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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(72)

「おい、聞こえてるか?」

「だって、お顔は初めて見るんだもの」

「そんなのファンとは言わん!」

 俺の言葉に、冴島さんが反応した。

「まあ、無理もないわ。私、名前をつけて写真を公開したことはないから」

「ビルの完成祝いがあった時、しっかりテレビに映ってたじゃないですか!」

「私の名前は出てないはずだけど」

「見る人が見ればわかりますよ。あの映像は『ツベ』とかに転がってますからそれは間違いないです。だって、俺も何度も見ましたもん」

「えっ、何それ見たい!」

 その()が食いついてきた。

 冴島さんは冷静に言った。

「どうせ香山ユキのところだけ編集してんでしょ」

「その通りです」

「あーもう、これだから香山ユキのファンは嫌ねぇ〜」

 冴島さんはその()同意を求めるように言う。

「そんなことより、結局、君、誰なんですか?」

 俺はその()を指さして言う。

 その()は冴島さんから体を離し、頭を下げた。

「あ、申し遅れました。私、蘆屋(あしや)初音(はつね)ともうします」

 言い終わると、また冴島さんに体を擦り寄せた。

蘆屋(あしや)って、もしかして……」

 冴島さんが何か思い出したように言うと、蘆屋さんが言葉を足した。

「お察しの通り、私陰陽師(おんみょうじ)の家系です」

「おんみょうじ!」

 俺はなぞるように言い返していた。

 陰陽師(おんみょうじ)なんて漫画や小説でしかお目にかかったことがないキーワードだった。

「本当に陰陽師(おんみょうじ)っているんですね」

 冴島さんに抱きついたまま、蘆屋さんが言う。

「あんた陰陽師馬鹿にしてんの? 冴島様。こいつの代わりに私を弟子(でし)にしてください。こいつよりは優秀です」

「……」

「さすがに二人はおしえられないわ」

 そう言いながら冴島さんが蘆屋さんの体を押し返す。

「そういうこと」

 勝った。俺にモテ期は来ていないが、この女陰陽師には勝った。

「ひどい! こんな男がいいんですか。じゃあ、どっちが優秀か、勝負させてください」

「こんな男って…… 俺、影山(かげやま)ってちゃんと名前あるんだけど」 

「……影山? なんか聞き覚えがあるような…… いいわ。やりましょうよ」

「やってみる?」

 俺の方を向いて、冴島さんが笑う。

 さっきの状況からして、こっちはすぐそこにポチャン、で相手はライフル銃のように遠くを撃てる。別のことで戦うにしろ、俺が優れているところなどありそうもない。

 顔の前で手を振りながら言った。

「無理無理、無理でしょう。戦えませんよ」

「ほら、やる前から負けを認めてます。今すぐ、こいつの代わりに私を除霊士候補(でし)にてしてください」

「戦ってみたら?」

「だって、さっきの見たでしょう?」

「ええ。見たわよ。見たうえで言っているの」

 冴島さんには何か考えがあるに違いない。今すぐにやったら勝てるわけがないのだから、勝負は一週間後、とか言って、その間にあるジャンルの特訓をする。漫画やアニメでよくある展開だ。

「やるの? やらないの?」

「さ、冴島さんが言うなら」

「じゃ、決まりね」

 冴島さんが言うと、蘆屋さんがうれしそうに飛び上がった。

「冴島様。私を弟子にしてくださるんですね?」

「何を聞いてたんだ、俺と一週間後、ここで勝負して勝ったらだ」

「?」

 冴島さんは首をかしげる。

「そうですよね? 俺と冴島さんで一週間特訓して、ここで蘆屋と再戦して、俺が勝つ、ってやつですよね?」

「めんどくさいから、今戦ってよ」

「えっ?」

「そんなことひとっことも言ってなかったでしょ?」

「だって、今戦ったら勝てない……」

 冴島さんは、川の土手の方へ歩いていく。

「他の人の迷惑にならないように、川の中心の方で戦ってね。松岡、霊圧発生装置を引き上げて。壊されたら大変」

「えっ、冴島様、戦いの様子を見ていただけないのですか?」

「見るわよ。だた、ちょっと離れてみるだけ」

 言いながら、どんどん土手の方へ去っていく。

「松岡がこっちにきたら、始めていいわよ」

 蘆屋さんが川の方を指さす。

「そっち行きなさいよ」

「……」

 俺は足場が悪くならないように場所を選びながら、ゆっくり進んだ。

「私は式神でも陣でも術でもなんでもいいけど、あんたが学んだのはさっきの霊弾だけなの?」

 蘆屋さんは下を向いたままそう言った。

「式神は使うなと言われてるし、陣とか術とかは習ってないから、霊弾だけってことになる」

「なんだかメンドクサイ言い方。いいわ。私も合わせてあげるから」

「もう少し離れた方がいいよね」

 蘆屋さんは笑った。

「さっきの様子から考えて、近くにいたほうが有利だとかは考えないのね」

「えっ?」

 そういう事なのか? 俺の霊弾は飛距離は短いが、当たればすごい、とかそういうものだったのかもしれない。しかし時はすでに遅く、さっき飛ばした霊弾の三倍も四倍もの距離に離れてしまっていた。

 蘆屋さんは松岡さんと冴島さんの方を向いて、手を振る。

「はじめていいわよ~~」

 冴島さんの声が聞こえてきた。

「ってことで。これで私の勝ちね」

 蘆屋さんが、まっすぐ指をさして、霊弾を撃ってきた。

 避けるとか、逃げるとか、受けるとか、対応の時間は何もなかった。

 チュンッ、と俺の横に何かが着水した。

 見えないほど高速なのか…… 俺は恐ろしくなった。しかし、外れたのだ、こっちが当てればチャンスはある。右手の指で銃の形を作って、左手は右の手首を支えた。

 よおく狙って……

 チャンッ、とまた水が跳ねた。

 今度は霊弾の射出から飛んでくる様子が全部見えた。

 よし、俺も撃てる。

 チャプッ、と遠くで音がした。

「結構飛んだ」

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