出す。松岡さんが俺の腕を引っ張ろうとしたが、それをかわして走った。

「冴島さん!」

 玄関を開ける。瞬間、ドンっ、という爆発音。

 何か液体が全身に浴びせられ、目が開けれない。

 顔を手でぬぐって、目を開ける。

 血か、血のようなもので、俺が着ていたものは真っ赤になっている。

「冴島さん?」

 まさか…… 今の血って……

「冴島、さん?」

 居間に続く廊下で、ゆっくりと立ち上がる人影が見える。

 こ、こいつが…… 敵?

 長い髪が下がっていて、顔が見えない。

 すっと、白い腕が前に伸びてくる。

「手伝う気があるなら、そこ、早く閉めなさい」

「えっ?」

 冴島さんの声だった。

 俺は玄関に入ってすぐ扉を閉めた。家の中には焦げ臭いにおいと、煙が溜まり始めていた。

「い、今の血は?」

(やつ)が作った、魂のない肉体。それが破裂したのね」

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