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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら
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(6)

「けど倒産は目の前では起こらないでしょう?」

「それがそうとも言えないのさ。下請けの社長が来て、内装についてあの監督と打ち合わせしている最中に電話かかってきて」

「それまで倒産って感じでもなかったのに、突然不当たり掴まされてさ」

「ふあたりって?」

「手形が現金化出来なかったってことさ。現金がなければ会社はまわらないだろ。手形が何とかは、自分で勉強してくれ」

 俺には手形の話はよくわからなかったが、中島さんは、現場監督が疫病神、つまり何かに呪われているとか祟られていると言いたいことは分かった。確かにあの時の情緒の変わりようは、霊に乗り移られているせいかもしれない。これが正解なら、さっさと冴島さんを呼んで除霊してもらってバイト終了だ。

「なるほど」

「まあ、監督には近づかないことさ。怪我をするからな。怪我をしたら、会社が罰金を払わなきゃならないし」

「ああ、なんかそんなこと言ってました。それって本当なんですか」

 中島さんは足を跳ね上げて下ろし、ごろりと体を起こして立ち上がった。

「ああ、本当だ。だから気を付けてくれよ。さあ、ビルを一回りしながら、仕事の説明をしようか」

 そう言って歩き始めた。俺は中島さんの後をついて行った。




 俺はいったん家に帰り、明るくて眠れないながらも布団に横になって体を休めた後、夕方近くに家をでて、バイト先のビルへついた。工事現場ないのプレハブによってカードで出社操作し、ビルに戻って警備室に入った。制服に着替えると、中島さんが笑ってこっちを見ていた。

「ハハハ、寝れないだろ」

 今日からいきなり夜勤だったので、俺は昼間に家に帰ったのだった。

「はい」

「明日の昼間はぐっすり寝れるから安心しな。それと、今日お前と夜勤するのがこいつだ。紹介するよ」

 俺は紹介される人がどこにいるのかと、あたりを見回した。

「はじめまして」

 野太い声が、ゆっくりとした調子で話した。

 俺はビビった。ずっと見えていたはずだったのに、声を聴いて初めてそこに人がいたのに気付いたからだった。ゆっくりと確認すると、中島さんのずっと上に顔があった。

 その人は俺や中島さんと同じ制服を着ていたのだが、微動だにしていなかったせいか、大きすぎるせいか、それが人だという感覚がなかった。

「大きい……」

 思わず声にだしてしまった。

 中島さんの倍、まではいかなかったが、それに近い大男だった。

 俺の言葉に、恥ずかしそうに後頭部を掻いた。

「よくいわれます」

 無理もない、と思うと同時に、申し訳ない気持ちになった。

 これだけ大きいと、本人にとってみたら誇らしいことではなく、恥ずかしいことなのかもしれない。

「はじめまして。影山醍醐と申します」

「平田一男と言います」から

 中島さんが大男の腰を、後ろからパンと叩いた。

「平田はベテランだから、よくいう事を聞くように」

「はい」

「なんでもきいてください」

 俺は上を見上げると、平田さんは微笑みながら、また後頭部を手で掻いていた。

「じゃあ、俺は残りの仕事があるから」

 中島さんは机に座って書類を書き始めた。

「時間だから巡回しようか。影山さん」

「平田さん、俺のことは醍醐(だいご)でいいです」

「う~ん。(そういうのにがてなんだけど)」

 平田さんは何か小さい声でボソボソと言ったが、すぐに言い直した。

醍醐(だいご)さん、行きましょうか」

 いや、だから、『さん』もいらないんだけど、と思ったが、さっきの感じだと慣れてくるまで時間がかかりそうだった。

 俺はそのまま普通に返事をして平田さんの後をついて行くことにした。

 暗くなったビルの中を、平田さんが照らす懐中電灯と、俺の懐中電灯で見回りしていく。

 昼間にざっと案内された時とは、他人の数も違うし、全然違う感じがした。

「この、ビルのこと、聞いてる?」

「えっと、なんか一年以上こんな感じでいつまでもビルが完成しないって聞きました」

「そっ、なんだか、変、だよね」

 平田さんは何か、注意がそがれているのか、警備室にいた時よりしゃべりがスローになっていた。

「ああ、ここコンビニに、なる予定だったんだ。けど、会社がつぶれちゃった」

 二階のあるフロアに懐中電灯の光を当てながら、平田さんはそう言った。

「へぇ~ そうなんですか」

 光を当てて部屋の中を見るが、棚もレジも入っていない状態なので、ここがコンビニ、と言われてもピンとこなかった。

 一つ上のフロアは床は整っていたものの、天井はまだ入っていなかった。ガランとした天井は打ちっぱなしのコンクリートがむき出しだった。

 その上も、その上もやはり床は張ってあるものの、天井が抜けていた。

 電力系の配線がしてあるのかすらわからない。

 そうやって一つ一つ階段でフロアを上がっていったのだが、かなり上がったところで平田さんが言った。

「あのな、ほんとうはな、電気がいつとまってもいいようにな、階段をつかうんだが」

 平田さんはエレベータフロアに向かっていた。俺は意味を察した。

「まじめにやると疲れちまうからな」

 平田さんはボタンを押して、エレベータを呼び出した。

「皆さんエレベータ使うんですか?」

「いやぁ、大体の人は使うみたいね」

 エレベータがやって来て、ドアが開くと平田さんは頭を下げてエレベータに入った。

「じゃあ、俺も使っていいですかね」

「まあ、ね。しかたないよね」

 一つフロアを上がると、エレベータを下りた。

「あれ、ここは灯りがついてますね」

 灯りがついている、と言っても天井が作られて整っているわけではなく、内装工事用にライトがぶら下がっているだけだった。

 平田さんが何かに反応した。

「か、監督?」

 俺には見えなかったが、声が聞こえてきた。

「さっさと終わらせるんだよ。天井やるのに何週間かかってるんだ」

「ウチラが始めたのはまだ一週間前だ。何週たっても出来ないのはあんたのせいだと思うがね。騒ぎ過ぎなんだよ。下請けを舐め過ぎなんだよ」

「なめられるようなことしか出来ねぇからだろ」

 なんだろうこのやり取り。酷いな。そう思いながらも、俺は立ち止まっている平田さんを回り込んでフロアの中に入ろうとした。

「醍醐さん、今はいったら……」

「!」

 いきなり木刀を振り下ろされた。

 判断がよかったのか、動けなかったのかは分からなかったが、俺はどこにも木刀をぶつけることなく立っていた。

 木刀を振り下ろしたのは、現場監督だった。

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