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俺と除霊とブラックバイト  作者: ゆずさくら


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(53)

 あの恰好の女の子が、店の外で、メニューとかを張ってある掲示板を拭いたり、ドアを拭いている。高いところを拭こうとすれば、足が伸びるし、低いところを拭こうとすれば、お辞儀するような恰好になったり、足を曲げねばならず、腰が落ちたりするだろう。色々と想像すると、突然『えげつなっ』と思った。

 おそらくこれは掃除させているのではない。単に掃除のフリをして、新人を外に向けてアピールしているのだ。客寄せだ。キャ〇クラの客引きと一緒なのだ。

 俺は自分の想像によって、よだれが出ていることに気付き、慌ててハンカチでぬぐった。

 俺は急いで残りの清掃を済ませた。

 VIPからチーフが出て来る時には、店内の清掃を終えていた。

「カゲ、ちょっと」

「はい」

 俺はさっきの杏奈とかいう娘が見れるかと思って急いでチーフのもとに走った。

 ちらっとみると、もうVIPには誰もいなかった。

「明日、午前中から入れるか?」

「えっ……」

 俺は今日も朝から入っている、と言いかけたが、冴島さんが手を横に振る動作が頭に浮かんだ。

「そっか。入れるよな。お前は優しい、良いやつだもんな」

「は、はい」

 チーフはジェルでべったり後ろに流している髪に触れた。

「俺はちょっと店来れないけど、女の子に話しかけたりするなよ。厨房の監視カメラちゃんと見てんだからな」

「えっ、音声も入るんですか」

 ぐいっと、胸ぐらを掴まれた。

「って、お前話す気満々じゃねぇか」

「いえ、違います。違います。普通監視カメラって音声抜いてあるんですけど、ここのは違うのかなって」

「音はねぇけど話しているのはすぐわかんだよ。黙って仕事してくれな。頼むよ」

「……はい」

 冴島さんに頼まれた仕事があるのだ、簡単にクビになるわけには行かなかった。

 明日も朝から入らなければならない、となると結構早く起きねばならない。早く起きるには早く寝ないと。もうこんな時間だ、俺はGLPを見て時間を確認すると、チーフに頭を下げた。

「では、お先に失礼します」

「おう。早く帰って身体を休めてくれ。おつかれさん」

 俺は前掛けを自分用のフックに掛けて戻すと、最後のゴミ袋を作ってゴミ置き場に持っていった。

 ビルのトイレによって手を洗い、ついでに顔を洗った。

 薄暗い通路を通って、ビルを出ると、駅に向かった。

 駅の改札にICカード乗車券をタッチしようとすると、背中を突かれた。

「いてっ」

 振り返ると、店の面接を受けていた女の子がそこにいた。

「帰るの一緒の方向ですね」

「ああ、うん……」

 なんだろう、この態度は。人なつっこいだけなのか、俺に気があるのか。しょっちゅう自分に気があるのでは、と思って失敗してきている割には、その考えを捨てられない自分がいて嫌だった。

 ホームで待っていると、電車が入ってきた。

「この時間の電車ってちょっと怖いから、一緒にいてくださいよ」

 車内にはそんなに人が居るわけではなかった。確かに日中に比べると乗客の質が違う。酔っぱらい、チンピラ風、女の子も居るんだが、優しい雰囲気はない。

「いいけど、キミ、どこまで行くの?」

「神宿までです」

 都庁のあるところだ。そんなところに若い女の子が一人で住めるのか。それとも、いいところのお嬢様なのだろうか。

「えっ、そんなところにすんでるの? 家賃高くない?」

「シェアなんで」

 その言葉で、ちょっと印象が変わった。ただ、シェアと言っても、同性とのシェアハウス、なのか、同棲の言い換えなのか。その違いはかなり大きい。俺はそこまで突っ込んで聞く気にはなれなかった。

「そっかぁ、若いっていいね」

「えっと、そうだ。名前聞いてませんでしたね。私は井村って言います。お名前は?」

「へぇ、井村杏奈っていうんだ」

「あれ? 私、名前は言ってませんけど」

 井村さんは急に腕を身体にひきつけ、警戒した様子を見せる。

「あ、ごめん。俺、店で立ち聞きしちゃったんだ。本当にごめん…… 俺は影山醍醐」

「ああ。だから、『カゲ』って言われてたんですね。聞き間違えてて『ハゲ』って言ってるんだと思ってました。さっきから頭見て禿げてるのかなって」

 井村さんは無邪気に笑った。

「で、影山さんはどこまで行くんですか?」

「葵山だよ」

「えぇ…… そっちの方がびっくりです。葵山に住むって家賃いくらかかるんですか?」

「ああ、バイトの金じゃ住めないよね。……えっと、親戚の家に下宿してるんだよ」

 説明するつもりは端から無かったが、それでも冴島さんをどう説明していいか分からなかった。

 親戚、でウソを通せるだろうか。

「そうですよねぇ〜 いくらなんでもねぇ〜」

「まあ、お互い様ってことで」

 そんなことを話していると、葵山の駅についた。

 俺は降りると、電車が出発するのを見送った。

 井村さんは、扉のところに立って、ずっとこっちを見て手を振ってくれた。

「いい娘だなぁ……」

 電車が見えなくなると、俺はホームを離れた。




 多くの店が並ぶ通りに、たくさんのトラックが並ぶように止まっていた。

 朝のこの時間は、店のお客よりも店の商品を入れた段ボール箱の方が多い。

 トラックを降りるとせわしなく段ボールを台車に移し、それを店に運び入れる。

 通りに、また別のトラックがやってきて、店の前に止まった。

 トラックの運転手が降りてきて、荷物を入れる戸口に近づいた。

「ん? あんた、大丈夫かい?」

 戸口をふさぐように男が腰を下ろし、眠っていた。

 上半身裸に黒のレザーの袖なしジャケットをひっかけ、下も黒い皮のズボンだった。

「なあ、大丈夫なら、ちょっとどいてくれないか?」

 そう言って運転手が男の肩に触れると、急に立ち上がった。

「……」

 運転手も小さい男ではなかったが、立ち上がった上下レザーの男はもっと大きかった。

 二メートル、まではいかないが、それくらいの印象がある。精悍な顔立ちに、胸に七つの傷。

「おい。俺を起したのはお前か……」

 運転手は思わずバックステップして、何も言わず首を振った。

 あからさまに無視してやりすごそうとしていた。

「お前だなっ!」

 腕が動いたかどうか、はっきりしないほど早く、上下レザーの男は突きを繰り出していた。

 踏み出してとどくかどうか、という位置にいた運転手には何が起こったか分からなかった。

 当人からすれば、おそらく瞬間的に目の前にいた男が消えた、ように見えたろう。正確には後ろを向いているのだ。しかも、顔だけが。

 運転手が膝をついて前のめりに倒れたのに、顔は空を向いていた。

 運転手が死んでいることに、周りが気づいて救急や警察が呼ばれた時には、上下レザーの男の姿はなくなっていて、だれもその行先を知らなかった。




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