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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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57/103

(57)

「もちろんです」

 橋口かんなは警部とパトカーにのり、殺人現場のある通りにつく。

「犯人らしい人物が逃げているのね」

「向こうのビルの上に」

「じゃあ、私たちはこっちのビルから行きましょう」

「橋口さん、ここでは遠すぎませんか?」

 橋口はビルの上を眺め、言った。

「大丈夫。ここの方が見通しがいいから」

 警部は意図を理解したように、他の警官は別のビルの屋上に向かわせ、自らは橋口と一緒のビルに入る。

 屋上の鍵を預かって、外に出る。

 周囲のビルがほとんど見下ろせる位置に出た。

 橋口が手すりまで進み出ると、周囲のビルの屋上を眺める。

「あそこが発見したビルね?」

 警部はタブレットで地図を見ながら言う。

「そうですね」

 橋口はビルの屋上をじっと見つめている。

 何かを投げるように手を軽く振る。

 警部には何も見えない。

「あの、何か投げた、んですか?」

「しっ……」

 橋口は口に指をつけて黙るような仕草をする。

 警部も橋口が見ている方をながめるが、なにも見えてこない。

「警部。あそこ、三つめのあのビルの屋上」

「はい」

 警部はすぐに無線を使ってビルを指示する。

「それと、周囲に逃げれないように周囲のビルの屋上にも」

「はい」

 同じように素早く人員をコントロールする。

「橋口さんはどうしますか?」

 橋口は、手すりを飛びこして、ビルの縁に立った。

「橋口さん?」

 トレンチコートを両手でもって掲げ、橋口は目的のビルへ飛び出した。

「!」

 警部がみると、橋口はトレンチコートをパラグライダーのように使って、下のビルの屋上へ滑空していた。

 警部は無言のまま無線のやり取りに戻った。




「どうした、まだ休憩が終わるには早いぞ」

「殺人犯がこのビルに……」

「えっ、どういうことだ」

 すると外にサイレンの音がして止まった。パトカーが来たのだろう。

「ん、なんだ」

 店長が言う。

「さっき警官がパトカー呼んでました」

「ちょっとまて、本当なのか?」

 俺はうなずいた。

 店長は慌てて店に入って、店の女子店員を集め、説明する。

「今、非常事態が発生した。殺人犯がビルの周囲にいるらしい。下手に逃げるよりはここにいた方が安全だ。店の外の掃除はいいからな」

『はい』

 全員の綺麗な声が返ってくる。

 俺はGLPを確認する。まだ『助逃壁』は復活していない。他のやり方を知っているのは『鉄龍』しかなく、果たして、さっきの拳法使いのような奴に通用するかどうか不安だった。

 何も考えずに竜頭をクルクルと回していく。

 連動して変わっていく画面を見ていると、早すぎて見えなはずの文字が頭に浮かんだ。なんどか進めたり戻したりするうちにその文字で画面を止めた。

 『黒王号』と書かれていた。

「こくおうごう……」

 店長がGLPを覗き込んで、言った。

「ん、こくおうごうだろ? 確かものすごい大きい馬じゃなかったかな。乗っている奴がちょーつええんだ」

「店長、中国語得意なんですか?」

 店長が興味を持ったようで俺のGLPを触ってくる。竜頭をクルクル回したり、画面をタップしてきたりする。

「ん〜 見た感じ、これ、中国語じゃねーんじゃねぇかな」

「えっ……」

 GLPが中国製、ということで俺はこの画面の言語は中国語だと決めつけていた。

「中国語じゃないんだ……」

「確かに漢字がやたら多いがな」

 俺はその『黒王号』というのがやけに気になっていた。すごい大きい馬なら、逃げるにも追いかけるにも都合が良さそうだ。なんなら『助逃壁』の代わりに壁となってもらってもいい。

「店長! 井村さんがまだ外でした」

「何!」

 店長は慌ててレジのところへ行く。俺もこっそりと後ろをついていく。

 昨日入ったばかりの井村さんが、外の看板を拭いている。

「なんか様子が変だ!」

 店の前に止まったパトカーを盾にするように警官が銃を抜いた。

「井村さん……」

 俺は何も考えずに店の入口から外に出ていた。

 警官が銃を向けた先にさっきの上下レザーの男がいた。

 井村さんは何も見えてないのか、看板を拭いている。

「そんなに足を伸ばしたまま身体を曲げると…… パンツが見えちゃう」

 いや、そんなことを考えている場合ではない。助けないと。

 独り言のせいで警官の一人が俺に気づいたようだった。

「キミ、下がって」

「あれウチの店員なんです」

 俺は警官の制止を振り切ってパトカーの前に出た。

 そうして、急いで井村さんの手を引く。

 上下レザーの男、つまり殺人犯に聞こえないように、小さい声で言う。

「(危ないよ! 早く店に入って)」

 ようやく周りをみて状況が飲み込めたようだった。

「(影山さんはどうするの、ほら、一緒に……)」

 井村さんが手を引くが、それを振りほどく。

「(大丈夫、俺は大丈夫だから)」

 井村さんが店に駆け込むのを見て、俺も店からの死角へはいる。そして、GLPの竜頭を押し込む。

「いでよ『黒王号』!」

 俺の足元から、真っ黒い馬が浮かび上がってくる。

 そのまま俺を背に乗せ、『黒王号』が現れた。

 かなり、高い。

「えっ……」

 犯人が、こっちを向いた。

「ラオウ……」

 俺はラオウ、と言われて身体のなかのスイッチが入ったようだった。

「お前が見たのは死兆星。俺と戦う運命だったのだ」

 自分で言っている、その言葉の意味がわからなかった。

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