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「バイト中に怪我をされたら、私が困るんだよ。まったく」
「すみません」
単純に、俺のことを心配しているのではないことを知り、ここのバイトが単純なものではなくてそれなりにブラックだったことを改めて思い出した。
それでも店長の位置を確認しながら、外の連中を見ていた。
連中のせいで、客が引き返してしまうようなら、追っ払う必要がある、と思っていた。
しかし、人数が七、八人になった頃、ぞろぞろと駐車場の端へとあるき始めた。
「ん?」
何か目的があるようには思えなかった。しかし、紐で引かれるように次々と去っていく。
「ちょっと影山くん。さっきも言ったろう、困るよ」
「いや、大丈夫ですよ。連中どっかに行くみたいですから」
言っている間に、駐車場に残っているやつが去っていった。
「ほら」
「……」
店長は少し喜んでいるようにも思えたが、クビを傾げていた。
確かに去っていく理由がわからない。
「ちょっと駐車場掃除してきます」
連中がたむろしていたところに、食べかすやゴミが散らばっている。それを片付けるふりをして、俺は連中がどこへ行くのか見極めようと思った。
コンビニの外に出て、箒とちりとりを取りに行く。
横目で連中を見てみると、コンビニの駐車場のすぐ二メートルほど下にある畑にいた。駐車場の端まで行き、様子をみる。連中は畑と畑の間の小道を、一定の間隔を開けて一人ずつ歩いて行く。
「なんだろう」
小道の先には軽トラが走れるような農道がある。そこに誰かいるようなのだが、遠すぎて見えない。
「ん〜」
誰からも目撃されるような位置なのに、遠いというだけで見えない。
鳥のように翼があれば行って見てくるのに……
「!」
そうだ、式神だ。
「ほら、駐車場の掃除するんじゃないのか。まったく」
店長に見つかって、俺は連中がたむろしていたところに戻り箒で掃除した。
掃除がおわり、道具を片付ける際に、畑の方を覗いた。
列になって歩いていた連中はいなくなっていて、何かしたような跡もなかった。
「なんだったんだろう」
裏のドアが開いて、店長に呼ばれた。
「ほら、お客さんだぞ」
俺は急いで店内に戻って、手を洗って、ぬぐってレジにつく。
「あっ……」
俺は思わず声を上げてしまった。
女性の一重の瞳はすこし垂れ目で、唇は薄かった。顔はスッキリとほそい感じだ。あれ…… 知っている女性、と錯覚してしまうような雰囲気。作り出す表情や、それらの配置やバランスが良くて美人であるということだ。しっかりメイクもしていて、ドキッとさせられる。
以前、ここですれ違った女性だ。
コンビニという性質上、二度とこない客か、何度も来る客がはっきりしていた。つまり、この女性客は何度も来る、近所の女性に違いないと俺は判断した。
「どうかしました?」
レジには商品がたくさん置かれていて、まだ一つとして俺はスキャンしていなかった。
「失礼しました」
俺が商品のバーコードをスキャンしては袋に入れていくと、女性が言った。
「どこかで会ったかしら?」
えっ、そのセリフをそっちから言うのか、俺はなんて返していいのか悩んだ。
「かげやま、さん?」
俺の名札を読んだらしい。
「はい」
「どこかでお会いしましたか?」
俺は首をかしげながら言った。
「そういうことはないと思います。強いて言えば私がバイトを終えて帰る時にすれ違ったことが1回」
女性は一点の曇りもない笑顔を見せた。
「そう、そうね。いちどここですれ違ったわ!」
笑いをこらえるようにしばらく口を押えてから、
「ごめんなさい。私だけ名前を知ってしまって。えっと、私は上村杏といいます」
すべてを袋に入れて、支払いをお願いするところだったが、俺はその名前を聞いて何かとつなげかけていた。
「うえむらあん、さんですか」
女性はうなずく。俺は自然と顔がほころんでいた。
その時、何か変な気配に気づいた。周りを見渡すと、店長が店の端から睨んでいる。俺は慌てて金額を告げた。
「千と五十八円になります」
「はい、ちょうどあります」
商品の袋を渡す時、上村さんが俺の手に触れた。
ハッとして、目を合わせてしまうと、上村さんは軽くウインクした。
「また来るわね」
手を胸のあたりで小さく振り、そう言って店を出ていく。
店長が睨んだまま、近づいてくる。
「ちょいちょい、何やってるの! まったく」
「はい?」
「はい、ぎもんけい、って、その言い方、私をなめてるの?」
胸倉をつかまれるのか、と思うほど店長は顔を近づけてきた。
「いいえ、なめているとかそんなことはありません」
「いい。お客さまと親しくなるのはリスクがあるんだから、バイトとして、そういうことをやらないでください」
そう言うと、バックヤードに戻りかけた。
「美人だったから?」
店長が足を止めた。
「お客様が美人だったからなんですか?」
こっちに振り返って、またズカズカと近づいてきた。
「そんなわけあるか。お前が客と仲良くなって、変な噂がたったり、お客と仲が悪くなった時どう責任とるんだよ。あの人、近所の客なんだぞ」
店長もそれくらいのことは考えていたのか、と思い言い返すのを思いとどまった。
俺は自分の制服をつまみ上げて揺らし、言った。
「バイトとしてじゃなければいいですね」
「ああ、その通りだ」
店長はバックヤードに入ってしまった。
俺はそれからしばらく無言で淡々と仕事をこなした。
すると、またそとの駐車場が騒がしくなった。
商品を整理するついでに、窓際を回って駐車場を確認する。一人、二人…… いや六人、七人。あ、またやってきた。
さっきと同じ場所に不良のような男たちが集まって、踵をべったりつけて座っている。
俺がのぞき込んでいることに気付くと、連中はぞろぞろと店内に入ってくる。
俺はレジ側に急いで戻る。バックヤードの扉が少し開いた。店長が見ているようだ。
店内を列をなしてぐるっと回っていくと、各々飲み物や食べ物を一つづつもって並んだ。




