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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(71)

「だ、か、らぁ〜 そういうのが、セクハラだって言ってんだろ!」

「……」

 冴島さんが俺の背後に回った。

 俺の肩、腕を触って上下させる。

「ピンポイントに集中させたければ、指を伸ばしてその先端から。広範囲に広げたければ拳全体から。そういう使い分けも出来るように」

「……この前やってみたようにしていいですか?」

「やってみて」

 冴島さんがうなずくと、俺は川下を見て指で銃の格好をつくる。

 集中して、霊を、霊圧を感じながら……

「ポチャッ」

 真下、というほどすぐそこではないが、霊弾として機能しないぐらいすぐ近くに落下した。

「……」

 冴島さんは正直な評価を言っていいか悩んでいるようだった。気を使っているということだ。

「いや、あの、こんなはずじゃ……」

 あの時、コンビニの駐車場から式神を狙ったときは、撃てた。もっと直線的に飛んで、式神を貫いた。ただ、式神にダメージはなかったが。

「もう一度」

「うん」

 少し遠くに飛ぶように。少し上目に狙いをつけて……

 ポチャッ、とすぐ近くの水面に霊弾が落ちた(・・・)

「大丈夫。初めてはこんなもんよ」

「なんかその慰めかたはやめてください」

 その時、俺の横の水面に何か着水した。

「!」

 続けて、もう少し近くに、チャプン。

「霊弾……」

 まるで本物の弾丸が撃ち込まれているような音がする。

 振り返ると、草むらに人影が見える。

「女?」

 冴島さんは姿勢を低くして、紙を取り出して、陣を書き込み、水平に紙を放る。

 紙はそのまま舞い上がったかと思うと、頭、羽根、尾のように十字の形をつくると、草むらの人影の方に飛んでいく。

「これが式神ですか」

 冴島さんが手にもつ、もう一枚の紙には墨絵が描かれている。その絵は、式神の動きに合わせて絵柄が変わる。初めは何のことか分からなかったが、書き換えスピードが遅い白黒動画だ。

 冴島さんが、スッと手を下げると、式神が急降下した。

 式神は霊弾を打ってきた人物の姿を映し出す。

「あれ?」

「もしかして知り合い?」

 冴島さんは人差し指と中指を伸ばし、くるっと手を回した。

 式神がまた急上昇してこっちに戻ってくる。

 冴島さんの手の平に止まると、十字の形が元の四角の紙の形に戻る。

 それをポケットに入れると、冴島さんが言った。

「松岡、連れてきて」

「はっ」

 松岡さんが会釈すると、すばやく藪の中を走っていった。

 以前、松岡さんは『忠犬』なのだ、と聞いたことがある。まさにそんな様子だった。

「あの、知り合いっていうわけじゃないんです。さっき大学の教室で顔をみただけで」

「顔を見たことがあるなら、十分よ」

 しばらくすると、声が聞こえてきた。

「放せよ、引っ張るなよ」

 松岡さんが手首をつかんで歩くのを、抵抗するように突っかかりながら歩いてくる。

 ショートボブに、ビビッドな口紅。白黒画像ではっきりとは分からなかったが、間違いない。さっき教室であった()だ。

 冴島さんは、霊圧を発生する機械のスイッチを切って、松岡さんの方へ進む。そして俺を手招きする。

 ショートボブの女は、冴島さんを警戒して睨みつけた。

「あなたがさっきの霊弾を?」

「……」

 言葉では答えず、首を縦に振る。

「危ない、ってことは分かっててやったわね」

「……」

「影山くんとはどういう関係?」

 冴島さんの問い詰め方が変な感じがして、俺は慌てる。

「どういう関係もさっき初めて話したぐらいですよ」

 俺がバタバタしていると見ると、冴島さんは手の平をこっちに向ける。

「黙って」

 完全に命令(コマンド)が入ってしまい、俺は口が開かなくなった。

「どういう関係?」

「別に……」

「……影山くん。この前の家族の写真を見せて」

 スマフォに入れている写真を表示させて、見せる。

「違った」

 当たり前だ、と言いたいが、命令が入っていて話すことが出来ない。

「あなた、お名前は」

「……」

「ごめんさいね。私は冴島麗子。除霊士よ」

「!」

 その()は急に体が震え始めた。

 やばい、何かしでかす気だ。

 けれど喋れない。

 俺はもう一度意識を集中する。

「冴島さん、危ない!」

「えっ?」

 俺の声に、冴島さんは振り返ってしまった。

 松岡さんが押さえていた腕を振り切って、その()が冴島さんに突っ込んでくる。

「冴島さん、後ろ!」

 冴島さんはその()の方を振り向くが、もう遅かった。

 バチッと二人の体が重なり合ってしまった。

「大丈夫ですか!」

 慌てて駆け寄る。まさか、ナイフか何かを……

「麗子おね~さまぁ…… まさかお会いできるなんて……」

「?」

「ど、どういうことですか?」

 その()は顔を冴島さんの肩や胸にこすりつけるようにしている。

「さあ、私にも分からないけど」

「私、冴島さんのファンなんです」

 その言葉に、香山ユキファンである俺の魂が叫ばずにいられなかった。

「お前、冴島麗子ファンと言うのなら、もっと早く気づいてるだろうが!」

 全く意に介さず、という表情だ。

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