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「神高って、ナカダイさんがいた、あの神高?」
「……ああ、いたいた。ナカダイだろ。同じクラスだった」
あいつ不良だったっけ? 確かに恰好は変わっていたけど、そんなに変な奴じゃなかったと思ったが。
「それ、ほんまにあのナカダイさんか?」
「知らねぇよ、お前が言ったんだろ」
その不良の後ろに一人やってきた。
「ナカダイさんの名前出せばビビるとおもっとンかい!」
「だから、ナカダイって、お前が言い出したんだろ?」
「何ヒトの名前いっとんねん」
不良が声がした後ろを振り返った。
「ナカダイさん! すんません」
ポケットから手を出して、直立した姿勢から、しっかりとしたお辞儀をした。
「ナカダイ?」
不良の陰から現れた人物は、確かに記憶の中にある『ナカダイ』と同じだった。
サングラスにリーゼント、黒いライダージャケット、同じく黒い革のパンツ。ジャケットから見えるシャツは真っ赤。私服は見たことなかったが、こんなはっきりわかる不良だっただろうか。
「おお、影山か。元気しとったか?」
高校のころと言葉のイントネーションが違う。俺は聞き直した。
「ナカダイ、なんでなまってるの?」
「そんな細かいこと気にするな。それよりどうしてこんなところにいるんじゃ」
「そこのコンビニでバイトだよ。お前こそなんでこんなところに」
「……ちょっとそのコンビニの前にな、変なグループが出張っておってな、シメに行くところじゃ」
「しめに?」
ナカダイの横で、さっきの不良が言う。
「シメるって、けんかじゃ。ぶちたおすんじゃ」
「こいつは初めてだから興奮しとるんじゃ」
こまったな、と俺は思った。こいつらと一緒にコンビニ入ったらまた店長に変な疑いをもたれてしまう。
「もうそれ始まる? 先にコンビニに入っていいかな」
「友達のくせに、手伝わんのかい!」
「こらっ。お前が何を言うんじゃ」
「すんませんナカダイさん」
するとナカダイは不良男の頭に手を乗せて、頭を上げさせなかった。
「こいつの言うことは気にするな。お前は喧嘩になる前に先にコンビニに入ってな」
「ありがとう。じゃ、またな」
「おう」
俺は軽く手を振ってから、急いでコンビニに向かった。
たしかに通りのあちこちに不良がたむろしていて、一触即発といった感じだった。
走っている俺をみて、どっち側の人間か、と確かめようとするのか、睨みをきかした視線が刺さってくる。
「ひぃ~~ まずいな、こりゃ」
コンビニの駐車場には、人がごったがえしていた。これでは一般の客がコンビニに入ってこれない。変な改造車が一台止まっていて、金属パイプや、バット、チェーンを手にもってすぐにでも喧嘩が始まりそうな状況だった。
俺はずっと続いている睨むような視線の中をゆっくりとコンビニへ向かって進んでいった。
一応、どっちのグループの人間でもない、と思うのか、俺の進む方を開けてくれる。
コンビニの自動ドアが開くか、ということろで中にいた店長が扉の方に近づき声を掛けてきた。
「急いで、もう勤務時間だよ。まったく」
「はい、すぐ支度します」
と、中に入りかけた時だった。
「お前、さっきナカダイと話してたな……」
と後ろから声を掛けられる。すると俺の前にバットが突き出され、後からモヒカン男がやってきて前を塞いだ。
「さあ、どういう関係か説明してもらおうか」
「……ふ、不良の仲間なのか、まったく」
そう言って、店長はコンビニの中に引っ込んでいってしまう。バックヤードまで逃げたかと思ったら、自動ドアが閉まって、そこにモヒカン男がいるにもかかわらず、扉は開かなくなってしまった。
バックヤードからちょっと顔を出してコッチを確認する店長に向かってつぶやいた。
「酷いよ店長……」
「ナカダイのダチかよ?」
両手を上げ俺は声の方を振り返った。
「違います」
学ランの前を開け、木刀を持った男がそこに立っていた。
「じゃ、なんでさっき話してたんだこらぁ!」
「高校の時、クラスが一緒だっただけで……」
しかもさっきまでそんな奴がいたことすら忘れていたのに。
「ダチじゃねぇか。ダチ決定」
妙に高い声のヤツがそう叫んだ。
「こいつ縛り上げて人質にしておきましょうよ」
「準備運動代わりにこいつからシメましょうよ」
一気に俺の周りに人が距離を詰めて、集まってきて、好き勝手な意見を言い始めた。
黒い服や鋲がついた服に囲まれ、服や腕を掴まれ始めた。
やべぇ…… 俺はここで死ぬのかも、と思った。どいつもこいつも馬鹿そうで、歯止めが効かなそうだ。集団でリンチされれば、誰が殺ったかあいまいになる。冴島さん…… 助けてください……
おぼろげに思い出される冴島さんは、手を上げて俺に命令を入れた。
「!」
そうだ。俺と冴島さんの場合は、間に契約があるからあんなに強く命令が効くわけだけど、霊力を使ってこの事態をなんとかすることが出来るのかもしれない。
俺は連中の顔に手のひらを向けるようにして、撫でるように動かした。
頼むから俺の事を解放して……
「?」
「なんだてめぇ。何するつもりだ?」
だめだ、効かない。
もう一度!
俺は意識を集中して、もう一度手を動かした。
「うざいから手縛って転がしとけ」
「おう」
「ふう……」
そう言って、俺はため息をついた。
冴島さんのように命令は入れなれなかったが、うざいと思われて、今すぐにボコられる危機は免れた。
俺は手首のあたりを後ろで縛られ、コンビニの外にある犬を係留する棒に引っかけられ、そこに座らされた。
「……」
「NSCが来たぞぉ!」
なんだ、NSCって、と俺は思ったが、この殺気からすればナカダイ・スカポンタン・クラブ的な相手のグループの名前なのだろう。
連中は持っていた武器を構えて、駐車場で陣形を組んだ。NSCとかいう連中が、俺が来たコンビニ左手の壁側からやってくる想定らしく、右側や、駐車場の裏の畑方向の狭い場所には誰も配置していない。そこを付かれたらどうするのだろう。確かに、裏の畑へ行く口は狭く、集団が入ってくることは考えにくい。しかし、右側は広い道になっていて…… そっちからくればやられる前に気付くか。そう考えて行けば、確かに悪くない陣形だ。
コンビニでまちかまえている連中の名前は分からなかったが、そいつらのせいで、NSCがそこに来ているのかどうなっているのかは全く分からなかった。ただ、じっと静かにしているということは、まだやり合っている訳ではなさそうだ。
見張りがいなくなっているので、俺は立ち上がれるか、チャレンジしてみた。
「いてっ」
足が伸びきるまえに、腕が突っ張って立てなかった。どうやら後ろで縛られている紐が、このペット用のどこかと結びつけられているようだ。
急に、駐車場の端で大声があがった。
急ブレーキを踏んだらしく、タイヤが軋む音がする。そして、車のクラクション。
「殺されてぇか!」
「やっちまえ!」
「駐車場の壁際に隠れてんぞ!」
どうやら、NSCの奴らにこっちの連中の作戦がバレたようだった。
怒号と喧噪に包まれ、複数名で囲んで叩き合う。しかし、やられっぱなしではなく、味方が助けにはいるので、やられていたかと思うと、今度は逆に集団の一番鈍いやつが敵にボコられる。次第にピンピンしている人数が減っていく。




